ep 15
アルトゥンの南門を抜け、デュークから指示された地区へと向かう三人。緑豊かな草原が広がり、遠くには森が見える。
「じゃあ、まずは索敵からだね。ラビィ、お願いできる?」リューネが周囲を警戒しながらラビィに指示を出す。すっかりパーティーの司令塔役が板についてきた。
「分かった! 任せて!」ラビィは元気よく返事をすると、ぴんと立てたウサミミに神経を集中させる。目を閉じ、微かな音も聞き逃すまいと耳を澄ます。風の音、草の音、そして……。
「…いた! あっちの岩場の陰! 複数いるみたい! ゴブリンの、あの嫌なキーキー声が聞こえる!」ラビィが特定の方向を指差した。
「そっちだね。よし、行こう!」リューネは剣と盾を構え直し、ラビィが指した方向へと歩き出す。
ドラゴは、両手斧を肩で担ぎ直し、興奮を隠せない様子だ。「ゴブリンか! やっと暴れられるダゴ! オレの新しい技、試してやるダゴ!」その小さな体からは想像もつかない好戦的なオーラが溢れている。
(ゴブリン……。前は三人で苦戦したけど、今回は……)
リューネは以前、リリカを助けた時の戦いを思い出し、ごくりと唾を飲んだ。あの時とは武器も違う、訓練も積んだ。それでも、心のどこかに不安が残る。
岩場に近づくと、数匹のゴブリンが焚き火を囲んで何かを漁っている姿が見えた。その数は6匹。
(よし、やるぞ!)
三人は互いに頷き合い、戦闘態勢に入った。作戦は訓練通り。
まず、ラビィが音もなく近くの木に駆け上り、枝の上に陣取って弓を構える。高い位置から戦場全体を見渡し、的確な狙撃で敵の数を減らし、味方を援護する役目だ。
「行くよ!」
リューネの合図と共に、ドラゴが雄叫びを上げてゴブリンたちに突進した!
「うおおお! オレが相手ダゴ!」
ゴブリンたちが驚いて振り返る。その瞬間を狙って、ラビィの矢が放たれた! ヒュン、と風を切る音と共に、矢は正確に一体のゴブリンの眉間を射抜く!
「ギャッ!?」
悲鳴を上げる間もなく、ゴブリンが一体倒れる。
「な、なんだ!?」
「敵襲だ!」
混乱するゴブリンたちに、ドラゴが巨大な両手斧を振り回しながら襲いかかる! まだ少し扱いは荒削りだが、そのパワーとリーチは絶大だ。斧が唸りを上げて振るわれるたびに、ゴブリンたちは恐怖で後ずさる。
「させない!」
リューネは、ドラゴの死角をカバーするように動き、ゴブリンたちの攻撃を盾で受け止め、あるいは剣で巧みにいなしていく。以前よりも格段に動きが洗練され、安定感が増している。彼女がいることで、ドラゴは思う存分、前で暴れることができていた。
木の上からは、ラビィの正確無比な矢が次々と放たれる。ゴブリンたちは、ドラゴの斧とリューネの剣盾、そして頭上からの矢によって、効果的に数を減らされていった。
「くそっ、小娘どもが!」
「囲め! 囲んで叩け!」
数が減り、焦ったゴブリンたちが連携を取り直し、リューネとドラゴを囲もうとする。
「ドラゴ! 下がって!」
「させるかダゴ! くらえ! オレの必殺技! ドラゴファイヤー!!」
ドラゴは後退するどころか、さらに前に出ると、両手斧を振り上げると同時に、口から灼熱の火炎を放射した! 扇状に広がった炎が、前方のゴブリンたちを一気に飲み込む!
「ギャアアアア!!」
「アヂヂヂヂ!!」
炎に焼かれ、黒焦げになったゴブリンたちが地面を転げ回る。
「今だよ、リューネ!」上からラビィの声が飛ぶ。
「ええ!」
リューネは、炎から逃れようとして体勢を崩したゴブリンたちに素早く駆け寄り、剣を振るった。的確な一撃が、次々とゴブリンたちの息の根を止めていく。
あっという間に、6匹いたゴブリンの集団は全滅した。
「やった!」ラビィが木から飛び降りてきて、笑顔を見せる。
「どうだ! オレの必殺技、すごいだろ!」ドラゴは鼻息荒く胸を張った。
「うん、すごかったよ、ドラゴ。でも、ちゃんと連携しないと危ない場面もあったよ」リューネは安堵の息をつきながらも、冷静に反省点を口にする。
三人の息の合った連携プレー。それは、数ヶ月前の彼女たちからは考えられないほどの成長だった。
しかし、安堵したのも束の間だった。
「! まだだよ! 今度はもっと大きくて、強いのが来る!」
ラビィが耳を押さえ、険しい表情で森の奥を睨みつけた。
ゴブリンたちの死体の向こうから、のっそりと一体のゴブリンが現れた。しかし、その姿は先ほどのゴブリンたちとは明らかに違う。体格は一回りも二回りも大きく、筋骨隆々とし、顔には深い傷跡が刻まれ、手には錆びてはいるが巨大な鉈のような武器を握っている。その濁った目には、狡猾さと残忍さが宿っていた。ゴブリンリーダーだ。
「グルルルル……コロシテヤル……」
リーダーは、仲間たちの死体を見下ろし、低い、唸るような声で威嚇した。その殺気に、三人は息を呑む。
(こいつ……今までのゴブリンとは全然違う……!)リューネは盾を構え直し、額に汗が滲むのを感じた。
(うわっ、すごいプレッシャーだ……!)ラビィも弓を引き絞り、ゴブリンリーダーから目を離さない。
(こいつ、強そうだダゴ……! でも、オレがやるダゴ!)ドラゴは両手斧を握りしめ、闘志を燃やす。
ここで退くわけにはいかない。掃討任務なのだ。
三人は再びアイコンタクトを交わし、リーダーに立ち向かう覚悟を決めた。
戦闘が再開された!
リーダーは、その巨体に似合わぬ素早い動きで距離を詰め、鉈を振り下ろしてきた!
「くっ……重い!」
リューネは盾で受け止めるが、その一撃の重さに腕が痺れる。リーダーの攻撃は、ただ力が強いだけでなく、経験に裏打ちされた鋭さがあった。
「オレの出番ダゴ!」
ドラゴが横から両手斧を叩きつけようとするが、リーダーは巧みに身をかわし、逆にドラゴの体勢を崩そうとする。
「させない!」
「今だよ、ラビィ!」
木の上から放たれたラビィの矢が、リーダーの肩を掠める! 動きが一瞬止まった隙に、リューネが剣で牽制し、ドラゴが斧で追撃する!
三人は必死に連携を取りながら、ゴブリンリーダーに立ち向かう。しかし、リーダーは手強かった。攻撃を的確にかわし、時には盾ごと吹き飛ばされそうな反撃を繰り出してくる。
(このままじゃジリ貧だ……!)
リューネはリーダーの攻撃を盾で受け止めながら、必死に活路を探った。
「ラビィ! 今度、ボクが攻撃を受け止めるから、背後から集中して狙って!」
「分かった!」
ラビィは木の上で素早く位置を変え、矢を番える。
リューネは、リーダーの次の攻撃を、全身で受け止める覚悟で盾を構えた。ドゴン!という衝撃と共に、体がよろめくが、なんとか持ちこたえる!
「今!」
その一瞬の隙を突き、ラビィの放った矢がリーダーの背中に深々と突き刺さった!
「グギャアアア!?」
リーダーが苦痛に動きを止める。
「とどめダゴ! ドラゴファイヤー!!」
その隙を逃さず、ドラゴが再び灼熱の火炎を放射した! 今度は至近距離からの直撃だ!
「ギャアアアアアア……ッ!!」
断末魔の悲鳴を上げ、ゴブリンリーダーは炎に焼かれながら、ついにその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……やった……」
「倒した……!」
「やったダゴ……!」
三人は、武器を下ろし、互いに顔を見合わせた。強敵を、三人で協力して倒した。その達成感と、仲間との絆を確かめ合うような喜びが、疲労した体を満たしていく。
しかし、彼らの任務はまだ終わっていない。この地区には、もう一つの脅威、ジャイアントスパイダーも潜んでいるはずだ。一息つくと、三人は警戒を怠らず、次の目標を探し始めるのだった。




