ep 18
武器を選び、それぞれの専門訓練を始めてからしばらく経ったある日。デュークは訓練場にツリーランクのガーディアン見習いたちを集めた。その中には、もちろんリューネ、ラビィ、ドラゴの姿もある。
「よし、貴様らも個々の力は多少なりとも向上してきたようだな。だが、ガーディアンの戦いは常に単独とは限らん。むしろ、仲間と連携して強敵に当たる場面の方が多い」デュークは厳しい視線で全員を見回した。「そこで、今日は集団戦の基礎を学んでもらう。外部から経験豊富なガーディアンに応援を頼んである。彼らの指示に従い、チームとして動くことを叩き込め」
いつもとは違う訓練内容、そして外部のガーディアンが来るということに、見習いたちは緊張した面持ちで顔を見合わせた。
デュークの言葉通り、街の外れにある広い訓練用フィールドに集められたツリーたちの前に、一人の男性が現れた。年の頃はデュークと同じくらいか、少し上かもしれない。岩のようにごつい体躯に、顔にはいくつもの古傷が走り、剃り上げた頭が一層厳つい印象を与えている。その鋭い眼光は、見習いたち一人一人を射抜くようだ。
「ようこそ、未来の英雄(あるいはただの死体)候補ども!」男性は、野太い、しかしよく通る声で言い放った。「俺が今日、貴様らをしごいてやるゼズマだ! 始めに言っておくが、俺はデューク以上に厳しいぞ! 訓練についてこれん奴、仲間を見捨てる奴、指示に従えん奴は、使えんゴミとして容赦なく落第させる! 分かったか!」
そのあまりにも直接的で厳しい言葉と、全身から発せられる圧倒的な威圧感に、ツリーたちは静まり返り、誰も声を発することができない。リューネたちも、ゴクリと唾を飲み込み、その迫力に完全に気圧されていた。
「返事はどうした! ガーディアンの卵ども!!」ゼズマが一喝する。
「「「ハイッ! ゼズマ教官!!」」」
ツリー一同は、びくりと体を震わせ、慌てて声を張り上げた。
「よろしい」ゼズマは頷くと、訓練の説明を始めた。「今日の訓練は、集団戦闘における連携と状況判断だ。敵役として、ブロンズランクのガーディアン数名に協力してもらう。はっきり言って、今の貴様ら一人一人が束になっても敵わん相手だ! だが、だからといって、自分たちより強いからと尻尾を巻いて逃げ出すような臆病者は、ガーディアンにはいらん!」
ゼズマの言葉に、ツリーたちの顔に再び緊張が走る。
「いいか! ガーディアンとは、ただ強いだけでは務まらん! 知恵を使え! 仲間を信じろ! そして、どんな強敵であろうと、勇気を持って立ち向かえ! それができて初めて、人々を守る盾となり剣となることができる! 今日はその第一歩だ! 気合を入れて臨め!」
「「「はいっ!!」」」
ゼズマの熱い言葉に、ツリーたちの心に火が灯った。恐怖や不安が、やる気と闘志へと変わっていく。
ゼズマは、ツリーたちを能力や適性を見ながら素早くいくつかのグループに分け、それぞれのリーダーと役割を指示した。
「第一班は陽動! 敵の注意を引きつけろ!」
「第二班、第三班は左右から回り込み、敵を包囲する!」
「第四班は後方から弓や魔法で援護!」
「第五班は負傷者が出た場合の救護と離脱の援護!」
ゼズマの指示は、戦場の指揮官のように具体的かつ的確だった。
リューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、他の数名と共に「第三班」として、右翼からの包囲を担当することになった。リーダーは、少し年長の剣使いの少年だ。
「よし、行くぞ!」
リーダーの合図で、各班は一斉に行動を開始した。ツリーたちは、まだ戸惑いながらも、必死で指示に従い、連携を取ろうと動く。
リューネたち第三班は、森の地形を利用しながら、敵役ガーディアンの側面を目指して移動を開始した。
「ラビィ、前方の索敵をお願い!」リューネが指示を出す。
「了解! ……ん? 左前方、茂みの奥に二人隠れてる! 奇襲だ!」ラビィが鋭く警告する。
「ドラゴ、前に出て威嚇! ボクたちが側面を突く!」リーダーが即座に判断する。
「任せるダゴ!」ドラゴが雄叫びを上げて斧を構え、茂みに向かって突進する!
敵役のガーディアン(おそらく陽動を突破してきたのだろう)が茂みから飛び出してくるが、ドラゴの迫力に一瞬怯む。その隙に、リューネたちが左右から挟み撃ちにする形を取り、リーダーが剣で、リューネが剣と盾で、ラビィが後方から弓で的確に援護し、見事な連携で敵役二人を無力化(訓練用のマーカーを付けた)した。
「やった!」
「すごい連携だったダゴ!」
短い戦闘だったが、三人の(そして班の)成長が見て取れた。彼らは気を引き締め直し、再び目的地へと向かった。
やがて、全ての包囲班が所定の位置に付き、敵役ガーディアンを完全に包囲することに成功した。
「よし、包囲完了! 各個、攻撃開始! 敵を殲滅しろ!」
ゼズマの号令がフィールドに響き渡る!
ツリーたちは一斉に鬨の声を上げ、包囲の輪を縮めながら、中央の敵役ガーディアンたちに襲いかかった! リューネたち第三班も、剣を抜き、弓を引き絞り、斧を振り上げ、勇猛果敢に突撃する!
しかし、敵役のブロンズガーディアンたちは、やはり手強かった。
ツリーたちの未熟な攻撃を、彼らは最小限の動きで捌き、いなし、時には武器を弾き飛ばし、的確な反撃で次々とツリーたちを戦闘不能にしていく。
「くっ……! 速い!」
「全然、攻撃が当たらない!」
「うわっ!」
リューネたちも苦戦を強いられた。リューネは盾で仲間を守りながら必死に応戦するが、リーダーの重い一撃に体勢を崩される場面もある。ラビィの矢も、巧みにかわされたり、盾で防がれたりしてしまう。ドラゴのパワーも、経験豊富な相手には動きを読まれ、決定打を与えられない。
それでも、三人は諦めなかった。
「ラビィ、援護を!」
「ドラゴ、今だ!」
「後ろは任せるダゴ!」
互いを励ましあい、声を掛け合い、必死に連携を繋ぐ。リューネが盾で敵の攻撃を引きつけ、ラビィがその隙に急所を狙い、ドラゴが渾身の一撃で敵の体勢を崩す! 他の班のツリーたちも、必死に食らいつき、援護し合う。
一人、また一人と脱落していく仲間たち。それでも、残った者たちは諦めずに戦い続けた。三人の奮闘もあり、ツリーたちは徐々に、しかし確実に敵役ガーディアンたちを消耗させ、追い詰めていった。
そして、ついにその時が来た。リューネがリーダー格の敵役の攻撃を盾で受け止め、ラビィが放った矢がその腕を射抜き、動きが止まった瞬間、ドラゴの炎を纏った両手斧が唸りを上げて叩き込まれた!
「これで、終わりだゴーーッ!!」
敵役リーダーはたまらず武器を手放し、地面に膝をついた。それと同時に、他の敵役たちも、ツリーたちの連携攻撃によって次々と戦闘不能となっていった。
「「「やったーーーっ!!」」」
フィールドに、ツリーたちの歓声が響き渡った。疲労困憊で、泥まみれになりながらも、彼らは互いに肩を叩き合い、健闘を称え合い、喜びを分かち合った。
ゼズマは、その様子を腕を組んでじっと見ていた。そして、厳しい表情をわずかに緩め、静かに、しかしフィールド全体に響く声で言った。
「……悪くない。個々の未熟さは否めんが、仲間を信じ、最後まで諦めずに戦い抜いた。今回の訓練は、合格だ」
その言葉に、ツリーたちは最高の喜びと安堵感に包まれた。厳しい訓練だったが、それ以上に得るものは大きかった。集団で戦うことの難しさ、そして、仲間と力を合わせることの重要性。彼らは身をもってそれを学び、ガーディアンとして、また確かな一歩を踏み出したのだった。




