ep 34
竜人族の里での温かいもてなしを受け、英気を養った「戦乙女・ローズ」の三人は、再びガーディアンとしての日常に戻っていた。アイアンランクとなり、初めての依頼も無事に成功させた彼らは、自信を胸に、次なる任務を求めてクレッセントワルツの依頼掲示板の前に立っていた。
掲示板には、以前にも増して多くの依頼書が張り出されている。中でも目立つのは、「護衛依頼」の文字だ。最近、アルトゥン周辺の街道で盗賊の活動が活発化しており、商人や旅人からの護衛依頼が増加しているのだという。
「護衛依頼か……。大変そうだけど、私たちの連携を試すには良いかもしれないね」
リューネは、その中の一枚、「フォレスト商会:デュフランまでの積荷護衛」と書かれた依頼書に目を留めた。報酬も、アイアンランクのパーティーにとっては悪くない額だ。
「うん、いいんじゃないかな! 護衛の仕事って、なんかプロのガーディアンって感じがするし!」ラビィも賛成のようだ。
「オレも賛成ダゴ! 荷物運びなら、オレの力も役立つダゴ! それに、悪い盗賊が出てきたら、オレがやっつける!」ドラゴも乗り気で、力こぶを作って見せる。
三人の意見が一致し、リューネは受付のイレーザに護衛依頼を受けたい旨を伝えた。
「フォレスト商会の護衛依頼ですね。承知いたしました」イレーザはにこやかに頷いた。「ちょうど依頼主のワカバ様が、打ち合わせのためにいらっしゃっています。事務所の応接室へどうぞ」
イレーザに案内された部屋には、明るい日差しが差し込む中、一人の若い女性が待っていた。年の頃は二十代半ばだろうか、活動的な商人の服を着こなし、快活そうな笑顔が印象的だが、その瞳の奥には少しだけ不安の色も見える。
「初めまして。私がフォレスト商会のワカバと申します。この度は、依頼をご検討いただきありがとうございます。皆さんが、パーティー『戦乙女・ローズ』の方々ですね?」
ワカバは立ち上がり、丁寧に挨拶した。
「はい、リーダーのリューネです。こちらはラビィとドラゴ。よろしくお願いします」
リューネたちも挨拶を返す。
「さて、今回の依頼ですが……」ワカバはテーブルの上に広げられた地図を指しながら説明を始めた。「私と、こちらの積荷を、ここアルトゥンから隣町のデュフランまで、無事に護衛していただきたいのです」
彼女が示した積荷は、部屋の隅に置かれた頑丈そうな木箱が三つ。かなりの大きさがあり、厳重に封がされているようだ。
「中身は……まあ、少々デリケートな品物でして。近頃、街道筋に物騒な輩が増えていると聞き、万全を期したいのです。どうか、この荷物の安全と、私の身の安全を、デュフランまでお願いできませんでしょうか」
ワカバは、期待と不安が入り混じった表情で、三人の顔を見つめた。
「ご心配なく!」リューネは、ワカバの不安を打ち消すように、力強く請け負った。「私たち『戦乙女・ローズ』が、責任を持って護衛させていただきます! どんな困難にも立ち向かいますので、安心してお任せください!」
その自信に満ちた言葉に、ラビィとドラゴも力強く頷く。
「まあ……! ありがとうございます! なんと心強い……! 皆さまを信じています」
ワカバは、三人の頼もしい様子に、ほっと胸を撫で下ろし、表情を和らげた。
打ち合わせはスムーズに進み、リューネたちは正式にフォレスト商会の護衛依頼を引き受けることになった。
【作戦会議】
打ち合わせ後、三人はリリカーナで作戦会議を開いた。護衛任務は初めてではないが(リリカを送った経験はある)、今回は貴重な積荷と依頼人を守りながらの長旅だ。油断はできない。
「まずは、移動経路の確認ね」リューネはワカバから受け取った地図を広げた。「アルトゥンからデュフランまでは、馬車なら二日、徒歩なら三日くらいの道のり。途中、この『ため息峠』と『迷いの森』が、盗賊が出やすい要注意ポイントみたい。休憩は、この峠を越えた先の宿場町で取るのが良さそうね」
「荷物は結構大きくて重そうだね。どうやって運ぶ?」ラビィが尋ねる。
「これはドラゴの出番だね」リューネはドラゴを見た。「あの木箱、ドラゴなら一つくらい運べるでしょ?」
「任せるダゴ! オレの力を見せる時ダゴ!」ドラゴは胸を張る。残りの二つは、交代で運ぶか、あるいは簡易な荷車を借りる必要があるかもしれない。
「道中、もし敵に襲われたら……基本はワカバさんと荷物を守りながら戦う。ラビィは後方から弓で援護と索敵。私とドラゴが前衛で敵を食い止める。ドラゴはパワーで、私は防御と連携で対応する。これでいこう」
リューネは戦闘時の基本的な役割分担を確認した。
「あとは、必要な物資の準備ね。食料と水は最低三日分。それから、傷薬、解毒薬、包帯。夜営になる可能性も考えて、火打ち石と着火剤、それからロープもあると便利かな……」
リューネは、旅に必要なものをリストアップしていく。その手際の良さに、ラビィは感心した様子だ。
「すごい、リューネ! 準備万端だね!」
「荷物運び、楽しみダゴ!」ドラゴは早くも荷物を運びたくてうずうずしている。
【出発準備】
作戦会議を終えた三人は、ギルドの自室や市場で、出発の準備に取り掛かった。
リューネは、愛用の剣と盾を入念に手入れし、リストアップした食料や道具をリュックに詰め込む。ラビィは、矢筒に矢を補充し、薬草から作った応急処置用の薬をポーチに整理する。ドラゴは、両手斧を磨き上げ、水筒を満たし、大量の干し肉を大きな革袋に詰め込んでいる。
三人は互いに協力し、声を掛け合いながら、手際よく準備を進めていく。忘れ物はないか、装備に不備はないか、何度も確認する。
「よし、これで準備完了!」
全ての準備を終え、リューネは荷物を確認し、満足げに頷いた。
「いよいよ出発ね!」
「腕が鳴るダゴ!」
三人の顔には、初めての本格的な護衛任務への期待と、少しの緊張感が浮かんでいた。
翌朝、約束の時間にギルド前に集合すると、そこにはワカバと、荷物を載せるための頑丈な荷車(馬はいない、人力で引くタイプのようだ)が用意されていた。
「おはようございます、戦乙女・ローズの皆さん。準備はよろしいですか?」ワカバが笑顔で尋ねる。
「はい、いつでも出発できます!」
リューネたちの、新たな挑戦となる護衛任務が、今、始まろうとしていた。果たして、無事にワカバと荷物をデュフランまで送り届けることができるだろうか? 三人は気を引き締め、ワカバと共に、アルトゥンの門を後にするのだった。




