ep 41
【キマイラとの死闘】
エルフの子供たちを安全な場所まで誘導した(後でラビィが迎えに行き、ギルドへ連絡する手はずだ)リューネ、ラビィ、ドラゴは、デュークの身を案じ、息を切らせながら魔族のアジトへと急いで戻った。
洞窟の奥、巨大な工房へとたどり着いた彼らが目にしたのは、凄惨な光景だった。おびただしい数の魔族の亡骸が転がり、壁や床は黒い血で汚れている。そして、その中央で対峙しているのは、長剣を構えるデュークと、満身創痍ながらも禍々しいオーラを放ち続ける、あの魔族の首領ただ一人だった。
「く……は……流石は……『赤き閃光』、か……。これほどの数を、一人で……」
首領は、肩で息をし、体中から血を流しながらも、憎悪に満ちた目でデュークを睨みつけていた。
デュークは、冷たい、一切の感情を排したような視線を首領に向け、静かに長剣を構え直した。その剣先からは、まだ戦いの熱が立ち上っているようだ。
「ふん……だが、これで終わりだと思うなよ……人間……」
首領は、覚悟を決めたように、あるいは狂気に駆られたように、低く笑った。
「こ、こうなったら……我が身を贄とし、究極の力を……!」
首領は、おもむろに地面に転がる魔族の死体に近づくと、その黒い血を両手ですくい上げ、自らの体に浴びせ始めた!
「な、何をするつもり!?」
リューネが驚愕する中、首領の体が、まるで粘土のように、ぐにゃりぐにゃりと奇怪な音を立てて変化していく! 骨が軋み、肉が盛り上がり、皮膚が裂けて新たな部位が生えてくる!
「ぐおおおおおおおおおおおっっっ!!!」
首領は、もはや人間のものとは思えない、苦悶と歓喜が入り混じった絶叫を上げながら、その姿をみるみるうちに巨大な異形の怪物へと変貌させていった!
「わ、化け物……!」ラビィが震える声で呟く。
「こいつが……あの首領の、本当の姿……!」ドラゴも両手斧を構え直し、全身で警戒する。
変貌を遂げたその姿は、まさしく伝説に語られる魔獣――キマイラ。ライオンの頭、山羊の頭、そして毒蛇の尾を持つとも言われるが、この個体はさらに禍々しく、三つの獰猛な爬虫類の頭部と、コウモリのような巨大な翼を持ち、全身が硬い黒鱗で覆われている。その巨躯からは、先ほどとは比較にならないほどの、絶望的なまでのプレッシャーが放たれていた。
「ククク……見よ! これが魔族の真髄! 貴様ら下等生物に、我らの真の恐ろしさを見せてやる!」
三つの頭がそれぞれ別の方向を向き、同時に咆哮を上げると、キマイラは翼を広げ、凄まじい勢いでデュークに襲い掛かった!
デュークは、その猛攻を冷静に見極め、長剣で的確にいなし、反撃を加えていく。剣閃が走り、キマイラの硬い鱗に火花を散らす! しかし、キマイラの攻撃は三つの頭から繰り出され、その動きは予測困難で、再生能力も高いのか、浅い傷はすぐに塞がってしまう。デュークも徐々に押され始め、その額には汗が滲んでいた。
(デューク教官が……押されている!?)
(このままじゃ、まずい!)
「デュークさん! 加勢します!」
リューネは恐怖を振り払い、剣と盾を構えてデュークの援護へと飛び出した!
「リューネ! ボクも援護する!」ラビィも即座に弓を構える!
「オレも行くダゴ! この化け物、オレがぶっ飛ばす!」ドラゴも両手斧を握りしめ、キマイラに突進した!
三人は、デュークと連携を取りながら、キマイラに攻撃を仕掛ける!
リューネは、キマイラのブレスや爪攻撃を盾で必死に防ぎ、デュークやドラゴへの攻撃を逸らす!
ラビィは、三つの頭の動きを冷静に見極め、牽制や弱点となりそうな眼などを狙って、的確に矢を放ち続ける!
ドラゴは、キマイラの巨体に臆することなく、両手斧を叩きつけ、その注意を引きつけ、リューネとラビィの攻撃チャンスを作り出す!
三人の予想外の奮闘と連携に、キマイラも多少のダメージを負い、動きに乱れが生じ始めた。しかし、それでも魔獣の力は圧倒的だ。キマイラの放った薙ぎ払うような尾の一撃が、リューネの盾を砕き、彼女を壁際まで吹き飛ばした!
「くっ……!」
激しい痛みと衝撃に、リューネは一瞬意識が遠のきそうになる。
「リューネ!」
「リューネおねーちゃん!」
ラビィとドラゴが心配そうに叫ぶ。
「ま、まだ……! まだ、やれる……!」
リューネは、折れた盾を捨て、剣を杖代わりに、ふらつきながらも立ち上がった。そして、再びキマイラに立ち向かおうとした。仲間を、そしてデューク教官を守らなければ!
その時、激しい攻防を続けていたデュークの声が響いた。
「……よし。気を溜める。貴様ら、もう少しだけ時間を稼げ。……できるか?」
その声には、疲労の色と共に、確かな決意が込められていた。
(デュークさんが、私たちに……!)
リューネは、デュークに任せてもらえたことが、何故か無性に嬉しかった。そして、最後の力を振り絞る覚悟を決めた。
「はいっ! デュークさん! お任せください!」
「ボクたちが、絶対に時間を稼ぎます!」
「オレに任せるダゴ!」
三人は、再びキマイラに立ち向かった! 傷を負い、疲労困憊になりながらも、互いを庇い、声を掛け合い、必死に時間を稼ぐ! その姿は、まさに死闘だった。
そして、ついにデュークが動いた。
「……待たせたな」
彼が構える長剣に、周囲の空気が震えるほどの、眩いばかりの赤き紅蓮のオーラが集束していく! まるで、剣自体が燃え盛っているかのようだ!
「いくぞ……! 我が、全霊を込めて――!」
デュークは、低く、しかし決意に満ちた声で技名を叫んだ!
「竜撃剣――ッ! 閃光斬り!!」
次の瞬間、デュークの姿は、まさに「赤き閃光」と化し、一瞬でキマイラとの距離を詰めた! 放たれた斬撃は、空間そのものを切り裂くかのような、紅蓮の軌跡を描く!
「――――ッ!?」
キマイラは、その三つの頭全てで悲鳴を上げる間もなく、デュークが放った渾身の一刀によって、その巨大な胴体を、綺麗に、一刀両断にされていた。
ズシン……!! という地響きと共に、左右に分かれたキマイラの巨体が崩れ落ち、アジトには絶対的な静寂が訪れた。
「…………」
「…………」
「…………」
リューネ、ラビィ、ドラゴは、目の前で起こった信じられない光景に、ただただ唖然としていた。
「す、すごい……」リューネは、震える声で呟いた。
「あれが……『赤き閃光』……デューク教官の、本当の力……」ラビィも、驚愕の表情を浮かべている。
「デューク様……強すぎるダゴ……」ドラゴは、目を丸くして、尊敬の眼差しでデュークを見つめていた。
デュークは、燃えるようなオーラを収束させると、静かに長剣を鞘に納めた。
「……終わったぞ」
その言葉に、三人はようやく我に返った。
「デューク教官……! ありがとうございました!」
リューネは、ふらつく足でデュークに駆け寄り、心の底からの感謝を述べた。
「……フン。礼には及ばん。それより、お前たちもよくやった。見習いにしては、上出来だ」
デュークは、静かに、しかし確かに、三人の奮闘を労った。その言葉は、どんな報酬よりも、三人の心に深く響いた。
こうして、リューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、指導官デュークと共に、魔族の首領が変貌した恐るべき魔獣キマイラを討ち倒し、誘拐されたエルフの子供たちを救い出すという、困難な任務を成し遂げたのだった。彼らのガーディアンとしての物語は、また一つ、大きな山を越えた。




