ep 28
廃墟に満ちる酒宴の喧騒を背に、リューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、息を殺して行動を開始した。ラビィが廃墟の外から石を投げて物音を立て、入り口近くの見張りの注意を外に向けさせる。その陽動が効いている間に、リューネとドラゴは、影から影へと身を隠しながら、音もなく牢屋へと近づいていった。
牢屋の前には、酒瓶を片手にうたた寝している見張りが二人。幸い、酒がかなり回っているようだ。リューネは、以前訓練で習った(あるいは、昔孤児院で悪戯のために覚えたのかもしれない)知識を頼りに、細い金属片を取り出し、古びた錠前に差し込んだ。指先に全神経を集中させ、カチリ、カチリと内部の機構を探る。冷や汗が背中を伝う。
数秒後、カチャリ、という小さな音と共に、錠前が開いた!
リューネは素早く牢屋の扉を開け、中に囚われていた人々に小声で呼びかける。
「皆さん、静かに! 私たちはガーディアンです。助けに来ました! 静かに、私たちについてきてください!」
牢の中の人々は、最初は驚きと恐怖で固まっていたが、リューネの真剣な眼差しと、差し伸べられた手に、わずかな希望を見出し、静かに頷いた。中にはミナちゃんの姿もあり、リューネは心の中で安堵の息をついた。
リューネが人々を牢から静かに誘導し始めた、まさにその時だった。
「ん……? うぅ……誰だ……?」
見張りの一人が、うめき声を上げてゆっくりと目を覚ましたのだ! そして、牢屋の扉が開かれ、人々が外に出ようとしている光景を見て、一気に酔いが醒めた!
「て、敵襲だ! おい、起きろ! 侵入者だぞ!」
見張りの男は、腰の剣を抜き放ちながら、大声で叫んだ! その声は廃墟の中に響き渡り、奥で続いていた酒盛りの喧騒も一瞬にして止んだ!
「まずい、見つかった!」
リューネは舌打ちし、即座に判断を下した。人質の安全確保が最優先だ!
「ラビィ! 聞こえたでしょ!? プランB! みんなを頼む! 安全な場所まで連れて行って!」
「了解! みんな、こっちだよ! 急いで!」
入り口付近で待機していたラビィが駆けつけ、怯える人々を庇いながら、廃墟の出口へと素早く誘導していく。
「ドラゴ! 私と一緒に時間を稼ぐよ! 追わせない!」
「任せるダゴ!」
リューネとドラゴは、奥から駆けつけてくる盗賊たちを迎え撃つべく、剣と盾、そして両手斧を構えた!
「何しやがった、てめえら!」
「ガキどもが、生意気な!」
酒で顔を赤くした、屈強な盗賊たちが、武器を手に次々と現れる。その数はやはり多い。
リューネは盾で攻撃を受け止め、剣で牽制しながら、ドラゴが暴れるためのスペースを作る。ふと、足元に転がっていた手頃な長さの木の棒(以前、ゴブリンが持っていたものだろうか)を見つけると、咄嗟にそれを拾い上げ、向かってくる盗賊の足を払った!
「うわっ!?」
よろめいた盗賊の胸に、リューネはためらわず剣を突き刺す!
「邪魔だゴラァ!」
ドラゴは巨大な両手斧を、まるで風車のように振り回し、その圧倒的なパワーで盗賊たちを薙ぎ払おうとする! しかし、相手も手慣れた悪党だ。ドラゴの動きの隙を突き、複数人で連携して襲いかかってくる。
「ぐっ……!」
「このチビドラゴン、力だけはあるな!」
「囲め! 囲んじまえ!」
数の利は明らかで、リューネとドラゴは徐々に壁際へと追い詰められていった。リューネの盾にはいくつもの打撃痕がつき、ドラゴの息も荒くなっている。
「くっ……!」
リューネは、盗賊の一撃を盾で受けた際に体勢を崩し、よろめいた。ドラゴも、連携攻撃を捌ききれず、斧を持つ手に力が入らなくなってきている。
(まずい……このままじゃ……!)
絶体絶命かと思われた、その時。
「リューネおねーちゃん! 後ろの樽! あのデカいやつだゴ!」
ドラゴが、壁際に積まれていた大きな樽の一つを指差して叫んだ。中からは、強い酒精の匂いが漂ってくる。
リューネはドラゴの意図を瞬時に理解した!
「ドラゴ! あれを壊して!」
「任せるダゴォォォ!!」
ドラゴは最後の力を振り絞り、両手斧を樽に向かって力任せに叩きつけた! バリーン!と派手な音を立てて樽は粉々に砕け散り、中から大量の強い酒が、まるで洪水のように溢れ出した!
酒は瞬く間に床一面に広がり、あたりにはむせ返るような強いアルコールの匂いが立ち込めた。
「うげっ……なんだこの匂いは!」
「くそっ……! 目が……目が眩む!」
予期せぬ事態に、盗賊たちの動きが一瞬止まる。
その隙を、リューネは見逃さなかった! 彼女は壁際にかかっていた油ランプ(運良く火が灯っていた)を素早く手に取ると、躊躇なく、溢れ出した酒溜まりへと投げ込んだ!
ゴウッ!!
次の瞬間、ランプの火が酒に引火し、あたり一面が灼熱の火の海と化した!
「うわあああああっ!」「熱い! 熱い!」「助けてくれー!」
逃げ場を失った盗賊たちは、燃え盛る炎に包まれ、断末魔の悲鳴を上げた!
「今ダゴ! 燃え尽きろ! ドラゴファイヤー!!」
ドラゴは、燃え盛る炎の中に飛び込むと(竜人族の彼は炎に耐性があるようだ)、両手斧を振り回し、炎から逃れようともがく盗賊たちを薙ぎ倒し、さらに追い打ちの火炎を吐き出して焼き払った!
その時、ヒュン! ヒュン! と風を切る音が響き、炎を避けながら逃げ惑う盗賊たちの急所に、次々と矢が突き刺さった!
「ラビィ!」
リューネが声のした方向を見ると、人質を安全な場所まで誘導し終えたラビィが、弓を構えて駆けつけていた!
「遅れてごめん! でも、これで逆転よ!」
ラビィは素早く次の矢をつがえ、正確な射撃で残りの盗賊たちの動きを封じていく。
「ラビィ、ナイス!」
「やるダゴ、ラビィおねーちゃん!」
ラビィの援護を受け、リューネとドラゴも最後の力を振り絞り、再び敵に立ち向かった。
燃え盛る炎の中、三人の連携攻撃が炸裂する! 剣と盾が敵を阻み、弓矢が急所を射抜き、炎と斧が全てを薙ぎ払う!
阿鼻叫喚の地獄絵図の中、ついに、全ての盗賊たちが動かなくなった。
「はぁ……はぁ……やった……」
「終わった……の……?」
「ぜ、全部……やっつけた……ダゴ……」
リューネ、ラビィ、ドラゴは、燃え続ける廃墟の中で、武器を下ろし、互いに顔を見合わせた。煙と熱気で息苦しい中、三人の顔には、疲労と安堵、そして勝利の喜びが浮かんでいた。
廃墟の外では、ラビィに誘導された人々が、不安そうに待っていた。三人が無事に出てくると、彼らは駆け寄り、涙ながらに感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございました……!」「本当に、命の恩人です……!」
ミナちゃんも母親の元に駆け寄り、二人は固く抱き合って涙を流していた。
その光景を見て、三人の疲れも吹き飛んだ。危険な任務だった。厳しい戦いだった。しかし、人々を救い、笑顔を取り戻すことができた。これこそが、ガーディアンとしての喜びなのだ。
「どういたしまして。困ったことがあれば、いつでも私たち『戦乙女・ローズ』を頼ってください」
リューネは、少し誇らしげに、そして満面の笑顔で答えた。
こうして、リューネたちアイアンランクガーディアン「戦乙女・ローズ」の、初めての正式な依頼は、多くの困難を乗り越え、無事に成功という形で幕を閉じたのだった。




