ep 27
正式な依頼を受けたリューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、パーティー「戦乙女・ローズ」として、早速、行方不明者たちの捜索を開始した。まずは基本に忠実に、行方不明になった人々の家族を一人一人訪ね、詳しい話を聞いて回った。最後に目撃された場所、服装、交友関係、最近変わった様子はなかったか……。しかし、どの家族も憔悴しきっており、有力な手がかりとなりそうな情報はほとんど得られなかった。共通していたのは、「本当に、前触れもなく突然いなくなった」ということだけだった。
「手がかり、少ないね……」リューネは集めた情報を地図上に書き込みながら、難しい顔で呟いた。「でも、最後に目撃された場所は、比較的この南地区の市場周辺に集中しているみたい。まずは、行方不明になった人たちが、失踪直前によく立ち寄っていた可能性のある場所から探してみようか」
「了解! ボクの耳と鼻で、何か変わったことがないか探ってみるよ!」ラビィが頷く。
「任せるダゴ! 怪しい奴がいたら、オレがやっつけるダゴ!」ドラゴは早くもやる気満々だ。
三人は、市場周辺の広場やカフェ、行きつけだったというパン屋などを訪れ、店員や常連客に聞き込みを行った。しかし、「そういえば最近見かけないね」「特に変わった様子はなかったと思うけど…」といった曖昧な返答ばかりで、捜索は難航した。
「うーん、やっぱり簡単には見つからないね……」日が傾き始め、リューネは焦りと疲労から、思わず頭を抱えた。依頼人の母親の悲痛な顔が脳裏をよぎる。
「何か……何か、見落としているような……手がかりになるようなものが、どこかにないかな……」ラビィも辺りを注意深く見回し、聴力を研ぎ澄ませるが、雑多な街の音の中に、特別なものは感じ取れない。
その時、ふと道の隅に落ちているものにドラゴが気づいた。
「ん? なんだこれ? キラキラしてるダゴ?」
彼が拾い上げたのは、少し泥で汚れた、刺繍の施された小さなハンカチだった。
「リューネおねーちゃん! ラビィおねーちゃん! 見てくれダゴ!」
「ハンカチ……?」リューネはそれを受け取り、泥を軽く払った。「この花の刺繍……! 昨日、ミナさんのお母さんが見せてくれた、ミナさんの持ち物の刺繍と、とてもよく似ているわ!」
「ほんとダゴ?」ドラゴはくんくん、とそのハンカチの匂いを嗅いだ。「……あ! この匂い、ミナちゃんのお母さんの家で嗅いだ匂いと同じダゴ! きっと、ミナちゃんのだ!」竜人族の優れた嗅覚が、微かな匂いを捉えたのだ。
「匂い……?」ラビィのウサミミがぴくりと動いた。「待って、この匂い……さっきボクたちが聞き込みをした、あの薄暗い路地裏の入り口でも、一瞬だけ同じような匂いがした気がする……!」
「あの路地裏……! あそこ、ミナさんが最後に目撃された場所に一番近いわ!」
点と点が線で繋がった! リューネたちは顔を見合わせ、再びあの路地裏へと急いだ。
以前よりも注意深く路地裏を調べると、地面に不自然な足跡が残っているのを発見した。
「見て、この足跡……複数人いる。それも、重そうなブーツの跡と……引きずられたような跡もあるわ!」
「しかも、全部同じ方向に向かってる!」ラビィが付け加える。
三人は、足跡を慎重に辿っていった。足跡は、人気のない裏通りを抜け、やがて、街の隅にある、今は使われていない古い倉庫のような、廃墟となった建物の前で途絶えていた。
「ここが……もしかして……」
建物からは、人の気配がする。リューネたちは息を潜め、壁に耳を当てた。中からは、複数の男たちの話し声と、酒盛りのような騒がしい音が漏れ聞こえてくる。
「……で、捕まえたガキどもは、どうすんだ? いつまでもここに置いとくわけにもいかねぇだろ」
「景気のいい貴族様に高く売れる奴は売って、残りは鉱山かどっかに奴隷として売り飛ばせばいいだろ。特にあのウサミミの小娘は高く売れそうだぜ、ケケケ」
「へへ、違いない。上手くやりゃあ、大儲けだ……」
(間違いない……! 行方不明になった人たちは、この盗賊たちに誘拐されたんだ! なんて酷いことを……!)
リューネは怒りで拳を握りしめた。ラビィとドラゴも、憤りを隠せない様子だ。
(でも、下手に動けない。まずは中の状況を把握しないと……)
リューネは仲間に合図し、音を立てないように廃墟の窓から内部の様子を窺った。
中は薄暗く、埃とカビの匂いが鼻をつく。奥には、粗末な鉄格子で作られた牢屋のような区画があり、そこには数人の男女がぐったりとした様子で閉じ込められていた。ミナちゃんらしき少女の姿も見える!
(やっぱり……! みんな、まだ無事みたいだけど、早く助けないと!)
リューネは行方不明者たちの無事を確認し、少しだけ安堵した。しかし、喜んでいる暇はない。廃墟の中では、粗野な身なりの男たちが、酒を飲み交わしながら騒いでいる。その数は……。
三人は一旦物陰に隠れ、緊急の作戦会議を開いた。
「まずは敵の人数と配置を確認しないと」リューネが小声で言う。
ラビィは再び壁に耳を当て、神経を集中させた。「……ボクの耳だと、敵は全部で10人みたい。牢屋の近くに見張りが二人、それと、入り口近くにも二人いる。残りの6人は、奥で酒盛りしてるっぽい。話し声からすると、かなり酔ってるみたいだけど……油断は禁物だよ」
「よし、10人か……」リューネは腕を組む。「どうやって助け出すか……」
「オレが正面から突撃して、でっかい斧でドーン!ってやって、火炎でバーッ!ってやれば、みんなやっつけられるダゴ!」ドラゴが自信満々に提案する。
「ドラゴ、それは危険すぎるわ!」リューネが慌てて止める。「敵の中には手練れがいるかもしれないし、人質に危険が及ぶかもしれない。正面から戦うのは最後の手段よ」
「そうだよ、ドラゴくん! もっと慎重にいかないと!」ラビィも同意する。
「うーん……じゃあ、どうするダゴ?」ドラゴは少し不満そうだ。
「そうね……まずは、敵の警戒を解いて、音もなく牢屋に近づく必要があるわ。ラビィ、何か良い方法はある? 例えば、外から音を立てて、見張りの注意をそっちに向けるとか……」
「うん、それならできるかも! ボクが石とかを投げて、外に何かいるように思わせるよ!」
「分かった。じゃあ、ラビィが陽動をお願い。その隙に、私とドラゴが牢屋に近づいて、鍵を開ける。ドラゴには、もし見張りに見つかりそうになったら、その怪力でなんとかしてもらわないと」
「任せるダゴ! ドーンってやるダゴ!」(少し不安だが、今は頼るしかない)
「そして、人質を安全な場所に誘導できたら、最後に三人で協力して、残りの盗賊たちを一掃する。これでどうかな?」
「了解!」
「了解ダゴ!」
三人はそれぞれの役割を確認し、互いの目を見て強く頷いた。いよいよ、救出作戦の開始だ。緊張感が、三人を包み込む。




