第2話「〈外〉で出逢う」
(本当にいろんな本がある……)
こんなにも大きな図書館の利用の仕方は分からなかったけれど、魔法司書と呼ばれる方に声をかければなんでも教えてもらえるという仕組みになっていた。
初めて国立図書館を利用する私でも、緊張せずに事を進められそうなことに安堵しながら私は歩を進めていく。
(絵本置き場……)
雨依様の仕事が終わり次第、私は次にへと連れて行ってもらう。
その書店で、私は人生で初めての……自分の部屋の書棚に並べるための本を購入する。
図書館では、書店で購入したくなるくらい好きな本を見つけるという任務が課せられている。
ただそれだけのことなのに、図書館を利用するという初めての経験は私に溜め息をもたらしてしまう。
(私が選んだ《《好き》》は、雨依様の家族に気に入ってもらえるかな……)
好きを見つけるって、難しい。
夜舞病棟の外に出て、自分の《《好き》》を見つけることの難しさを痛感する。
「…………声?」
静まり返っている図書館の中で、ひそひそとした声が聞こえてくる。
何を喋っているかまでは分からないけど、そのひそひそ声は私に向けて放たれているように聞こえてしまう。
(図書館の利用の仕方が間違っているとか……?)
視線を本棚へ向けるのではなく、後ろを振り返って視線を変えてみればいい。
そうすれば、このひそひそ声の正体が分かるかもしれない。
だけど、後ろを振り向く勇気がない。
(私が悪かったら、そのときはちゃんと謝ろう……)
何が原因か分からないのに、先に謝るのは違うと思った。
何が原因か分かってから、言葉を進めていこう。
そんな決意を固めて、後ろを振り向こうと心の準備を整えて……。
「あの」
心の準備を整える前に、事件は起きた。
突然、肩をとんとんと叩かれる。
自分の近くに人が気づかなかった私は驚きのあまりに大きな声を上げてしまって、肩をとんとんと叩いてきた女の子。
そして、ひそひそ話を繰り広げていた二人の女の子。
それに私を加えた合計四人で、図書館を利用している人たちへと謝罪した。
「いや~、参ったね~」
「あなたたちが陰口みたいなこと繰り広げていたからでしょ!」
「羽乃架さん、お紅茶はお好きですか?」
図書館を利用している人たちに迷惑をかけたことを謝罪したのちに、私は図書館に併設されている喫茶スペースへと案内された。
「本当にごめんね! まさか羽乃ちゃんに陰口と勘違いされていたとは思ってもみなくて……」
私のことを羽乃ちゃんと呼んでくれたのは、音緒さんという名前の女の子。
物凄くスタイルのいい女の子で、まるで雑誌で活躍するようなモデルさんのよう。親しみやすい話し方と声で、場の空気を明るいものへと変えてくれる。
「その節は、大変失礼いたしました」
丁寧な話し口調が特徴的で、穏やかで優しい空気に包まれている女の子の名前は氷姫さん。
夜舞病棟では見かけることのなかった真っ白な髪色が美しすぎて、まるで物語に出てくるような氷の国のお姫様みたいな可愛らしい雰囲気をまとっている。
「でもでも、羽乃ちゃんを驚かせたのは灯花ちゃん……」
「は? 私は、羽乃架が勘違いしないようにと思って……」
私の名前を呼び捨てで呼んでくれる、初めての女の子。
灯花さんの凛とした声が綺麗な印象を与えるおかげで、初対面の私でも灯花さんがとてもしっかりした女の子だということが凄く良く伝わってくる。
「わたくしたちは、デザイナーの蒼生様が作るお洋服の大ファンなもので」
氷姫さんが私に紅茶を飲むように勧めながら、事の経緯を説明する。
「羽乃ちゃんの着ているお洋服、絶対蒼生様デザインのものだよ! って、音緒ちゃんの勘がぴぴって働いちゃって……」
「お見掛けしたことのないデザインだったので、つい会話が盛り上がってしまいました」
音緒さんと氷姫さんは、再度私に頭を下げて申し訳ないという言葉を添えてくれた。
私こそ二人のひそひそ話を陰口と勘違いしてしまったと、お詫びの言葉を伝える。
みんながみんな謝り合うという不思議な構図ができあがってしまい、その頭を上げさせてくれたのは灯花さんの一言だった。
「あ~、蒼生様の妹さんだなんて羨ましい~」
「正確にはまだ……」
「いや、もう、確定だよ! 羽乃ちゃんは自信を持つべきだよ!」
私は、蒼生様がデザインされた洋服を着ている理由を簡単に説明した。
私が問題行動を起こさない限りは養子として迎え入れてもらえるはずと自信なさげに話すと、私をお茶に誘ってくれた三人は深く触れることなく話を先に進めてくれる。
「…………でも、三人が着ている制服も凄く可愛い」
蒼生様がデザインされた服を褒めてもらったお礼の言葉を送ろうとしたわけではなく、素直に三人が着ている同じ学校であることを示す制服を可愛いと思った。
私が抱いていた気持ちを素直に言葉にすると、三人は自分の着ている制服に誇りを持っているような素敵な笑みを浮かべる。
「この制服はね、国立魔法学院の制服なんだよ~」
持っていた紅茶を零しそうになるくらいの勢いで、音緒さんは私に抱き着いた。
今日初めて会ったばかりで、私はまだ三人に自分のことをお話できていないのに、音緒さんは気にすることなく私に好意を向けてくれる。
「といっても、近々国の運営じゃなくなるのよね」
「え?」
「羽乃架さんもご存じだと思いますが、魔法という文化も魔法という力も衰退が進んでいるためです」
魔法は、滅びゆく力。
知識として、知ってはいる。
けれど、雨依様は今も魔法を使い続けている。
滅びゆく魔法を使っている雨依様を目にしているからなのか、私はまだ衰退の重みがよく分かっていないのかもしれない。
「私たち三人もそうなんだけどね、生徒のほとんどは魔法使いでもなんでもない一般人なの」
魔法学院では、魔法が使えない人たちに魔法がどんなものだったかを学ぶ機会与えてくれていると聞かされる。
変わり種としては、魔法が登場する物語を創作する授業もあると教えてくれた。




