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これが最後の恋になりますように  作者: 海坂依里
第4章「国立魔法学院」
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第3話「旅立つ季節」

「あの……初対面の俺が言うのもなんですけど、適当にそれっぽいことを言うのは誰にでもできる……」

「ありがとう、灯花(ひばな)さん」


 私たちの会話は、多くの人たちに聞かれてしまっている。

 それは文化祭の出し物の中で占い屋さんが流行っていない証拠でもあるけれど、私は灯花さんが所属するクラスメイトさんたちにも自分の話を聞いてほしい。

 そんなことを思ってしまったから、この環境は私にとって凄くありがたいものだった。


夜舞(よまい)病棟を出るって……凄く勇気が要ることだったから……」


 ただ、幼い頃からお世話になってきた児童養護施設から旅立つだけのこと。

 世間一般の人たちは、そんな認識だと思う。

 でも、実際に夜舞病棟を旅立つ私たちの心境は少し複雑。


「不安だらけで……希望の抱き方もよく分からなくて……」


 夜舞病棟で育った子どもたちは、外の世界に出ることを許されていなかった。

 私たちは、外の世界と隔離された生活をずっと送ってきた。

 不安の整え方も勇気の備え方も何も分からないまま、旅立ちなさいと言われた。


「こうして、未来を広げる言葉を灯花さんからもらうことができて……」


 だから……。


「とても幸せです」


 感じるままに。想うままに。


「夜舞病棟の外に出たあとも、私と仲良くしてください」


 自由に、気持ちを伝えようと思った。


「そんなの……」


 これからを生きていくことを怖いと感じずに済むのは、これからを生きていくことに幸せを感じられるのは、外の世界に優しい人たちがたくさんいるってことに気づくことができたから。


「当然に決まってるでしょ!」


 灯花さんの言葉をきっかけに、教室にいた人たちから盛大な拍手が巻き起こった。


「夜舞病棟の人が来るって聞いてたよー」

「病棟って場所だから、体弱いのかな? 気分は大丈夫?」


 そして、私たちは灯花さんのクラスメイトさんたちに囲まれる。


「国立じゃなくなるから学費が高くなっちゃうんだけど、魔法学院に来てくれたら嬉しいなー」

「一緒に魔法街道を邁進しよう!」


 占い屋さんに、お客さんがほとんどいないことには寂しさを感じた。

 けれど、お客さんがほとんどいなかったおかげで、私と遥叶は多くの優しい人たちと出会うことができた。


羽乃架(はのか)、変わったな」


 灯花さんの教室を後にした私たちは、人で賑わう校舎の探索を楽しんでいた。


「変わるって、怖いことだったんだけど……」

「怖い?」

「ううん! 遥叶(はると)に、そう言ってもらえるのは嬉しい」


 一人の男子生徒が遠くの方から勢いよく走ってくる姿が視界に入る。

 勢いは感じられても、人とぶつからないように配慮した走りをしていた。

 そして、その男子生徒は廊下の窓を強い勢いで開放した。


「っ」


 すると、数えることも難しい数の花びらが窓から風に乗って運ばれてくる。

 優しい数とはほど遠いほどの大量の花びらが、廊下にいる人々の視界を夢中にさせる。

 話をしていた人たちは話をやめ、歩いていた人たちは足を止め、純白色の花びらたちが廊下を雪景色のように白く染め上げていく姿に魅了されていく。


「綺麗……」

「花吹雪ってやつ?」


 遥叶が口にした花吹雪という言葉は知っていても、こうして花吹雪を目にする機会は今までなかった。

 初めての体験に言葉を失いそうになるくらい心が動かされて、心臓が少し速く動き始める。


「雪みたい……」

夜舞(よまい)病棟……懐かしくなるな」


 真っ白な花びらたちは、私たちの視界を白銀世界へと誘っていく。

 舞い続けているのは雪ではないと分かっていても、それが雪に見えてしまう不思議な感覚。

 長年築き上げてきた思い出が、雪を恋しくさせているのかもしれない。

 でも、抱いた気持ちは寂しさだけではなかった。


「息ができなくなりそう……」


 私たちが生きる世界は、夜舞病棟()だけではない。

 私たちが生きていく世界は外にも待っているんだと、真白の花びらたちが私のことを励ましてくれているようにも感じた。


「綺麗だったね」


 花びらが舞い散ることをやめそうになる頃合いに、辺りからは歓声が巻き起こった。

 拍手を浴びた男子生徒は騒動を詫びると同時に、この花びらの正体を文化祭に参加しているお客様に説明してくれた。


「行ってみる?」

「うん!」


 雪が敷き詰められているわけではないのに、私と遥叶が通る道は白い色で埋め尽くされていた。

 歩いても歩いても足が冷たくなることはなくて、雪の冷たさを感じないことに心臓が高鳴る。

 そして、高鳴った心臓は寂しさをも訴えてくる。

 忘れないで、雪が降り積もる季節もあるってことを忘れないでって。


音緒(ねお)さん、お邪魔しています」

「おぉ~、羽乃(はの)ちゃんに夜舞病棟のお友達さんだねっ」

「遥叶です」

「遥叶くんだね! ようこそ、ようこそだよっ」


 男子生徒の説明に従いながら歩を進めていくと、そこには案内係を務めている音緒さんのクラスメイトさんたちが多くの来客を出迎えてくれていた。


「ではでは!」


 音緒さんは咳払いをして、これから大事な話をしますと言った雰囲気を作り出してくる。

 その咳払いが合図だったのか、どこかから茶色い羽をぱたぱたとさせたフクロウが飛んできた音緒さんの肩へと降り立った。


「春は、桃色の花びらが」


 音緒さんが、目の前に広がる並木道へと手を翳す。


「夏は、純白色の花びらが」


 音緒さんの綺麗な指先に導かれるように、私たちは並木道を形成する木々へと目を向ける。


「秋は黄色の花びら、冬は空色の花びらが」


 数えきれないほどの真っ白な花びらが今も舞い続けているのに、花びらは永遠に失われることがないと木々たちは誇りと自信を持っているように見えた。


「四季に合わせて花びらの色を変える、魔法樹の世界へようこそ」


 今度は、音緒さんのようこそと言う言葉が合図だったのかもしれない。

 音緒さんの肩に乗っていたフクロウは、花びらの中を駆け回るように華麗に舞い上がっていった。

 ほんのわずかな時間の空中飛行を楽しんだフクロウは、次の目的場所へ向かうため私たちの視界から飛び去っていった。

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