ep 40
リューネたち「戦乙女・ローズ」は、イレーザから得たわずかな情報を頼りに、誘拐されたエルフの子供たちの捜索を開始した。しかし、相手は用心深い魔族。その足取りは巧妙に隠されており、捜索は困難を極めた。街の周辺をしらみつぶしに探しても、有力な手がかりは何一つ見つからない。時間だけが過ぎていき、三人の間にも焦燥感が募り始めていた。
(どこにいるの……? 手がかりが、何かないの……?)
そんな時だった。偶然、アルトゥンへ戻る途中のフォレスト商会のワカバと街道で再会したのだ。(彼女はデュフランでの商談を終え、別の護衛を雇って戻るところだった)
「あら、リューネさんたち! こんなところでどうされたんです?」
しかし、声をかけてきたワカバの顔は青ざめ、ひどく怯えている様子だった。
「実は……! つい先ほど、この先の森で、見たこともないような、禍々しい姿の魔獣に遭遇して……! 命からがら逃げてきたところなんですの!」
「禍々しい魔獣……?」リューネは、ワカバの言葉に引っかかりを覚えた。アルトゥン近郊の森に、そこまで凶悪な魔獣が出没するという話は最近聞いていない。ましてや、経験豊富な護衛さえも逃げ出すほどの相手とは?
「ワカバさん、その魔獣、どんな姿でしたか? どこで見ましたか?」
詳しく話を聞き、ワカバが遭遇した場所を特定し、三人は急行した。
現場には、魔獣の痕跡と共に、明らかに「魔族」のものと思われる、奇妙な足跡と微かな魔力の残滓があった!
(間違いない……! ワカバさんが見たのは、魔族が使役する魔獣か、あるいは魔族自身だったのかもしれない!)
そして、ラビィの鋭い聴覚とドラゴの嗅覚が、近くの崖に巧妙に隠された洞窟の入り口を発見した。洞窟からは、微かに子供たちの声と、そして邪悪な気配が漂ってくる。
「ここだ……! きっと、この中にエルフの子供たちが!」
三人は意を決し、洞窟へと潜入した。
内部は広く、魔族のアジトとなっていた。奥に進むと、牢に囚われたエルフの子供たちの姿を発見! 子供たちは皆、怯えきった表情でうずくまっている。
「みんな、助けに来たからね!」
リューネが小声で呼びかけ、牢の鍵を壊そうとした瞬間だった!
「……見つけたぞ、ネズミどもめ!」
背後から、複数の魔族が現れた! 角を生やし、禍々しい紋様を体に浮かび上がらせた、明らかに戦闘に特化したタイプの魔族だ!
「子供たちをどうするつもり!?」リューネが叫ぶ!
「フン、我らが主の計画の贄となってもらうまでよ。貴様らもな!」
激しい戦闘が始まった! リューネが剣と盾で、ラビィが弓で、ドラゴが斧で応戦するが、相手はあまりにも強い! 魔族の素早い動きと強力な魔力、そして連携攻撃に、三人は瞬く間に追い詰められていく。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
「こいつら、強いダゴ……!」
奮戦むなしく、三人は次々と打ち倒され、捕らえられてしまった。魔力を帯びた特殊な枷をはめられ、身動きが取れない。
「フン、思ったより歯応えのない連中だったな」魔族のリーダーらしき男が、リューネたちの前に立ち、不気味な笑みを浮かべた。「だが、丁度いい。ガーディアンの若造どもよ、貴様らもエルフどもと共に、我らが支配下に置く『駒』として使ってやろう」
(そんな……! ここまでなのか……!)
リューネは絶望感に打ちひしがれた。デューク教官や、街の人々の顔が脳裏をよぎる。
その時だった!
洞窟の入り口の方から、凄まじい衝撃音と共に、魔族たちの断末魔の叫びが響き渡った!
「グワァァァ!?」
「な、何だ!?」
リーダー格の魔族が警戒して入り口を見る。そこに立っていたのは――紅蓮のオーラを纏ったかのような、一人の男。デュークだった。しかし、その雰囲気は、普段の彼とは全く違う。瞳には静かな、しかし底知れない怒りの炎が燃え、全身から放たれるプレッシャーは、魔族たちですら怯ませるほどだ。
「き、貴様は……! その姿、その殺気……まさか……『赤き閃光』のデュークか!?」
リーダー格の魔族が、恐怖と驚愕に声を震わせた。その名を知っているようだ。
「……フン。ずいぶんと古い名で呼ぶものだ」
デュークは、冷たく言い放つと、囚われているリューネたちと、怯えるエルフの子供たちの姿を認め、その瞳の怒りをさらに燃え上がらせた。
「え、ええい! 何を怯えるか! たかが人間の老いぼれ一人に、我ら魔族がやられるものか! かかれ! 奴を殺せ!」
リーダーは恐怖を振り払うように叫び、部下たちに攻撃を指示した!
デュークは、静かに長剣を抜いた。次の瞬間、彼の姿は赤い閃光と化し、魔族たちの群れへと突っ込んだ!
「――邪魔だ」
一閃。赤い軌跡が走り、魔族が両断される。
また一閃。別の魔族の首が飛ぶ。
デュークの動きは、目で追うことすらできない。まるで疾風の如く、あるいは流星の如く、魔族たちが悲鳴を上げる間もなく、次々と斬り伏せられていく!
「な、なんだこの力は……!? ば、馬鹿な……!」
リーダーは、部下たちが瞬く間に全滅していく様に、完全に恐れおののいていた。
デュークは、返り血一つ浴びることなく、ゆっくりとリーダーに近づいていく。
「……貴様らの悪行、万死に値する。ここで終わりだ」
デュークは、冷たい声で言い放った。
リーダーは必死に魔力で抵抗しようとするが、デュークの圧倒的な力の前に、為す術もない。その隙に、デュークは素早く牢に近づくと、その特殊な枷を、まるで紙細工のように一瞬で破壊した!
「! デューク教官!」
「助かった……!」
解放されたリューネたちは、デュークに感謝の言葉を述べようとした。
「デュークさん! 私たちも援護します!」
リューネは剣を構えようとする。
しかし、デュークは、リーダーから視線を外さぬまま、背中越しに冷たく言い放った。
「――お前たちは、エルフの子供たちを連れて、ここから逃げろ。足手まどいだ」
「! デュークさん……!」
その言葉は、あまりにも冷たく、リューネの胸に突き刺さった。助けてくれた恩人を見捨てて逃げるなんて……。
「早く! ここはまだ危険です!」
ラビィが、リューネの腕を強く引いた。彼女の耳は、洞窟のさらに奥から、別の強力な気配が近づいているのを捉えているのかもしれない。
「……分かりました」
リューネは、悔しさを唇を噛み締めて押し殺し、エルフの子供たちを連れて逃げることに専念することを決意した。「皆さん、しっかり! 私たちについてきて!」
「オレが運ぶダゴ!」ドラゴも、小さなエルフの子供たちを何人か背中に乗せ、あるいは抱きかかえる。
三人は、リーダーと対峙するデュークの背中に一礼すると、エルフの子供たちを連れて、一目散に洞窟の外へと駆け出した。背後からは、デュークと魔族のリーダーとの、凄まじい戦闘の音が響いてくる。リューネは、デュークの無事を祈りながら、今はただ、子供たちを安全な場所へ連れて行くことだけを考えて、必死に走り続けた。




