ep 32
デュークからリザード族の動向調査という、アイアンランクには重すぎるかもしれない任務を託されたリューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、覚悟を決めて街外れの目撃情報があった地区へと向かった。
「この辺りのはずだけど……」
リューネは地図と周囲の地形を見比べながら、慎重に進む。ラビィはその優れた聴力で、ドラゴは鋭敏な嗅覚で、怪しい気配を探る。しばらくの間、三人は連携を取りながら森の中を捜索したが、リザード族の姿はおろか、その痕跡すら見つけることができなかった。
(本当に、ここにいたのかな……?)
リューネが疑念を抱き始めた、その時だった。
「……ん? この匂い……湿った土と、なんか……爬虫類みたいな独特の匂いがするダゴ!」ドラゴが鼻をひくつかせ、特定の方向を指差した。「こっちの岩場の奥からだ!」
「ボクの耳にも、岩の向こうから、何か……金属を打つような、規則的な音が微かに聞こえる!」ラビィも付け加える。
三人は顔を見合わせ、音と匂いのする岩場へと慎重に近づいた。そこには、巧妙に偽装された、洞窟の入り口が隠されていた。入り口周辺には、新しい足跡もいくつか残っている。間違いなく、ここがリザード族の潜伏場所だ。
三人は息を潜めて洞窟の中へと足を踏み入れた。ひんやりとした湿った空気が漂い、奥からはドラゴが言った通り、爬虫類特有の生臭い匂いと、金属音が響いてくる。通路を進むと、視界が開け、巨大な地下空洞に出た。
そこは、まるで秘密基地のような工房だった。松明や魔道具の灯りが煌々と照らす中、数多くのリザードマンたちが、何やら巨大な機械のようなものの周りで忙しく作業をしている。爬虫類のような緑色の鱗に覆われ、鋭い爪と牙を持つリザードマンたちは、皆一様に屈強で、油断なく周囲を警戒している様子だ。
そして、工房の中央に鎮座する巨大な機械……それは、リューネたちの目を疑わせるほどの代物だった。
(あれは……巨大な弩……? いや、それにしては複雑すぎる……)
それは、複数の巨大な弓が連なり、一度に大量の太い矢を発射できるように設計された、恐るべき攻城兵器のようだった。その表面には、禍々しい紋様が刻まれ、不気味なエネルギーの脈動のようなものを感じさせる。
三人は物陰に身を隠し、リザードマンたちの会話に耳を澄ませた。
「フフフ……この**『連弩砲』**の完成も間近だ! 各部族から集めた最高の技師たちが作り上げた、我らリザード族の切り札よ!」
「これで、あの忌々しいグルンストラの城壁など、赤子の手をひねるようなもの! 水源も、豊かな土地も、全て我らの手に戻るのだ!」
「まずは、この新型兵器でアルトゥンを一気に制圧し、人間どもに我らの力を見せつけてやる!」
(新型兵器……グルンストラを制圧……!? なんてこと……!)
リューネたちは、リザード族の恐るべき企みを知り、戦慄した。これは単なる偵察ではない。本格的な侵攻計画が、すぐそこまで迫っていたのだ。
(このままじゃ、街が危ない! デューク教官やギルドに知らせるべきだけど、それじゃ間に合わないかもしれない……!)
リューネは決断した。
(やるしかない……! この新型兵器を、ここで破壊する!)
【新兵器破壊作戦】
三人は物陰で作戦を練った。時間はあまりない。
ラビィが持ち前の聴力で工房内のリザードマンたちの配置と動きを探る。リューネとドラゴが内部に潜入し、新型兵器の動力源と思われる部分を破壊する。
「ラビィ、お願い!」
「任せて! ……警備は思ったより厳重だよ。見張りが通路の要所にいるし、作業員たちも武器を持ってる。でも、工房の北側、資材置き場の辺りは少し手薄みたい。そこから潜入できるかも」
「よし、そこから行こう! ドラゴ、見張りに見つからないように、静かにお願いね?」
「分かってるダゴ! 音を立てずに、ドーン! だゴ!」(少し不安だが、今は信じるしかない)
ラビィが外で陽動の合図(小動物の鳴き真似など)を送る隙に、リューネとドラゴは資材置き場の影から工房内部への潜入に成功した。息を殺し、柱の影などを利用しながら、巨大な新型兵器へと近づいていく。途中、見張りのリザードマンと遭遇したが、リューネが音もなく背後から近づき、剣の柄で急所を打って気絶させ、ドラゴがそれを物陰に引きずり込む、という連携で切り抜けた。
ついに、新型兵器の真下にたどり着いた。複雑に絡み合ったパイプや歯車。どこを破壊すれば……リューネが頭を悩ませていると、ドラゴが一点を指差した。
「リューネおねーちゃん! あそこだ! あの青白く光ってる石! そこから変なビリビリした感じがするダゴ!」
ドラゴが指差したのは、兵器の中枢部にはめ込まれた、魔力を帯びた鉱石のようなものだった。あれが動力源に違いない!
「よし、あそこを破壊すれば……!」
リューネが剣を構え、動力源に向かって飛び出そうとした瞬間、警報が鳴り響いた! 見つかったのだ!
「侵入者だ! 兵器に近づけるな!」
「殺せ!」
周囲で作業していたリザードマンたちが、一斉に武器を手に襲い掛かってきた!
「ドラゴ、援護をお願い!」
「任せるダゴ!」
リューネは迫りくるリザードマンたちの槍や剣を、盾で捌き、剣で牽制しながら、動力源への道を切り開こうとする。ドラゴは両手斧を振り回し、その圧倒的なパワーでリザードマンたちを薙ぎ払う!
「邪魔だゴラァ!」
二人の連携は、以前よりも格段に向上していた。リューネが敵の攻撃を引きつけ、ドラゴがそれを粉砕する。しかし、相手の数が多い。次から次へと現れるリザードマンたちに、次第に消耗していく。
「くっ……!」
「キリがないダゴ!」
二人が押し返されそうになった、その時! ヒュン!と鋭い音を立てて矢が飛来し、リザードマンの眉間を正確に射抜いた!
「ラビィ!」
見ると、工房の入り口付近から、ラビィが弓を構え、的確な援護射撃を行っていた!
「二人とも、早く動力源を!」
ラビィの声に、リューネは最後の力を振り絞り、再び動力源へと突進した! ドラゴが斧で道をこじ開ける!
「これで、終わりよっ!」
リューネは、青白く光る鉱石に向かって、渾身の力を込めて剣を突き立てた!
バキィィィン!!!
甲高い破壊音と共に、鉱石は砕け散り、新型兵器全体が激しく振動した後、不気味な静寂に包まれた。兵器の各部から上がっていた光や駆動音が、完全に停止したのだ。
「やった……!」
三人は、顔を見合わせ、勝利を確信した。
しかし、その喜びも束の間だった。工房の奥から、地響きのような足音と共に、他のリザードマンたちとは比較にならないほどの、凄まじいオーラを放つ一体のリザードマンが現れたのだ。体格は一回り大きく、その鱗は黒曜石のように輝き、頭部には禍々しい角が生えている。手にした巨大な戦斧からは、殺気が迸っていた。彼こそが、この計画の首謀者、リザード族のボスだ。
「貴様ら……小虫どもが……! よくも我が悲願たる『連弩砲』を……!! 万死に値するぞ!!!」
ボスは、怒り狂い、その巨大な戦斧を振りかぶり、リューネたちに襲い掛かってきた!
【激闘】
ボスの攻撃は、先ほどまでのリザードマンたちとは次元が違った。戦斧の一撃は、リューネの盾ごと吹き飛ばさんばかりの威力で、ドラゴの斧ですら受け止めきれない。その動きは巨体に見合わず俊敏で、三人の連携攻撃はことごとくかわされ、逆に的確な反撃を受けてしまう。
「ぐはっ……!」
「きゃっ!」
「強い……強すぎるダゴ……!」
ドラゴは斧で打ち合った際に腕を痛め、ラビィの矢はボスの硬い鱗に弾かれ、リューネも盾を構えるので精一杯だ。三人とも、満身創痍で、もはやこれまでかと思われた。
(だめ……このままじゃ、全滅する……!)
リューネは、絶望的な状況の中、最後の覚悟を決めた。自分が盾となり、二人を逃がすしかない、と。
その時だった。
「――そこまでだ、蜥蜴野郎!」
凛とした声と共に、工房の入り口から、一陣の風のように駆け込んできた人影があった! 背には巨大な両手剣。先日、訓練場で模擬戦を見せてくれた、あのダインだ!
「ダインさん!?」
「なぜここに!?」
「デュークさんから、お前たちの様子がおかしかったら見に来いって言われてな。案の定、とんでもないことに首を突っ込んでるみたいじゃないか!」
ダインは不敵な笑みを浮かべると、リザード族のボスに向き直った。「さて、ここからは先輩に任せな!」
ダインは両手剣を構えると、凄まじい速さでボスに斬りかかった! キィィン!と甲高い金属音が響き渡る。ボスの戦斧とダインの両手剣が、火花を散らしながら激しく打ち合った。
ボスのパワーとダインのスピード&スキル。それは、先ほどのリューネたちとの戦いとは全く違う、ハイレベルな死闘だった。しかし、徐々にダインがボスを圧倒していく。彼の剣技は、まるで舞うように華麗で、それでいて一撃一撃が致命的な威力を秘めていた。
「これで、終わりだっ!」
ダインはボスの戦斧を弾き飛ばすと、がら空きになった胴体に、渾身の両手剣の一撃を叩き込んだ!
「グ……オ……ォ……」
ボスは断末魔の叫びも上げられず、その場に崩れ落ち、動かなくなった。
ボスを失った残りのリザードマンたちは、戦意を喪失し、恐れをなして洞窟の奥へと逃げ去っていった。
「…………」
「……助かった……」
リューネ、ラビィ、ドラゴは、呆然としながらも、ダインに駆け寄った。
「ダインさん、ありがとうございました……!」
「気にするな。それより、よくやったな、お前たち」ダインは、破壊された新型兵器と、倒れたボスを見下ろしながら、三人の肩を叩いた。「お前たちの勇気と機転が、この街……いや、グルンストラ全体を救ったのかもしれんぞ。大したもんだ」
その言葉には、紛れもない称賛と、彼らの成長を認める響きがあった。
【依頼達成】
リューネたちは、ダインと共にクレッセントワルツに戻り、イレーザとデュークに事の顛末を報告した。リザード族の陰謀、新型兵器の破壊、そしてボスとの戦闘……。報告を聞いたイレーザとデュークは、驚きと安堵、そして三人の無事を心から喜んでくれた。(デュークは相変わらず厳しい顔だったが、その目には確かな満足感が浮かんでいた)
「お疲れ様でした。本当に、素晴らしい働きでしたね」イレーザは、規定の報酬に加え、今回の功績に対する特別ボーナスを添えて、三人に手渡した。「貴方たちは、もう立派なガーディアンです。これからも、その勇気とチームワークで、多くの人を助けてあげてください」
イレーザの言葉に、三人は誇らしげに頷いた。
「はい!」
改めて、ガーディアンという仕事の厳しさ、そして、そのやりがいを実感した三人。人々の笑顔を守る。仲間と力を合わせ、困難に立ち向かう。それが、自分たちの使命であり、誇りなのだと。
リューネ、ラビィ、ドラゴ――パーティー「戦乙女・ローズ」は、この大きな試練を乗り越え、ガーディアンとして、そしてチームとして、さらに強く、固い絆で結ばれた。彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。




