第2話「恋心(2)」
「雨依くん、じゃんけん弱いー」
「雨依くんが鬼ねー」
夜舞病棟の医院長から、お話があった。
雨依くんが、夜舞病棟を出ていくことになったって。
「羽乃架ちゃん、早く隠れよう!」
「うん……」
雨依くんは、世界で残り僅かしかいない魔法使い。
国からやって来た偉い人たちに、大切に大切に守られながら生きていくんだって聞かされた。
(雨依くんに見つからない場所……)
永遠に終わらないかくれんぼなんてものがあるわけないけれど、少しでも時間を稼ぎたかった。
(少しでもかくれんぼの足を引っ張って、雨依くんに迷惑をかけて、それで……)
夜舞病棟を出て行く時間を、少しでも遅らせたい。
それを、わがままと咎められるかもしれない。
それを、自分勝手だと幻滅されてしまうかもしれない。
雨依くんは、私のことを嫌いになるかもしれない。
「っ……ふっ……雨依くん……」
それでも、いい。
雨依くんが夜舞病棟にずっといてくれるなら、どんな罰でも受けます。
だから、雨依くんを連れて行かないでください。
そう必死に願いを込めながら、入ることすら躊躇われるような光の差さない部屋に身を隠した。
でも、どんなに足掻いたところで、雨依くんとの最後のかくれんぼはもうすぐで終わってしまう。
「羽乃架」
私が見つかったのは、かくれんぼに参加した子どもたちの中では最後。
ある意味では作戦が成功したけれど、こんなに短時間で雨依くんに見つけられてしまった。
私の抵抗なんて、何も意味がなかったということ。
私は次から次へと溢れてくる涙を拭いながら、部屋を去る準備を整える。
「羽乃架……」
雨依くんに、迷惑をかけている。
声色が変わったのが分かって、急いで涙を止めようと心を落ち着かせる。
「雨依くん……」
雨依くんとの、別れの時間が近づいている。
「ありがとう……」
人を殺す可能性を持つ子が、誰かに恋をしていけないと思っていた。
けど、恋心は隠しながら生きていくことができるって気づいた。
雨依くんへの好きという感情を抑えて、自分の心の中には雨依くんを好きだという気持ちを大切にしてきた。
舞い散る雪にように、深々と恋心は降り積もっていった。
それなのに……。
「私……」
神様から、罰が下される。
「雨依くんのことが……」
自分の心に留めておかなければいけなかった感情を、|人を殺す可能性を持つ子《私》が大切な人に伝えてしまったから。
「ずっと好き……」
好きと言葉にした瞬間、遠くで鐘の音が鳴った。
鳴り響く鐘の音は、誰かに幸せを運んでいると言われている。
今日も、鐘の音が鳴り響く。
今日も、誰かが幸せになった。
でも、空から鳴り響く鐘の音には、こんな噂もあるって聞いたことがある。
空から鐘の音が鳴り響いた、その瞬間。
この世界を生きる誰かの記憶が消されているって。




