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ガーディアン  作者: 月神世一
ガーディアン!
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ep 6

森での一夜

パチパチと心地よい音を立てて燃える焚き火が、夜の森に暖かな光の輪を作っていた。その中心で、串に刺されたレッドボアの肉が、香ばしい匂いを漂わせながら焼けている。昼間の狩りの獲物は、ダダの素早い解体作業によって、あっという間に食料へと変わっていた。

「んー! おいひいれふ!(美味しいです!)」

リーフは熱々の肉にかぶりつき、頬をいっぱいに膨らませながら満面の笑みを見せた。昼間の疲れと不安が、温かい食事によって少しずつ癒されていくようだ。肉には、彼女が周辺で見つけてきた数種類のハーブが擦り込まれており、それが単調になりがちな焼肉の風味を豊かにしていた。

「リーフが見つけてくれたハーブのおかげだよ。これが『料理』ってやつなのかな? すごいな、ただ焼くだけよりずっと美味しい!」

ダダも目を丸くして感心している。彼はこれまで、獲物を捕らえても、ただ焼くか、せいぜい塩で味付けするくらいしか知らなかったのだ。

「いえ、私はそんな……パパが、野草に詳しいだけですから」

リーフは照れくさそうに俯いたが、役に立てたことが嬉しいのか、その表情は明るかった。父親の話が出たことで、少しだけ寂しそうな影が差したが、すぐに笑顔に戻る。

和やかな空気が流れていた、その時だった。

「!?」

ふいに、ダダの動きが止まった。彼は鼻をひくつかせ、鋭い視線で焚き火の光が届かない暗闇へと神経を集中させる。

「どうしたんですか、ダダ?」

リーフは不思議そうに首を傾げた。

「……匂いが強くなってきた。……ゴブリン達だ」

ダダの声には、先ほどまでの和やかさは消え、張り詰めた警戒の色が宿っていた。彼は静かに立ち上がる。

「え!?」

リーフは血の気が引くのを感じ、慌てて食べかけの肉を落としそうになりながら立ち上がった。昼間、ウルギンに襲われた恐怖が蘇る。

「リーフ! すぐにあの木の上に登って! 静かに隠れてるんだ!」

ダダは近くの枝振りの良い大木を指さし、低い声で、しかし有無を言わせぬ口調で指示した。

「は、はい!」

リーフは恐怖に震えながらも、ダダの言葉に従い、必死で木をよじ登り、葉の茂った枝の陰に身を潜めた。

ダダはリーフが無事に隠れたのを確認すると、再び闇に意識を集中させた。風に乗ってくるゴブリン特有の酸っぱいような体臭と、微かな物音。

(この匂いの強さだと……数はそんなに多くない。せいぜい3、4匹か……でも……)

ギリ……ガサガサ……。

茂みの向こうから、複数の足音が近づいてくる。そして、甲高い、耳障りな声が聞こえてきた。

ゴブリンA「ギー! ギャギャ!(肉の匂いだ! こっちだ!)」

ゴブリンB「ギャー、ギャー!(獲物がいるぞ! 急げ!)」

ダダは眉をひそめた。

(近くにいるはずだ、探せ、か……。やっぱり肉の匂いに釣られてきたんだ。数が少ないのは幸いだけど、仲間を呼ばれたら厄介だ……やるなら、今しかない!)

ダダは素早く思考を巡らせると、焚き火のそばに転がっていた手頃な石を拾い上げ、音もなく木の後ろに身を隠した。そして、息を殺して敵が十分に近づくのを待つ。

やがて、醜悪な緑色の肌をしたゴブリンが3匹、涎を垂らしながら焚き火の明かりの中に姿を現した。粗末な棍棒や錆びた短剣を手にしている。

ダダは、最も近くにいたゴブリンAの背後に、まるで影のように回り込んだ。ゴブリンAが、無防備に焼けた肉に気を取られた瞬間――

「!」

ダダは地面を蹴り、一気にゴブリンAの頭上へ跳躍した! そして落下しながら、全体重を乗せた両のかかとを、ゴブリンAの頭蓋に叩きつける!

「ギャッ!?」

鈍い破壊音と共に、ゴブリンAは短い悲鳴を上げ、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。一撃必殺。

「ギャギャーーッ!!(何だ!? 敵襲だ!)」

突然の仲間の死に、残りのゴブリンBとCは驚き、怒り狂ってダダに向き直った。ゴブリンBが棍棒を振り上げ、ダダに突進してくる!

ダダはそれを紙一重でかわすと、燃え盛る焚き火の中に手を突っ込み、火のついたままの太い薪を引き抜いた!

「ギャアアアア!?」

躊躇なく、燃える薪の先端を、突進してきたゴブリンBの顔面に押し付ける! 肉の焼ける嫌な音と、悲鳴が夜の森に響き渡る。ゴブリンBは顔を押さえて転げ回り、やがてその身に火が燃え移った。火だるまとなって暴れ狂ったが、すぐに力尽きて動かなくなった。

残るはゴブリンCのみ。仲間たちの無残な死を目の当たりにし、完全に戦意を喪失したゴブリンCは、踵を返して闇の中へ逃げ出そうとした。

「悪いけど、逃がさないよ!」

ダダは先ほど拾っておいた石を、逃げるゴブリンCの背中に向かって正確に投げつけた! 石は唸りを上げて飛び、ゴブリンCの後頭部を直撃する。

「ギャッ……!」

ゴブリンCは短い悲鳴と共に前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。

ほんのわずかな時間で、3匹のゴブリンは全滅した。辺りには、肉の焼ける匂いに混じって、血と、焦げた嫌な匂いが漂っている。先ほどまでの和やかな雰囲気は完全に消え去り、厳しい静寂が戻ってきた。

「…………す、すごーい……」

木の上からそっと降りてきたリーフは、目の前の光景に言葉を失い、ただただ目を丸くしてダダを見つめていた。恐怖よりも、驚きと感嘆の方が大きいようだ。

「……そうかな?」ダダは、ゴブリン達の亡骸を見下ろし、少しだけ悲しそうな、複雑な表情を浮かべた。「あんまり、殺したくはないんだけどね……守るためには、仕方ないから」

彼は小さくため息をつくと、リーフに向き直り、いつもの穏やかな笑顔を作った。

「よし、ゴブリンはもう片付けたから大丈夫。もう襲ってはこないはずだよ。疲れただろうし、今日はもう寝よう」

「は、はい……」

リーフはまだ少し興奮が冷めやらない様子で頷くと、ダダの隣にちょこんと座った。ダダは焚き火の火力を少し落とし、ゴブリンの亡骸を森の奥へと引きずっていく(明日の朝、埋めるか、あるいは他の獣の餌になるだろう)。戻ってきた彼は、リーフの隣に静かに横になり、交代で見張りをするつもりなのか、片目を開けたまま、静かに夜空を見上げていた。

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