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これが最後の恋になりますように  作者: 海坂依里
第4章「国立魔法学院」
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第4話「きっと世界が迎え入れてくれるんじゃないかって期待」

「このフクロウちゃんが魔法で操ったものなら、最高だったんだけどね!」


 音緒(ねお)さんの声には悔しさが込められているように感じたけど、その声とは違って表情はとても晴れやかに見えた。

 音緒さんの可愛らしい笑顔は、何事も楽しみたいという音緒さんの前向きな気持ちを伝えてくる。


(音緒さんの笑顔、凄く素敵)


 人を殺さないように。人を殺してしまわないように。

 感情を押し殺したような生き方をしてきた自覚がある。

 でも、そんな生き方をしてきたせいで、自分を支えてくれた人たちには、とても心配をかけてきたかもしれない。


「動物芸……鳥の芸が終わったところで、羽乃ちゃんたちを大樹の元へ案内したいんだけどねー……」


 私たちが音緒さんたちの催し物に気づくことができたのは、たまたま音緒さんのクラスメイトである男子生徒が魔法樹のことを教えてくれたから。

 そんな音緒さんのクラスメイトさんたちの仕掛けは校舎内のあちこちで行われていたらしく、魔法樹の並木道は混乱を来たしてしまうくらい多くの人たちで賑わいを見せていた。


「これじゃあ、ゆっくりするどころじゃないよねー……」


 ふと目を離すと、遥叶(はると)のことも音緒さんのことも見失ってしまいそうなくらい人で溢れ返っている並木道。

 それを残念に思う気持ちもあるけれど、これだけ多くの人たちに囲まれる経験も初めてで心臓が激しい音を立て始める。


「魔法樹自体はね、珍しい物じゃないんだよ」


 四季に合わせた色の花びらを降らせる魔法樹は、街を見渡せばどこででも見つけることができるらしい。

 けれど、並木道の先にある国立魔法学院の大樹は世界一の大きさを誇っているということを音緒さんは教えてくれた。


「その大樹が降らせる花びらも圧巻なんだよね~」


 こんなにも大人数が大樹に押しかけている状況では、魔法樹の趣を感じることができないと音緒さんは頭を捻らせた。


「よし!」


 私と遥叶は並木道が魅せてくれる真白の花びらを見るだけでも感動したけれど、音緒さんは私たちにどうしても大樹を見てほしい。

 これ以上の感動を伝えたいという熱量を持って話しかけてくれる。


羽乃(はの)ちゃんたち、先にお昼ご飯に行っておいで」


 音緒さんに言われて、時計の針が想像以上に進んでいたことに気づかされる。

 こんなにも時間の進みを早く感じたのは、人生で初めてのことかもしれない。


「音緒さん!」

「羽乃ちゃん? どうかした……」

「軽食を購入できる場所を教えてください!」


 義務ではないと分かっている。

 でも、これは私が率先してやりたいと思ったことだから。

 これは、私が雨依様のためにやりたいと思ったことだから。


「いらっしゃいませ、羽乃架さんに遥叶様」


 私は飲食店の出し物をやっている氷姫(ゆきひ)さんのクラスを訪れ、雨依様に昼食を持参したいという旨を伝える。

 すると雨依様の昼食を作ることを大役だと感じてしまった氷姫さんのクラスメイトさんは、相当な重圧を抱えながら調理に向かって行った。


「遥叶は……」

「羽乃架の家族との食事は堅苦しそうだから、適当に飲食できそうな場所を探す」

「お二人とも、お持ち帰りができるように準備いたしますね」


 私たちの昼食を準備してもらっている間、氷姫さんは雨依様がいる研究棟と呼ばれる場所の地図を書いてくれた。


「研究棟とは呼ばれておりますが、特別な許可なく自由に立ち入ることができるようになっています」


 それでも、率先して雨依様の元に向かう方はいない。

 そんな寂しい話を付け加えられて、文化祭という催しに高鳴っていた心は急に落ち着きを見せ始める。


「羽乃架を待っている間、あちこち見学したいなって思っているんですけど」

「それも可能です。進入禁止の場所は施錠がされておりますので、遥叶様が危険な目に遭われることはないと思われます」

「ありがとうございます」

「何かありましたら、学生服を着ている方に話しかけてくださいませ」


 遥叶と氷姫さんのやりとりを耳にして、国立魔法学院の探索をする遥叶のことをほんの少し羨ましいと思ってしまった。

 もちろん雨依様との食事時間のあとも私たちには時間があるけれど、限りある時間であることに変わりはない。

 限られた時間だからこそ、文化祭を満喫しようとしている遥叶の前向きさに心を動かされた。


「お待たせいたしました」


 氷姫さんの後ろで、興味がありながらも震えて私たちの様子を伺うクラスメイトのみなさんが視界に映り込む。

 確かに雨依様は魔法界の権威なのかもしれないけど、普段の雨依様はとても優しい人だってことを伝えたくなる。


「じゃあ、俺は一足先に失礼します」


 遥叶は氷姫さんから注文したものを受け取って、忙しなく場を去ってしまった。


「ある程度時間が経ったら、研究棟の入り口まで迎えに行く」


 そんなに急いで、どこに行くの?

 そう尋ねたくもなるけど、向かいたい場所があるってことは遥叶に新しい興味が生まれてくれたってことでもある。

 今日は私が強引に誘うようなかたちになってしまったから、遥叶の世界が広がってくれたのなら私も嬉しい。


「羽乃架さんは、お一人で大丈夫……」

「何かあったら、学生服を着ている人に話しかけてみます」


 先程の遥叶と氷姫さんの話を思い出して、何か困りごとが生じたときにどうするか。

 きちんと二人の話を聞いていたことを主張すると、氷姫さんは再び柔らかい笑みを浮かべて私のことを見送ってくれた。


「………こんなにも美しい世界で、生きていてもいいのかな」


 独りになることで、ぽつりと零れた言葉。

 誰にも聞かれることがないくらい小さな声で、私の独り言は零れていった。


(綺麗……)


 空の青は、一年を通して変化することがないって話を遥叶から聞いたことがある。

 それでも私が眺めている空の青は、とても深くて濃い色を魅せているような気がする。

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