ep 2
第1話
活気あふれる「ガーディアン:クレッセントワルツ」の事務所。リューネは、受付カウンターの前で背筋を伸ばし、目の前の受付嬢に向き直っていた。周囲のガーディアンたちの中には、まだ遠巻きに様子をうかがっている者もいる。
「ようこそ、クレッセントワルツへ。私は受付を担当しているイレーザと申します」受付嬢はにこやかに名乗り、手元の書類に視線を落とした。「まず、私たちのギルドについてご説明させていただきますね」
イレーザは、落ち着いた、しかしはっきりとした口調で説明を始めた。その内容は、おそらくギルドを訪れる全ての志願者に伝えられる、定型的なものなのだろう。
「クレッセントワルツは、モンスター討伐、護衛任務、人々の様々な困り事の解決などを請け負う、いわゆる『ガーディアン』と呼ばれる専門職の人々を束ねるギルド(組織)です」
リューネは真剣な表情で、イレーザの言葉に耳を傾ける。
「ガーディアンとは、ここグルンストラ国、特にこのアルトゥンにおいて、絶えないモンスターの脅威から人々を守り、日々の安全な生活を支える、非常に重要な、そして頼りにされる存在です。主な収入源は、依頼主からいただく報酬となります」
イレーザは説明を続けながら、ちらりとリューネの服装や持ち物を確認しているようだ。
「そして、ガーディアンには、その能力やこれまでの実績に応じて階級が定められています」
イレーザは指を折りながら、階級制度について説明する。
* ゴールド: 最も高い階級。伝説的な英雄とも称される方々で、国や街を揺るがすような危機的状況で活躍されます。現在、当ギルドにはまだゴールドランクの方はいらっしゃいませんが…目標としては素晴らしいですね。
* シルバー: ゴールドに次ぐ実力者。単独で危険度の高いモンスターを討伐したり、重要な護衛任務を任されたりします。
* ブロンズ: ギルドの中核を担う中堅クラス。様々な依頼に対応できる、信頼できるガーディアンです。
* アイアン: ガーディアンとしての基本的な能力は認められていますが、まだ経験が浅い新人さん。まずは簡単な依頼から実績を積んでいただきます。
* ツリー: ガーディアン見習いです。戦闘や依頼遂行の経験はほとんどなく、まずは基礎訓練や、先輩ガーディアンの補助業務から始めていただきます。
「階級は、ギルドに貢献するような実績を積み重ねることで、昇格していくことが可能です」
イレーザは一通りの説明を終え、リューネに向き直った。
「さて、確認ですが、お名前はリューネさん、でよろしいですね?」
「は、はい! リューネと申します!」リューネは緊張からか、少し上ずった声で答えた。
イレーザは柔和な笑みを浮かべたまま、リューネの姿を改めて観察するように見つめた。華奢な体つき、武器を持っている様子もない、荒事とは無縁そうな綺麗な手……。
「そうですか、リューネさん。失礼ですが、拝見したところ……戦闘のご経験などは、あまり、無さそうですね?」
「っ……! ご、ごめんなさい……!」
図星だったのか、リューネは顔を赤らめ、思わず謝罪の言葉を口にした。やはり、ガーディアンになるには戦闘経験が必要不可欠なのだろうか、と不安がよぎる。
「あらあら、謝る必要なんてありませんよ」イレーザは軽く手を振った。「誰だって最初は未経験なのですから。……なるほど。ですが、勇気はお持ちのようですね。それは素晴らしいことです」
「……?」
突然「勇気」を褒められ、リューネは何のことか分からず、きょとんとした顔でイレーザを見た。
イレーザは、事務所内を見回しながら、少し意味深な笑みを浮かべて言った。
「いえね? ここは見ての通り、少々、いえ、かなり荒っぽい人たち…いえいえ、頼もしいガーディアンの方々がたくさんいらっしゃるでしょう? そんな中に、あなたのようなお嬢さんが一人で飛び込んでこられたのですから。その勇気は、本当に素晴らしいと思いますよ、リューネさん」
その言葉に、リューネは改めて周囲を見回した。確かに、屈強な獣人族の戦士や、いかにも歴戦の猛者といった雰囲気のドワーフ、鋭い目つきの小人族などが、忙しそうに行き交っている。なるほど、この場所に足を踏み入れること自体が、一般人にとっては勇気のいることなのかもしれない。
「は、はぁ……」
リューネは、まだ状況が飲み込めないながらも、曖昧に返事をするしかなかった。




