ep 7
クレッセントワルツでの訓練生活は、衣食住こそギルドから提供されるものの、ツリーランクのガーディアン見習いに支払われる報酬は、本当にごくわずかなものだった。訓練用の装備の修繕費や、たまの息抜きに使うのが精一杯だ。
しかし、先日初めての実践訓練で討伐したスライムから、リューネとラビィは任務完了の証拠となる「スライムの核」を(ウルフに追われる前に)いくつか回収していた。それをギルド内の換金所に持ち込むと、ささやかながらも、二人にとっては初めて自分たちの力で稼いだ、キラキラと輝く銅貨数枚に変わった。
「やったー! これで街で何か美味しいもの食べられるね!」ラビィが銅貨を手に、うさ耳を嬉しそうにぴょこぴょこ揺らす。
「うん! 何を買おうか、迷っちゃうね」リューネも、久しぶりの自由な時間と、自分たちで得た報酬に、自然と笑みがこぼれた。
その日の午後、訓練が休みになった二人は、そのわずかなお金を握りしめて、アルトゥンの街へと繰り出した。いつもは訓練場と宿舎、ギルド事務所の往復ばかりだったから、こうして活気あふれる街の通りを歩くだけで、心が浮き立つようだ。
露店が軒を連ね、威勢の良い呼び込みの声が響き渡る。香ばしい焼き菓子の匂い、様々な種族の人々が行き交う喧騒、荷馬車が石畳を駆ける音…。全てが新鮮で、刺激的だった。
そんな中、ふと、リューネたちの目に、ひときわ目を引く一人の男性の姿が飛び込んできた。
年齢は二十代半ばだろうか。人間の青年だが、その体は分厚い筋肉で鎧われ、まるで岩のような体格をしている。背には、彼の身長ほどもある巨大な両手剣が、その存在感を主張するように背負われていた。着ている金属鎧も使い込まれてはいるが、手入れが行き届いており、一目で熟練の戦士であることがわかる。彼が歩くだけで、周囲の人々がわずかに道を空けるような、そんな威圧感と風格があった。
「わぁ……すごーい……」
リューネは、思わず足を止め、そのガーディアンの姿に目を輝かせた。あんなに大きな剣を扱えるなんて、どれだけ強いのだろう。
「うわっ、ホントだ! めっちゃカッコいいね、リューネ!」
ラビィも目を丸くして、憧れの眼差しを送っている。
その視線に気づいたのか、筋骨隆々のガーディアンは、ふと足を止め、二人の方へとにこやかな表情で近づいてきた。意外にも、その顔立ちは整っており、笑うと人懐っこい印象を与える。
「ん? 君たち、見ない顔だね。クレッセントワルツの新人さんかい? 初めまして、オレはダイン。よろしくな」
彼は、その大きな体躯に似合わず、気さくな口調で話しかけてきた。
「は、初めまして! リューネ、です!」
突然、憧れの対象から話しかけられ、リューネは緊張で声が裏返りそうになりながらも、慌てて自己紹介した。
「ボクはラビィだよ! よろしく、ダインさん!」
ラビィは持ち前の元気さで、ぺこりとお辞儀をした。
「リューネちゃんとラビィちゃんか。可愛い名前だね」ダインは二人の胸元についている、真新しいツリーランクの階級章に気づくと、納得したように頷いた。「ふむ、やっぱりツリーか。訓練、大変だと思うけど、めげずに頑張るんだぞ。基礎が一番大事だからな」
彼は、まるで兄貴分のように、励ましの言葉をかけてくれた。
「は、はいっ! ありがとうございます!」
「頑張ります!」
リューネとラビィは、背筋を伸ばし、礼儀正しく、そして少し緊張した面持ちで答えた。
「おう。じゃあ、オレは依頼があるから行くわ。またギルドでな!」
ダインはひらりと手を振ると、再び堂々とした足取りで雑踏の中へと消えていった。
その後ろ姿を、リューネとラビィは、しばらくの間、憧憬の眼差しで見送っていた。
「……かっこよかったね」
「うん……。いつか、ボクたちもあんな風になれるかな?」
「なれるよ! きっと!」
ダインとの短い出会いは、二人の胸に、ガーディアンとしての新たな目標と、強い憧れを刻み込んだのだった。




