ep 31
ウサミミ族の里での心温まる休日を終え、英気を養ったリューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、パーティー「戦乙女・ローズ」として新たな依頼を探すべく、活気あふれるクレッセントワルツのギルドへとやってきた。
しかし、その日のギルドは、いつもの賑やかさの中にも、どこかピリピリとした緊張感が漂っていた。依頼掲示板を見るガーディアンたちの表情も心なしか険しく、カウンター周辺ではひそひそと何かを話し込む者たちの姿も見える。
「なんだか……いつもと雰囲気が違うね」リューネが眉をひそめる。
「うん、なんかザワザワしてる感じ……」ラビィも長い耳を不安そうに動かした。
ふと見ると、受付カウンターの奥、事務所へと続く通路のあたりで、デューク教官と、先日模擬戦を見学させてもらった先輩ガーディアンのダインが、深刻な表情で何やら話し込んでいるのが見えた。普段は気さくなダインの顔にも、今は険しい皺が刻まれている。
気になった三人がそっと近づいてみると、彼らの会話の断片が聞こえてきた。
「……それで、数は? 何匹くらい確認できたんだ?」デュークが低い声で尋ねている。
「はっきりとは。ですが、斥候と思われる動きで、少なくとも5、6匹はいました。装備も、ただの野盗とは違う、統一された武具を……。間違いなく、リザード族です。この時期に、街のすぐ外れまで出てくるとは……」ダインが苦々しげに答える。
(リザード族……!?)
リューネはその名前に息を飲んだ。グルンストラ国と長年対立関係にあり、非常に好戦的で知られる亜人種族だ。個々の戦闘能力も高く、集団での戦いを得意とすると聞く。
「そうか……奴らが動き出したか……」デュークは腕を組み、難しい顔で深く頷いた。「リザード族は、グルンストラが豊かな水脈を独占していることを、昔から快く思っていないからな。特に最近は、西の国境付近で小競り合いが増えていると聞く。まさか、アルトゥン近くまで偵察を……?」
もし、リザード族が本格的に何かを仕掛けようとしているのだとしたら……それは、ブルホーンの暴走など比較にならない、大きな脅威となるかもしれない。リューネたちの背筋に、冷たいものが走った。
心配になったリューネは、意を決して二人に話しかけた。
「あの……デューク教官、ダインさん。何か、あったんですか?」
リューネの声に、デュークは顔を上げた。
「ん? リューネか。ああ、少し厄介な情報が入ってな」
デュークは、三人が聞いていることを察し、リザード族が街の近くで目撃された件について、かいつまんで説明した。
そして、デュークは三人の顔を順番に見渡し……ふと、何かを思いついたように、にやりと口角を上げた。
「……そうだ。こいつらにやらせてみるか」
彼は、顎でリューネたちを示した。
「え?」ダインが少し驚いたようにデュークを見る。
「デュークさん?」リューネたちも戸惑う。
「リザード族の動向調査……お前たち『戦乙女・ローズ』に任せてみても良いかもしれんな」
「「「ええっ!?」」」
三人は、突然の指名に驚きの声を上げた。リザード族の調査なんて、アイアンランクになったばかりの自分たちには、あまりにも重すぎる任務ではないか?
「わ、私たちに、ですか……?」
リューネは、緊張で声が震えるのを抑えながら尋ねた。
「ああ。確かに危険な相手だ。だが、今のところは偵察部隊の可能性が高い。大規模な戦闘になるリスクは低いだろう」デュークは続けた。「お前たちは、先日正式なガーディアンになったばかりだ。本当の意味での実戦経験、特に、モンスターではない、知性を持った敵との駆け引きや隠密行動を学ぶには、丁度良い機会かもしれん」
その目は、三人の実力と覚悟を試しているかのようだ。
「それに……」デュークは、ほんの少しだけ表情を和らげた。「前の依頼も見事にこなしたし、お前たちの連携なら、きっとうまくやってくれるだろう。俺はそう信じているぞ」
デュークからの、思いがけない信頼の言葉。それは、三人の不安を打ち消し、新たな挑戦への勇気を奮い立たせるのに十分だった。失敗すればペナルティどころか、命の危険もあるかもしれない。だが、ここで尻込みするわけにはいかない。デュークが、そしてギルドが、自分たちの力を認めてくれたのだから。
リューネは、ラビィとドラゴの顔を見た。二人とも、覚悟を決めた強い瞳で頷き返してくる。
「……分かりました!」リューネはデュークに向き直り、力強く答えた。「その任務、私たち『戦乙女・ローズ』に、謹んでお任せください!」
「おう! やってやるダゴ!」ドラゴも拳を握る。
「ボクたちの力、見せてあげようよ!」ラビィも弓を握りしめた。
三人の意気込みを受け、デュークは満足そうに頷いた。
「よし、決まりだ。詳細は後で伝える。まずは心構えをしておけ」
こうして、リューネたち「戦乙女・ローズ」は、リザード族の動向調査という、アイアンランクには異例とも言える重要かつ危険な任務を任されることになった。彼らのガーディアンとしての真価が、今、問われようとしていた。




