ep 1
かつては閑古鳥が鳴いていたアルトゥンの片隅にある小さな事務所。それが今では、街で最も活気のある場所の一つとなっていた。「ガーディアン:クレッセントワルツ」――その名は、一人の純粋な少年ガーディアン、ダダの型破りな活躍と、彼がもたらした有力商会「フォレスト商会」からの全面的な支援によって、瞬く間にアルトゥン中に知れ渡った。
ダダの活躍に触発されたのか、あるいは潤沢になった資金と支援体制に惹かれたのか、クレッセントワルツの門を叩く者は後を絶たず、所属するガーディアンの数は日増しに増えていった。それに伴い、舞い込んでくる依頼も質・量ともに増大。事務所は拡張され、依頼を求める人々や、報告に戻るガーディアン、情報交換をする者たちで常に賑わっている。壁には依頼票がびっしりと貼られ、様々な種族のガーディアンたちが忙しそうに行き交い、熱気と活気に満ち溢れていた。まさに、飛ぶ鳥を落とす勢いである。
そんな喧騒の中、一人の少女が、おずおずとその扉を開けた。
年の頃は十代半ばだろうか。少し古びてはいるが清潔な旅装に身を包み、背には小さなリュックを背負っている。栗色の髪を後ろで一つに束ね、その大きな瞳には、緊張と、そして何か強い決意のような光が宿っていた。彼女は、活気に満ちた事務所の様子に一瞬気圧されたように立ち尽くしたが、すぐに意を決したように受付カウンターへと歩み寄った。
カウンターには、柔和な笑顔を浮かべた受付嬢が座っている。彼女は最近雇われたばかりだが、テキパキとした仕事ぶりで、忙しいギルドを切り盛りしていた。
「こ、ここが……クレッセントワルツ……」
少女――リューネ――は、ごくりと唾を飲み込み、震える声で呟いた。周囲の喧騒が嘘のように、彼女の周りだけ空気が張り詰めているように感じられる。深呼吸を一つ。そして、彼女は受付嬢に向かって、はっきりとした声で言った。
「あの……! 私も、ガーディアンに、なれるかしら……?」
その声は、喧騒の中でも不思議とよく通った。近くにいたガーディアンたちが、興味深そうに一斉にリューネへと視線を向ける。また新しい希望者か、どんな子だろう、といった好奇の目が集まる。
リューネは、集まる視線にさらに緊張で体を硬くしたが、受付嬢はそんな彼女の様子を見て、優しく微笑みかけた。
「ええ、もちろんよ。クレッセントワルツは、やる気のある方ならいつでも歓迎しているわ」
受付嬢の穏やかな声と笑顔に、リューネの強張っていた表情が、ふっと和らいだ。安堵のため息が、小さく漏れる。
「ほ、ほんとうですか……? よかった……ありがとうございます……!」
リューネは、カウンターに手をつき、深々と頭を下げた。その肩は、まだ微かに震えている。彼女にとって、このクレッセントワルツの扉を叩くことは、大きな、そしておそらくは後戻りのできない一歩だったのだろう。
小さな少女が抱える決意と希望。活気あふれるガーディアンギルドで、リューネの新たな物語が、今、始まろうとしていた。




