ep 22
ブルホーン襲撃事件の後、ガーディアンの仕事の厳しさを目の当たりにしたリューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、以前にも増して訓練に没頭した。あの日感じた無力感と悔しさをバネに、剣術、弓術、斧術、そして体術と、日々の鍛錬を重ね、互いに切磋琢磨し、技を磨き上げていった。
そして、季節がまた一つ巡った頃、ついにその日がやってきた。ツリーランク見習いたちの卒業試験の日だ。合格すれば、見習いの階級章を外し、正式なガーディアンの証であるアイアンランクの称号を得ることができる。
試験会場となったのは、いつもの地下訓練場。しかし、今日の空気はいつもと違い、張り詰めた緊張感に満ちている。他のツリーランクの同期たちも、固唾を飲んで自分の順番を待っていた。そして、試験官として彼らの前に立ったのは……。
「最終選抜試験は俺が直々に行う」
厳しい表情で腕を組む、指導官デュークその人だった。
「課題は一つ。この俺に、一撃でも有効打を当てること。制限時間は一本の香が燃え尽きるまで。それができれば、貴様らをアイアンランク、正式なガーディアンとして認めてやる。……だが、できなければ、万年ツリーか、あるいは荷物をまとめて故郷へ帰ることだな」
デュークの言葉に、見習いたちはゴクリと唾を飲んだ。あのデューク教官に、一撃でも当てる? それは不可能に近い難題に思えた。しかし、リューネ、ラビィ、ドラゴの三人の瞳には、緊張と共に、闘志の炎が燃え上がっていた。これまでの努力の全てをぶつける、絶好の機会だ。
試験は、一人ずつデュークに挑む形式で行われた。
最初に挑んだのはリューネだった。
「お願いします!」
彼女は剣と盾を構え、集中力を高め、果敢にデュークに斬りかかった。訓練で磨いた速さと的確さ。しかし――
「遅い!」
デュークは、リューネの剣閃を最小限の動きでひらりとかわすと、まるで子供をあやすかのように、彼女の盾を軽く払い、がら空きになった胴に強烈ではないが的確な蹴りを入れた。
「ぐっ……!」
リューネは体勢を崩し、地面に倒れ込む。何度立ち上がり、角度を変え、フェイントを織り交ぜて攻撃を仕掛けても、全て見切られ、受け流され、時には軽々と投げ飛ばされた。実力の差は、歴然だった。
次に挑んだのはラビィだ。
「ボクなら!」
彼女は持ち前のスピードで距離を取り、弓を引き絞る。放たれた矢は、風を切ってデュークの急所目掛けて飛んでいく! しかし――
パシッ!
デュークは、飛来する矢をこともなげに素手で掴み取った!
「なっ!?」
ラビィが驚愕する間もなく、デュークはその矢を、恐るべき正確さでラビィに向かって投げ返してきた!
「ひゃっ!?」
ラビィは咄嗟に横っ飛びに避けたが、頬を掠めた矢の風圧に冷や汗が止まらなかった。遠距離攻撃すら、彼には通用しないのか。
最後に挑んだのはドラゴだった。
「オレがやるダゴ!」
彼は雄叫びを上げ、巨大な両手斧を振りかぶり、その体重とパワーの全てを乗せてデュークに突進した! 竜人族の膂力が込められた一撃! しかし――
ガキンッ!
デュークは、ドラゴの渾身の斧撃を、手にしていた訓練用の長剣一本で、こともなげに受け止めた。そして、逆に斧の柄を掴むと、ドラゴの小さな体を軽々と持ち上げ、訓練場の壁際まで投げ飛ばした!
「ぐえっ……!」
ドラゴは壁に叩きつけられ、立ち上がろうとするが、全身の衝撃で体が言うことを聞かない。
三人とも、持てる力の全てをぶつけた。だが、結果は同じ。デュークの圧倒的な強さの前に、全く歯が立たなかった。訓練場の隅で、三人は肩を落とし、絶望感に打ちひしがれていた。
「……まだまだ、だ……。全然、届かない……」
リューネの目から、悔しさで涙が溢れた。
「こんなんじゃ……とてもじゃないけど、ガーディアンなんて……」
ラビィは膝から崩れ落ち、うなだれた。
「強くなるって決めたのに……! もっともっと、強く……なるダゴ……!」
ドラゴは地面を拳で叩き、悔しさを噛み締めた。
香は、もう残りわずかだ。諦めムードが漂い始めた、その時。
「……まだ、終わりじゃない!」リューネが顔を上げた。「一人じゃ無理でも、三人なら……!」
「……!」ラビィとドラゴも、リューネの言葉にハッとする。
そうだ、自分たちは一人じゃない。集団戦訓練で学んだはずだ。仲間を信じ、連携することの大切さを。
三人は、無言で頷き合うと、最後の力を振り絞って立ち上がった。そして、再びデュークの前に立つ。その瞳には、諦めではなく、最後の可能性に賭ける強い意志が宿っていた。
「「「お願いします!!」」」
三人は同時に動いた!
リューネは前に出て、剣と盾を構え、デュークの攻撃を引きつけることに専念する。防御に徹し、ひたすら耐える!
「ラビィ、援護を!」
「任せて!」
ラビィは、デュークの注意がリューネに向いている隙に、彼の死角に回り込みながら、牽制の矢を次々と放つ! デュークはそれを払い落とすが、完全には無視できない。
「ドラゴ! 今だ!!」
ラビィが作り出した一瞬の隙。それを、ドラゴは見逃さなかった!
「うおおおおお!!!」
彼は、これまでの人生で一番の雄叫びを上げ、両手斧にありったけの力を込めて、デュークに向かって渾身の一撃を放った!
デュークも、ドラゴの捨て身の攻撃を予測はしていた。体を捻り、かわそうとする。しかし、リューネの防御とラビィの牽制が、彼の動きをほんのわずかに、だが確実に鈍らせていた。
ザシュッ!
鈍い音が響いた。ドラゴの斧の先端が、デュークの肩鎧を浅く切り裂き、その下の服に赤い線を描いたのだ!
「……!!」
時が止まったかのように、訓練場の誰もが息を飲んだ。
「や……やった……!?」
「当たった……ダゴ!?」
三人は、信じられないという表情で、デュークの肩を見た。確かに、一撃が入った。
デュークは、ゆっくりと肩を押さえ、傷口を確認すると、無表情のまま、三人に近づいてきた。そして、静かに、しかしはっきりと告げた。
「……合格だ」
その一言に、三人の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「「「やったーーーっ!!」」」
喜びと安堵感で、三人はその場にへたり込み、互いに抱き合い、声を上げて泣き、そして笑った。
辛く、厳しい道のりだった。何度も挫けそうになった。それでも、仲間を信じ、諦めずに立ち向かい、ついに掴み取った合格。
デュークは、そんな三人の姿を、厳しい表情の中にも、ほんの少しだけ誇らしげな色を浮かべて見守っていた。
リューネ、ラビィ、ドラゴ。三人の見習いは、この日、多くの涙と汗の先に、ついに正式なガーディアンの証である、アイアンランクの称号を手に入れたのだった。彼らの新たな物語が、ここから始まる。
いかがでしたでしょうか? 卒業試験の厳しさ、三人の挫折と諦めない心、そして最後の連携で見事合格を掴み取る感動的なシーンを描いてみました。




