ep 30
初めての正式任務を成功させ、ガーディアンとしての確かな一歩を踏み出した「戦乙女・ローズ」の三人。その数日後、ラビィが少し照れたように、そして嬉しそうに提案した。
「ねえ、リューネ、ドラゴくん! ボク、今度の休みに、お父さんとお母さんにアイアンランクになれたこと、報告しに里に帰ろうと思うんだけど……よかったら、二人も一緒においでよ!」
ウサミミ族の里――ラビィの故郷。リューネとドラゴにとっては未知の場所だ。
「え? 私たちも行っていいの?」リューネは少し驚いたが、ラビィのキラキラした笑顔に、断る理由などなかった。
「行く行く! ウサミミの里、面白そうだダゴ!」ドラゴも興味津々といった様子で即答した。
こうして、三人はラビィの故郷、アルトゥンから森を抜けた先にあるというウサミミ族の里へと向かうことになった。
ウサミミ族の里は、ラビィが話していた通り、緑深い森の奥深くにひっそりと存在していた。高い木々に囲まれ、清らかな小川が流れ、色とりどりの花が咲き乱れる、まるで絵本の中のような場所だ。家々は、木や蔦を巧みに利用して建てられており、自然と完全に調和している。里のあちこちで、長い耳を持つウサミミ族の人々が穏やかに暮らしているのが見えた。彼らは、見慣れないリューネ(人間)とドラゴ(竜人族)の姿に少し驚いたようだったが、ラビィが一緒だと分かると、警戒を解き、柔和な笑顔で会釈をしてくれた。
ラビィの実家は、里の中でもひときわ可愛らしい、丸みを帯びた木造りの家だった。庭には色とりどりの花が咲き、ニンジンらしき野菜も植えられている。
「ただいまー!」
ラビィが元気よく玄関の扉を開けると、中から温かいシチューの匂いと共に、優しい笑顔の女性が出迎えてくれた。ラビィと同じ、長くて柔らかなうさ耳を持つ、彼女の母親だ。
「まあ、ラビィ! 元気そうでよかったわ! 怪我はしてない?」
「ママ! ただいま!」
ラビィは母親に駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。母親は娘の体を優しく撫で、無事を確かめている。
「それでね、ママ! この二人は、ボクの大事な仲間で、友達なの! リューネと、ドラゴくん!」
ラビィは少し得意げに、二人を紹介した。
「まあまあ!」母親――リリハは、驚いたように目を見開いた後、すぐに温かい笑顔を向け、深々と頭を下げた。「母のリリハと申します。いつも娘が大変お世話になっております。本当にありがとうございます。うちの子、ご迷惑をおかけしていませんか? 少しおっちょこちょいなところがあるので……」
リリハは、少し心配そうに尋ねた。
「いいえ、とんでもないです!」リューネは慌てて首を横に振った。「ラビィさんは、いつも元気で、パーティーのムードメーカーですし、その耳で何度も助けられています。とても信頼できる、大切な仲間です!」
「そうダゴ! ラビィねーちゃんは、すばしっこくて、耳も良くて、強いダゴ!」
ドラゴも力強く頷いた。
「リューネ……ドラゴくん……」
二人の言葉に、ラビィは感激したのか、大きな瞳をうるませ、ぐすっと鼻をすすった。
「まあ、まあ……」リリハはそんなラビィを見て、嬉しそうに目を細めた。「あんなに人見知りで泣き虫で、小さい頃は森の木陰で一人で絵本を読んでばかりいたあの子が……こんなに素敵なお友達を連れてきてくれるなんて……。ママ、本当に嬉しいわ」
「ママーっ! もー、余計なこと言わないでよぅ!」
ラビィは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに母親の腕をぽかぽかと叩いた。その様子に、リューネとドラゴも思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、ごめんなさいね。ささ、長旅でお疲れでしょう。どうぞ上がってください。今日は腕によりをかけて、美味しい料理をたくさん作りますからね!」
リリハは笑顔で二人を家の中に招き入れた。
「わーい! やったー! ママの得意なニンジンシチューだ!」
ラビィは、台所から漂ってくる大好きな匂いに、子供のようにはしゃいでいる。
「何かお手伝いできることはありますか?」
リューネも、積極的に手伝いを申し出た。
その言葉に甘え、リリハは笑顔で頷いた。リューネは野菜の皮むきを手伝い、ラビィは慣れた手つきでニンジンを切り、ドラゴは……薪割りを頼まれたが、うっかり薪ごと叩き割りそうになり、結局は大人しくテーブルで待つことになった。温かい家庭の雰囲気の中、皆で協力して(?)美味しい料理が次々と出来上がっていった。
【食事】
食卓には、湯気の立つ大きな鍋いっぱいのニンジンシチューを中心に、森で採れた新鮮な野菜のサラダ、香ばしく焼かれた木の実のパン、そしてドラゴのために用意されたらしい(リリハの優しい心遣いだ)大きな骨付き肉など、心のこもった料理が並んだ。
「「「「いただきます!」」」」
皆で手を合わせ、賑やかな食事が始まった。
「ん~~! やっぱりママのシチュー、最高に美味しい!」
「ほんと! 野菜が甘くて、お肉も柔らかくて、すごく美味しいです!」
「この肉、うまいダゴ! オレ、これ好きダゴ!」
三人は、口々に感想を言いながら、次々と料理を平らげていく。リリハは、そんな三人の(特に娘の友達が美味しそうに食べてくれる)姿を、本当に嬉しそうに、愛おしそうに見守っていた。
【夜】
お腹いっぱいになり、食後の片付けも終えると、三人はラビィの部屋でくつろいでいた。木の温もりを感じる、可愛らしい部屋だ。壁には森の動物の絵が飾られ、窓からは静かな夜の森が見える。
「ねぇ、二人とも、これからどんなガーディアンになりたいって思う?」
ベッドに腰掛けながら、リューネがふと尋ねた。
「ボクはね」ラビィは窓の外を見ながら、少し真剣な表情で言った。「もっともっと強くなって、どんな危険な場所でもみんなの目や耳になって……リューネやドラゴくん、それに困ってる人たちを、ちゃんと守れるような、頼りになるガーディアンになりたい!」
「オレは、もっともっと強くなって、悪いモンスターとか盗賊とか、みーんなやっつけるダゴ! それで、みんなを助けるんだゴ!」
ドラゴは拳を握りしめ、力強く言った。彼の目標はシンプルだが、強い意志が感じられる。
「私は……」リューネは、孤児院の子供たちの笑顔や、リリカ親子の涙を思い浮かべながら、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。「私は、みんなが……困っている人も、傷ついている人も、みんなが安心して笑顔でいられるように、そのために戦えるガーディアンになりたい。強く、そして優しく、みんなを支えられるような……そんな存在に」
三人は、それぞれの胸に抱く目標を語り合い、互いの決意を確かめ合った。目指す道は少しずつ違うかもしれない。でも、向いている方向は同じだ。パーティー「戦乙女・ローズ」として、これからどんな困難が待ち受けていようとも、この仲間たちとなら乗り越えていける。そんな確信が、三人の間に静かに生まれていた。
夜が更け、三人は一つの大きな布団(リリハが用意してくれた)に潜り込み、今日の出来事やこれからのことをワイワイと話し、やがて心地よい疲労感と共に眠りについた。
そっと部屋を覗いたリリハは、仲良く並んで眠る三人の穏やかな寝顔を優しく見つめた。
(ラビィ……本当に大きくなったのね……。素敵な仲間にも恵まれて……。どうか、この子たちが健やかでありますように……)
娘の成長と幸せを静かに喜びながら、リリハは音もなく部屋を後にした。ウサミミ族の里の静かな夜は、優しく更けていった。




