表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン  作者: 月神世一
ガーディアン入隊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/85

ep 6

スライム退治当日。清々しい朝の光の中、リューネとラビィはアルトゥンの西門をくぐった。数ヶ月間の厳しい訓練を経て、ついに迎えた初めての実践訓練だ。二人の顔には緊張の色が浮かんでいたが、それ以上に、自分たちの力を試せることへの期待感が溢れていた。

「うわぁ……広い……」

門の外に広がる見渡す限りの草原に、リューネは思わず声を上げた。訓練場とは違う、どこまでも続く緑と青空が目に眩しい。

「本当に、こんなところにスライムなんているのかな……?」

デュークから渡された地図と、周囲の穏やかな景色を見比べながら、リューネは少し不安げに呟いた。モンスターの気配など、今の彼女には全く感じられない。

「大丈夫だって! ボクの耳に任せてよ!」

ラビィは自信満々に、ぴょこんと自慢のウサミミを立てた。彼女は目を閉じ、全神経をその長い耳に集中させる。風の音、草の擦れる音、遠くの鳥の声……様々な音が飛び込んでくる中から、目的の音を探り出す。

しばらくすると、ラビィの耳が特定の方向を向き、ぴくりと動いた。

「いた! あっちの、少し窪んだ茂みの方から、なんか……ぷるぷる? みたいな音がする!」

ラビィは自信を持って、草原の先にある小高い茂みを指差した。

「本当? すごい、ラビィ!」

リューネはラビィの並外れた聴力に改めて感心した。これなら、不意打ちを受ける心配はなさそうだ。

二人はラビィの案内で、音のする方へと慎重に歩を進めた。息を潜めて茂みに近づくと、果たして、そこに数匹の半透明なゲル状の生物――スライム――が、ぷるぷると体を震わせながら漂っていた。大きさはバスケットボールほど。

「あ、ほんとにいる……!」

初めて見る本物のモンスターに、リューネは息を飲み、木の棒を握る手に力が入った。見た目はそこまで怖くないけれど、これがモンスター……。

「油断しちゃダメだよ、リューネ!」ラビィが隣で小声で囁いた。「デューク教官も言ってたけど、スライムだって、酸で攻撃してきたり、数が多いと囲まれたりして、見た目よりずっと手強いんだから!」

「うん! わかってる!」

リューネはこくりと頷き、訓練通りに木の棒を中段に構えた。

「よし、作戦通りいこう」リューネはスライムたちから少し距離を取り、辺りを見回して手頃な石をいくつか拾った。「ボクが向こうに石を投げて気を引くから、ラビィはタイミングを見て飛び出して、一体ずつ確実に仕留める。ボクもすぐに後を追うよ」

「うん、それにしよう!」

ラビィも頷き、いつでも飛び出せるように身を低くして、スライムの動きを注意深く観察する。

リューネは深呼吸を一つして、ラビィに目配せを送った。

「行くよ!」

掛け声と共に、リューネは拾った石を、スライムたちの少し離れた場所へ、音を立てるように投げつけた! カラン、コロン、と石が転がる音に、スライムたちは一斉にそちらへ反応し、ぷるぷると移動を始める。

「今だっ!」

その隙を逃さず、ラビィが茂みから飛び出した! ウサミミ族ならではの俊敏さでスライムに肉薄し、訓練で磨いた棒術で、一体のスライムのコアらしき部分を正確に打ち抜く!

「プギャッ!」

スライムは短い悲鳴のような音を立て、形を崩して動かなくなった。

「やった!」

「リューネ、こっち!」

ラビィが叫ぶのと同時に、リューネも駆けつけ、残りのスライムに向かって木の棒を振るう。ラビィが一体を引きつけている間に、リューネが別の個体を叩く。二人の息はぴったりと合っていた。数ヶ月間の訓練の成果が、そこにはっきりと現れていた。連携プレーで、残りのスライムたちもあっという間に動かなくなった。

「やった……! やったよ、ラビィ! ボクたち、倒せた!」

リューネは、初めて自分の力でモンスターを倒したという達成感に、思わず喜びの声を上げた。

「うん! やったね、リューネ! 二人とも、頑張った!」

ラビィも笑顔で答え、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。

興奮も冷めやらぬ中、二人はデュークに言われた通り、任務完了の証拠となるスライムの核(粘液に包まれた小さな結晶のようなもの)を注意深く集め始めた。これをギルドに持ち帰らなければならない。

「リューネ、あっちの草むらに、大きめの核がありそうだよ!」

ラビィが耳をそばだてながら、少し離れた茂みを指差した。

「ほんとだ! さすがラビィだね、ありがとう!」

リューネはラビィの言葉に感謝し、喜び勇んでその草むらへと駆け寄った。

しかし、リューネが草むらに手を入れる寸前、ラビィの表情が凍りついた。彼女のウサミミが、警戒を示すようにピンと張り詰め、小刻みに震えている。

「待って! リューネ! 何か来る……! それも、複数……!」

ラビィは低い声で警告し、素早く周囲を見回した。さっきまでの和やかな雰囲気は消え、空気が一変する。

「何かいるの!?」

リューネもラビィのただならぬ様子に異変を感じ、慌てて木の棒を構え直した。

次の瞬間、ザザッ!と音を立てて、近くの木々の間から、鋭い牙を剥き出しにした灰色の獣たちが数匹、姿を現した!

それは、森に生息する獰猛な肉食獣――ウルフだった。その数は5匹。低い唸り声を上げ、涎を垂らしながら、明らかに敵意を持って二人を囲むように距離を詰めてくる。

「ウルフだ! しかも5匹もいる……! ダメだ、今のボクたちじゃ勝てない! 危険すぎる!」

ラビィは青い顔で叫んだ。彼女の優れた聴覚が、ウルフたちの強さと殺気を正確に捉えていた。

「……! 分かった! 逃げよう、ラビィ!」

リューネも即座に状況を判断した。スライムとは明らかに違う、本物の脅威。デュークの「無理せずすぐに引き返せ」という言葉が頭をよぎる。

「うん!」

二人はアイコンタクトを交わすと、集めたスライムの核もそのままに、一目散に街へと向かって走り出した! 後方からは、ウルフたちの追跡する足音と、空気を震わす遠吠えが聞こえてくる!

二人は必死に走った。訓練で培った体力が、今まさに試されている。幸い、ウルフたちとの距離は少しずつ離れていき、やがて前方にアルトゥンの城門が見えてきた。

門を転がり込むように駆け抜け、ようやく安全な街の中へたどり着いた二人は、その場にへたり込み、肩で大きく息をした。

「はぁ……はぁ……助かった……」

「怖かった……」

しばらくして、息を整えた二人は、ギルドに戻り、デュークの元へと向かった。

「デューク教官、ただいま戻りました!」

「スライムは……討伐できましたが、その、素材を集めている途中で、ウルフの群れに遭遇して……」

リューネは、任務を完全に達成できなかったこと、そして敵前逃亡したことを申し訳なさそうに報告した。叱責を覚悟していたが……。

デュークは、二人の報告を黙って聞いていたが、意外にも怒る様子は見せず、じっと二人を見つめた後、静かに口を開いた。

「……そうか。ウルフが5匹。それで、お前たちはどうした?」

「……危険だと判断して、すぐに逃げました」リューネが答える。

デュークは、その答えに、わずかに頷いた。

「……よくやった」

「え……?」

予想外の言葉に、リューネとラビィは顔を見合わせた。

「ガーディアンにとって、敵を倒すことだけが全てじゃない」デュークは続けた。「状況を正確に判断し、自分の実力と相手の力量を見極め、危険が大きいと判断したら無理せず撤退する。それもまた、生き残るための、そして依頼人を守るための、重要な決断だ。お前たちはそれを実践した。……上出来だ」

デュークは、いつもの無愛想な表情の中に、ほんの少しだけ、二人を認めるような色を浮かべていた。

リューネとラビィは、デュークの言葉に、驚きと共に、じわりとした安堵感を覚えた。

初めての課外訓練は、予期せぬ危険に見舞われたものの、二人にとっては大きな学びとなり、無事に(そして教官に褒められて)終えることができたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ