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これが最後の恋になりますように  作者: 海坂依里
第3章「夜舞病棟に戻って」
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第4話「大切が、重なる」

「ここが、夜舞(よまい)病棟の図書室です」


 古い建物特有のぎいっとした音を立てながら、私は扉を開いて雨依(うい)様を図書室の中へと案内した。


羽乃架(はのか)さん、このメモに書かれてある本を集めてもらえるかな」

「はい、お手伝いさせてください」


 図書室に入り浸るようにしていた私にとって、指示された本を探すことに苦労は感じない。

 だからこそ雨依様を見る余裕があって、雨依様の動作を観察する余裕すら生まれて、一つだけ気づいたことがある。


(……雨依様も、本を見つけるのが早い……)


 ここは司書が本を管理しているような立派な施設ではなく、夜舞病棟で暮らす子どもたちが好き勝手に本を読んでいい場所。

 そういう事情もあって、本棚に並べられた本たちは何かの基準に沿って並んでいるわけではない。


「…………」


 適当に並んでいるだけの本だと思っていたけれど、何かしらの法則に基づいて整理されていたのかもしれない。

 その法則にいち早く気づいて、作業を早く終わらせようとしている雨依様は格好よく見える。


「羽乃架さん」


 格好いいという気持ちを抱いたことが伝わってしまったのかのようなタイミングで、私は雨依様に名前を呼ばれた。

 心臓が跳ねたことを隠しながら、私は雨依様の元へと駆けつける。


「あ、ごめん……。ただの世間話をしようと思っただけで……」

「雨依様のお話を聞かせてください」


 幸いにも、雨依様に頼まれている仕事は早く片づけることができそうだった。

 そう思った私は雨依様の元へと足を運び、直接雨依様の声を聞きたいと思った。

 でも、雨依様は窓硝子の向こう側の景色を眺めていることに気づく。


「……雨依様?」


 一緒に、窓硝子の向こう側にある景色に視線を向ける。

 雨依様が見つめる先には、今も消えていない雨依様の虹の魔法に心を輝かせている子どもたち。そして、いなくなってしまった雨依様の代わりを務める遥叶(はると)がいた。


(みんな、楽しそう……)


 大好きな人たちが笑顔溢れる空間を形成していて、あ、私もみんなの輪に混ざりたいと思ってしまった。


「子どもたちが楽しそうで良かった」


 庭に向けられていた雨依様の視線は私の元に戻って来て、私も窓の向こう側に憧れを抱くことをやめた。


「雨依様のおかげです」


 こんなにも温かい言葉と気持ちをもらってきたのだから、あとは未来をより良くする方法を探していくしかない。

 私が人を殺す可能性のことを考えるより、私を支えてくれる人たちを幸せにする方法を考えたい。

 そう思って、雨依様に尋ねてみたけれど、雨依様の口は重い。


「あの、雨依様。具合が悪いときは、声をかけてくださいね」

「ありがとう……うん、……っ!」


 私たちは図書室で目的の本を探す作業を再開しようとした。

 一瞬、雨依様から目を離した隙に雨依様は手にしていた本を落下させてしまった。


「雨依様!?」

「ごめん……何から何までかっこつかなくて……」

「お怪我は……」

「大丈夫、ありがとう……」


 雨依様は落とした本を急いで拾い上げると、その本は雨依様の腕にぎゅっと抱きしめられた。

 とても大切な物らしくて、雨依様はまるで本を外敵から守るように自身の腕の中へと閉じ込めた。


「え……」

「羽乃架さん?」

「え、あ、どうして絵本が二冊……」


 どんなに大切に抱えられたとしても、雨依様の腕だけでは本全体を覆うことができない。かすかに見えた表紙は、その本が私にとっても大切なものだと教えてくれた。


「元々図書室に寄贈されていたものと、俺が寄贈したものかな……」


 私が、幼い頃から大好きな絵本。

 雨依様と出会って、雨依様から初めてもらった贈り物でもある絵本。

 魔法使い様が、魔法の力で世界中に幸せを贈るという内容の物語の絵本。


「気づかなかった……かな」

「あ……はい」

「そっか……」


 大好きな絵本が、夜舞病棟に二冊もあったことに驚かされる。

 それだけ膨大な量の本たちが寄贈されているということでもあり、やはり図書室に置かれている本は適当に並んでいる。

 だから私は、大好きな絵本が二冊あったことに気づかなかったのかもしれない。


「多分、羽乃架さんが親しんでいたのは、棚にある古めかしい方かな」

「あの……」


 雨依様が、私が大好きな絵本を大切に抱えてくれていることが嬉しい。

 けれど、そこまで絵本を大切にされている理由が分からない。


「雨依様も、その絵本がお好き……ですか?」


 夜舞病棟に隠された秘密に囚われ過ぎて、雨依様のことを何も伺うことができていなかったことを思い出す。


「大切に抱かれているので……」

「あ、え、あ、そっか……」

「雨依様……?」


 雨依様が好きなもの、夢中になれるもの、嫌いなもの、親しみを持つことができないもの。

 それらを知ろうとすることすら、私には許されないかもしれない。

 けど、それらを知ることで雨依様を幸せにできるのなら、これからたくさん言葉を交わしていきたい。


「ごめん、無自覚だった……」

「何が……」

「羽乃架さんが好きな絵本だって聞いたから、その、俺も大切にしたいっていう意識が働いて……」


 雨依様に抱きしめられていた絵本は解放される。

 本が寂しさを抱くわけがないと分かっていても、雨依様の元を去る運命を持つ絵本たちから寂しいという声が聞こえてくるような気がする。

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