ep 4
「リューネ、付いてきな」
デュークは背中を向けたまま、ぶっきらぼうに言った。その声には感情が乗っていないように聞こえるが、振り返らずにリューネがついてきているか気配で確認しているような、そんな不器用な配慮が感じられる。無愛想ではあるが、決して冷たいだけではない、不思議な雰囲気を纏った男だった。
「は、はい!」
リューネは少し緊張した面持ちで、デュークの広い背中を追いかけた。彼の歩幅は大きく、小走りでなければ追いつけないほどだ。
二人が向かったのは、活気あふれる事務所の喧騒とは打って変わって、ひんやりとした空気が漂うギルドの地下だった。石の階段を下りていくと、広々とした空間が現れる。そこが、クレッセントワルツの訓練場だった。
高い天井には魔道具の灯りがいくつも設置され、昼間のように明るい。壁際には様々な形状の剣や斧、槍、弓などが整然と並べられ、中央には打ち込み用の木人や、体力トレーニング用の器具などが置かれている。床や壁には、無数の傷や打撃の跡が残っており、ここで多くのガーディアンたちが厳しい訓練を積んできたことを物語っていた。
「ここが訓練場だ。お前がツリーランクを抜け出すまで、あるいは、それからも世話になる場所だ」デュークは訓練場の中央で立ち止まり、周囲を見渡しながら言った。「これからここで、ガーディアンとしての基礎を叩き込んでいく。覚悟はいいな?」
「はい!」リューネはごくりと唾を飲み込み、決意を込めて頷いた。
「よし」デュークは壁際の武器立てから、手頃な長さの訓練用の木の棒を二本取り出すと、そのうちの一本をリューネに手渡した。「まずは、棒術から始める。刃物を扱うのは、基礎ができてからだ。下手に振り回して怪我でもされたら、こっちが面倒だからな」
リューネは、ずしりと重みのある木の棒を受け取った。すべすべに磨かれているが、硬く、しっかりとした感触だ。
「いいか、まずは構えだ。こうやって……」
デュークは自ら木の棒を構え、基本的な姿勢や足の運び、そして打ち込みの基本となる型を、ゆっくりと、しかし的確に見せていく。その無駄のない動きは、長年の鍛錬によって磨き上げられたものだと一目で分かった。
「……やってみろ」
リューネは真剣な表情でデュークの言葉と動きを頭に叩き込み、教えられた通りに木の棒を構え、振るってみる。しかし、初めて握る武器(?)は思った以上に重く、動きはぎこちなく、自分の体が思うように動かない。
「違う、腰が入っとらん」「もっと手首を柔らかく使え」「相手の攻撃を常に意識しろ」
デュークは厳しい口調で、的確にリューネの動きの欠点を指摘していく。しかし、その指摘は分かりやすく、どうすれば改善できるのかが明確だった。彼は時折、リューネの手や足の位置を直接修正したり、もう一度手本を見せたりしながら、根気強く指導を続けた。
リューネは、額に汗を滲ませながら、必死でデュークの指導についていった。生活のため、という切実な思いが彼女を突き動かす。最初は戸惑いばかりだった動きも、繰り返すうちに少しずつ無駄が取れ、デュークの言うことが体で理解できるようになっていく。棒を振る音も、徐々に鋭さを増していった。
デュークは、そんなリューネの様子を、厳しいながらもどこか興味深そうな目で見守っていた。飲み込みは悪くない。何より、その瞳には強い意志の光が宿っている。
時間も忘れ、ひたすら木の棒を振り続けるリューネ。これが、彼女のガーディアンとしての、長く、そしておそらくは厳しい道のりの、確かな第一歩となった。リューネのガーディアン生活が、今、この薄暗い地下訓練場で、静かに始まったのである。




