ep 26
イレーザに案内され、事務所の奥にある小さな応接室に通されたリューネ、ラビィ、ドラゴ。部屋の中には、一人の女性がやつれた様子で座っていた。年の頃は四十代ほどだろうか、簡素だが清潔な服を着ているが、その顔は深く憔悴しきっており、目の下には濃い隈が刻まれ、頬はこけている。彼女が今回の依頼人、行方不明になった娘さんのお母さんだった。
三人が入室すると、母親はすがるような目で彼ら(特に一番年長に見えるリューネ)を見つめ、か細い声で話し始めた。
「あ……あなたがたが、ガーディアンの方……?」
そして、次の瞬間には感情が堰を切ったように、涙ながらに訴えかけてきた。
「どうか……どうか、私の娘を……あの子を助けてください……! お願いします……!」
椅子から崩れ落ちんばかりの勢いで、母親は床に膝をつき、絞り出すような声で懇願した。その姿はあまりにも痛々しく、リューネは思わず胸を締め付けられた。
イレーザに促され、母親は少し落ち着きを取り戻し、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
娘の名は「ミナ」。まだ十歳になったばかりの、明るく元気な女の子だったという。数日前、街の中で友達と遊んでいたのを最後に行方が分からなくなり、夜になっても帰ってこなかった。他の行方不明者と同じように、まるで神隠しにあったかのように、何の手がかりも残さずに消えてしまったのだ。衛兵隊にもすぐに捜索願を出したが、「他にも同様の届け出が多数あり、捜査は難航している」と言われるばかりで、具体的な進展は何もないらしい。母親は、日に日に衰弱し、希望を失いかけていた。
「ミナは……私の、たった一人の……宝物なんです……。あの子がいなくなったら、私は……」
母親の悲痛な言葉に、三人は心を強く打たれた。特に、孤児院で育ち、親を知らない(あるいは早くに亡くした)リューネにとって、母親の娘を想う気持ちは痛いほど伝わってきた。
(絶対に、助けなきゃ……!)
リューネは母親の手をそっと握りしめ、力強く言った。
「お母さん、もう大丈夫です。必ず、ミナさんを見つけ出します! 私たち『戦乙女・ローズ』に、どうか任せてください!」
「うん! ボクたちも全力で探すから!」ラビィも力強く頷く。
「オレが悪い奴をやっつけて、ミナちゃんを助けるダゴ!」ドラゴも小さな拳を握りしめた。
三人の真剣な眼差しと力強い言葉に、母親の目にわずかながら希望の光が戻ったように見えた。
しかし、その時だった。それまで黙って話を聞いていたイレーザが、表情を変えずに、冷や水を浴びせるような言葉を発した。
「……心意気は結構ですが、リューネさんたち。これは感傷で引き受けるべき仕事ではありません。ギルドを通した正式な依頼です。つまり、貴方たちには結果を出す責任がある」
イレーザは、母親の前であることも憚らず、淡々と言葉を続ける。その表情は、先ほどまでの柔和な笑顔とは違い、どこか冷徹ささえ感じさせた。
「万が一、捜索に失敗した場合、あるいは期限内に結果を出せなかった場合、依頼失敗と見なされ、ギルド規定に基づきペナルティが科せられます。報酬はもちろんゼロ、場合によっては貴方たちのガーディアンランクの降格、あるいは資格剥奪もあり得ます。それでも、この依頼を引き受けますか?」
イレーザの言葉に、三人は息を呑んだ。ガーディアンの仕事は、人助けの美談だけではない。そこには厳しい契約と責任が伴う。失敗は許されない。特に、アイアンランクになったばかりの自分たちが失敗すれば、その代償は大きいかもしれない。これが、プロのガーディアンの世界の現実なのだ。
一瞬、部屋に重い沈黙が流れた。母親は不安そうに三人の顔を見つめている。
それでも、リューネの決意は揺らがなかった。目の前で助けを求めている人がいる。その人を、危険やペナルティを恐れて見捨てることなど、彼女にはできなかった。
「……はい」リューネは、イレーザの目を真っ直ぐに見返し、はっきりとした声で言った。「どんな困難があろうと、どんな責任が伴おうと、困っている人を見過ごすことはできません。私たち『戦乙女・ローズ』は、正式にこの依頼をお受けします!」
その言葉には、迷いはなかった。隣で、ラビィとドラゴも、覚悟を決めた表情で力強く頷いている。
イレーザは、三人の揺るぎない決意の瞳をしばらく見つめた後、ふっと息をつき、小さく、しかし確かに頷いた。その表情は、ほんの少しだけ和らいで見えたかもしれない。
「……分かりました。パーティー『戦乙女・ローズ』、依頼ナンバー734、行方不明者捜索任務、正式に受理します。健闘を祈ります」
こうして、リューネたちアイアンランクガーディアン「戦乙女・ローズ」の、初めての正式で、そして困難な任務が始まった。街を覆う不穏な謎を解き明かし、消えた人々を救い出すために、彼女たちの小さなパーティーが、今、動き出す。




