ep 11
ドラゴがクレッセントワルツに加わってから数週間。リューネとラビィは、自身の訓練と並行して、先輩としてドラゴの面倒を見る日々を送っていた。今日は、ツリーランクのガーディアンに課せられる日課の一つ、「薬草集め」に三人で赴くことになった。
「じゃあ、今日は街の西の森で、回復薬の材料になる薬草を集めに行こうか」リューネは薬草籠を三つ用意しながら提案した。
「いいね! 森の空気は気持ちいし! ドラゴくんも一緒に行こう!」ラビィが元気よく同意し、ドラゴを誘う。
「分かったダゴ! ボク、薬草とか初めて見るダゴ!」ドラゴは目を輝かせ、尻尾(小さく硬そうな尻尾だ)をぱたぱたと振った。
三人は薬草籠を手に、意気揚々とギルドの門をくぐった。
街を抜け、緑豊かな森へ足を踏み入れると、ひんやりとした空気が心地よい。木漏れ日が地面に落ち、鳥の声が響く。
「これは毒消し草ね。蛇とか毒虫に噛まれた時に使うの。こっちはアロマハーブ。いい香りがするでしょ? 砕いて傷口に当てると、治りが早くなるんだよ」
リューネは慣れた手つきで薬草を見つけ、その効能や見分け方をドラゴに丁寧に教えながら籠に入れていく。デュークの座学で学んだ知識が、実践を通して身についてきているようだ。
「ドラゴくん、薬草は匂いで見分けることもできるんだよ」ラビィは自慢のウサミミをぴんと立て、地面にしゃがみ込んだ。「ほら、この草はちょっと苦いような、すーっとする匂いがするでしょ? これはね、食べ過ぎたりお腹が冷えたりした時に飲むと、調子が良くなる薬草なんだ」
彼女は得意の聴覚だけでなく、優れた嗅覚も使って薬草を探しているらしい。
ドラゴは興味津々にラビィの説明を聞きながら、教えられた草の匂いを嗅いでみる。
「ほんとだ! こっちの草とは全然匂いが違うダゴ! 面白いダゴ!」
彼は目を輝かせ、夢中で様々な植物の匂いを嗅ぎ始めた。
時折、木陰で休憩し、持ってきた水や簡単な食料を口にしながら、三人は和気あいあいと森の奥へと進んでいった。先輩として教えるリューネとラビィ、そして好奇心旺盛に学ぶドラゴ。穏やかな時間の中で、三人の間には少しずつ仲間としての絆が芽生え始めていた。
やがて、三つの薬草籠は色とりどりの薬草でいっぱいになった。
「よし、これで今日のノルマは達成ね! そろそろギルドに帰って、デュークさんに報告しようか」
リューネが満足そうに立ち上がった、その時だった。
「きゃあああああっ!!」
森の奥深くから、女性の甲高い悲鳴が響き渡った!
三人はびくりとして顔を見合わせる。間違いなく、誰かが危険な目に遭っている!
「あっちだ!」
「行こう!」
ラビィとリューネは、ドラゴを促し、悲鳴が聞こえた方向へ全力で駆け出した!
木々の間を抜け、少し開けた場所にたどり着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
数匹の醜悪なゴブリンが、怯えて座り込んでいる若い女性を取り囲んでいる! 女性は恐怖で震え、手にした小さなナイフで必死に抵抗しようとしているが、数の上で劣勢なのは明らかだった。ゴブリンたちは、嘲笑うかのようにじりじりと距離を詰めている。
「助けなきゃ!」
リューネとラビィはとっさに判断したが、同時に、訓練ではない本物のモンスターを前にして、恐怖で足がすくむのを感じた。ゴブリンの濁った目、剥き出しの牙、手にした汚れた武器……訓練場の木人とはまるで違う、生々しい脅威がそこにはあった。
(怖い……でも、ここで逃げたら、あの人が……!)
(デューク教官は言ってた、ガーディアンは人々を守る存在だって……!)
二人は互いに目配せをし、震える足を叱咤して、女性の前へと飛び出した。
「あなたたちの相手は、私たちよ!」
リューネは木の棒を構え、震える声を振り絞って叫んだ。ラビィもそれに倣い、ゴブリンたちを睨みつける。
「ギャッ? ギャギャ?(なんだ? 小娘が二人?)」
ゴブリンたちは、突然現れた二人を見て、最初は驚いたようだったが、相手がまだ幼い少女だと分かると、油断したようにゲラゲラと笑い声を上げ、棍棒を振り回しながら近づいてきた。
「ラビィ、作戦通りに!」
「うん!」
リューネは学んだ棒術を駆使し、ゴブリンの棍棒を捌き、隙を突いて打ち込もうとする。しかし、ゴブリンの動きは素早く、トリッキーで、なかなか攻撃を当てることができない。
ラビィも持ち前の跳躍力でゴブリンたちを翻弄しようとするが、相手は複数。一匹の注意を引いても、別の方向から攻撃が飛んでくる。連携も巧みで、次第に二人は防御に回るのが精一杯になっていった。
「くっ……!」
「まずい……!」
必死に戦うものの、経験の差は明らかで、二人はじりじりと後退させられ、追い詰められていく。
(だめ……このままじゃ……!)
リューネが焦りを感じ始めた、その時だった。
「おねーちゃん達! 危ないダゴ! オレに任せるダゴ!!」
力強い声と共に、二人の背後からドラゴが飛び出してきた! その小さな体には、竜人族としての闘志がみなぎっている。
ドラゴはゴブリンたちの前に仁王立ちになると、大きく息を吸い込み、口をカッと開いた!
「ゴアアアァァァ!!」
次の瞬間、ドラゴの口から灼熱の火炎が放射された! 炎は扇状に広がり、あっという間に前方のゴブリンたちを包み込む!
「ギャアアアアアッ!?」
「アヂヂヂヂ!!」
突然の火炎攻撃に、ゴブリンたちは悲鳴を上げて転げ回り、その勢いは完全に止まった。数匹は炎に焼かれ黒焦げになり、残りのゴブリンたちも火傷を負い、怯えて後退する。
「今だよ! リューネ、ラビィ!」
ドラゴの声に、リューネとラビィは我に返った。絶好のチャンスだ!
「「えーいっ!!」」
二人は怯んだゴブリンたちに向かって突進し、渾身の力を込めて木の棒を振り下ろした! ドゴッ! バキッ! という鈍い音と共に、残りのゴブリンたちも次々と地面に倒れ伏し、動かなくなった。
「はぁ……はぁ……やった……」
「倒した……!」
辺りには、焦げ臭い匂いと、ゴブリンの死体が転がっている。リューネとラビィは、息を切らせながらも、互いに顔を見合わせ、安堵と達成感から、自然と笑みがこぼれた。ドラゴも、少し得意げに胸を張っている。
これは、三人にとって初めて協力して倒した、本物の魔物だった。助けられた女性がお礼を言う声を聞きながら、リューネたちは、ガーディアンとして、また一つ大きな経験を積み、確かな自信を得たことを感じていた。




