ep 3
イレーザの「勇気がある」という言葉の意味を測りかね、リューネは戸惑った表情を浮かべていた。受付嬢のイレーザは、そんなリューネの様子を見て、ふと表情を和らげ、少し個人的な質問を投げかけた。
「差し支えなければ、教えていただけますか? リューネさんは、どうしてガーディアンになろうと思われたのですか? 戦闘経験がないにも関わらず、この場所へ来られたのには、何か特別な理由が?」
その問いに、リューネは俯き、指先をもじもじとさせながら、小さな声で答えた。
「……あの、生活に困っていて……。故郷を出てきたのですが、アルトゥンには頼れる人もいなくて……。ガーディアンなら、私のような者でも、何かできる仕事があるかもしれないと思って……」
その声は途切れがちで、彼女がどれほど切羽詰まった状況にあるのかを物語っていた。着ている服も、よく見れば何度も繕った跡がある。
「なるほど……生活のために……」
イレーザはリューネの言葉に静かに頷いた。厳しい現実が、この少女をここまで連れてきたのだ。イレーザは、リューネの大きな瞳の奥にある、不安と、それでも諦めない意志の光を見つめた。そして、決めたように顔を上げる。
「分かりました。あなたのその勇気――困難な状況でも前を向こうとする強い心、そして、きっと根は優しい方なのでしょう、そのお人柄を認め、我がクレッセントワルツは、リューネさんの入隊を認めましょう」
イレーザはリューネの目をしっかりと見つめ、力強く、そして温かい声で告げた。
「え……? い、良いんですか!? 本当に……?」
予期せぬ言葉に、リューネは顔を上げた。その瞳が驚きと、じわりと湧き上がる喜びで潤む。
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」
彼女は何度も何度も深々と頭を下げた。ようやく見つけた希望の光に、感激で胸がいっぱいだった。
「ただし、リューネさんはガーディアンとしては全くの未経験者ですから、階級は一番下の『ツリー』からのスタートになります」イレーザは事務的な口調に戻り、説明を続ける。「まずは基礎的な訓練を受けていただきながら、ギルド内の雑務や、先輩ガーディアンの簡単な補助などをお願いすることになります。正直、楽な道ではありませんが、頑張れますか?」
「はい! 一生懸命頑張ります!」リューネは決意を込めて、力強く頷いた。
「よろしい」イレーザは満足そうに頷くと、事務所の奥に向かって声を張った。「デュークさーん! ちょっとよろしいですかー?」
「お呼びかい? イレーザさん」
声に応じて、事務所の奥から一人の男性が現れた。年の頃は四十代前後だろうか。鍛えられた体躯に、少し無造作に伸ばした髪、酸いも甘いも噛み分けたような渋い顔立ち。着古した革鎧からは、歴戦のガーディアンであることが窺える。まさに、頼りがいのある「イケオジ」といった風貌だ。彼が、ギルドの新人指導を担当しているデュークだった。
「デュークさん、こちら、新しくツリーランクとして入隊が決まったリューネさんです」イレーザは立ち上がり、デュークにリューネを紹介した。「右も左も分からない新人ですが、根性はありそうです。どうか、立派なガーディアンに育ててあげてくださいね」
デュークは軽く顎をしゃくり、「任せな」と短く応じた。そのぶっきらぼうな返事には、面倒くさそうな響きと、しかし確かな自信のようなものが感じられる。彼はリューネに視線を向け、上から下まで値踏みするようにじろりと見つめた。その鋭い視線に、リューネは再び緊張で身を固くする。
これから、この厳しそうな指導官の下で、自分のガーディアンとしての道が始まるのだ。リューネは、不安と期待の入り混じった気持ちで、目の前の「イケオジ」指導官を見つめ返すのだった。




