ep 32
手柄の行方とそれぞれの想い
廃屋の周囲は、駆けつけた都市警備隊の兵士たちによって瞬く間に制圧され、捕縛された盗賊たちが次々と連行されていく。デューク・ケストレルは、警備隊の隊長らしき男に手短に状況を報告し、後処理を任せていた。その厳格な佇まいと的確な指示は、元騎士団長としての威厳を十分に感じさせるものだった。
「ダダさん、本当に、本当にありがとうございました!」
リーフ・フォレストは、ダダが取り返してくれた革袋を胸に抱きしめ、何度も頭を下げた。中に入っていたお守りの小石も無事だった。彼女の瞳は感謝と、そしてダダへの尊敬の念で潤んでいる。
「このご恩は、一生忘れません!」
「ううん、リーフの大切なものが見つかって、本当によかったよ」
ダダは、リーフの心からの感謝に、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに微笑んだ。
「ダダ、今日のあなたは本当に獅子奮迅の活躍でしたわね!」リリス・フォン・アストレアが、興奮冷めやらぬ様子でダダに近づいた。彼女の瞳は、先ほどの恐怖など忘れ去ったかのように、冒険譚の主人公を見るような輝きを放っている。「あの盗賊たちを一人で打ち破り、矢さえも掴んでしまうなんて! まるで吟遊詩人が歌う英雄譚のようでしたわ! わたくし、改めてあなたを護衛に選んで本当に良かったと思っていますのよ!」
彼女は、さりげなくダダの腕に自分の手を添え、親密さをアピールする。
リーフは、そんなリリスの様子に少しだけ頬を膨らませたが、すぐに気を取り直し、ダダを見上げた。
「でも、ダダさん、お怪我はありませんでしたか? あんなにたくさんの悪い人たちと戦って……」
「大丈夫、大丈夫。みんな、そんなに強くなかったから」
ダダはこともなげに言うが、彼の服のあちこちには、戦闘の際についたであろう土汚れや、小さな擦り傷が見え隠れしていた。
やがて、現場の騒ぎも一段落し、デュークが三人のもとへ戻ってきた。
「よし、貴様ら、ギルドに戻るぞ。隊長には、後ほどギルドマスターから正式に報告を入れると伝えておいた」
その言葉には、どこか安堵の色も感じられた。
四人がクレッセントワルツのギルドハウスに戻ると、受付にいたイレーザ・ウィローブルックが、心配そうな顔で彼らを迎えた。
「皆様、ご無事で……! 市場の方で大きな騒ぎがあったと聞きまして、心配しておりました!」
「ああ、イレーザさん、ただいま! ちょっと色々あったけど、大丈夫だよ!」
ダダが元気よく答える。
そこへ、奥の執務室から、何事かと顔を出したダイヤ・ヴェスペラが、四人の姿(特に少し汚れているダダと、興奮気味のリリス、そして安堵の表情のリーフ)を見て、目を丸くした。
「あんたたち、一体全体、市場で何をやらかしてきたんだい!?」
リリスが、待ってましたとばかりに口を開いた。
「聞いてくださいまし、ダイヤ様! ダダが、それはもう見事なご活躍で、市場を荒らしていた盗賊団を一人で壊滅させてしまいましたのよ! それはもう、圧巻の強さでして……!」
彼女は、自分がその場にいた証人のように、生き生きとダダの武勇伝を語り始めた。リーフも時折、心配そうに、しかし誇らしげに頷きながら言葉を添える。
「なんですって!? ダダが盗賊団を壊滅させて、おまけにデュークがその残党を捕らえる手助けをしたって!? それはとんでもない大手柄じゃないの!」
ダイヤの目が、カッと見開かれた。金銭の匂いと、ギルドの名声向上の気配を敏感に嗅ぎ取ったのだ。
「いやー、ダダ! あんたって子は本当に、次から次へとアタシを驚かせてくれるねぇ! これでまた、クレッセントワルツの名前がアルトゥン中に轟くってもんよ! 衛兵隊からも感謝状と、ひょっとしたら報奨金なんかも……!」
ダイヤの頭の中は、既に成功の算段でいっぱいだった。
デュークは、そんなダイヤの様子にやれやれといった表情を浮かべながらも、ダダに一瞥をくれた。
「……貴様、今日はよくやった。だが、単独での突出は褒められたものではない。常に周囲の状況と、己の限界を把握しておけ」
それは、彼なりの最大限の称賛と、そして指導者としての忠告だった。
「はい!」
ダダは、デュークの言葉に素直に頷いた。
リリスは、デュークがダダを認めるような発言をしたことに、少しだけ面白くなさそうな顔をしたが、すぐにダダに向き直り、満面の笑みを浮かべた。
「ダダ、今日のあなたの勇姿、わたくし、決して忘れませんわ!」
リーフもまた、ダダに改めて深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました、ダダさん!」
ダダは、二人の少女からの真っ直ぐな感謝と称賛に、少し照れながらも、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
(人助けって、やっぱりいいな)
彼は、騒がしいながらも活気に満ち始めたギルドの中で、そんなことを素直に思うのだった。
ダイヤの野心、デュークの厳格な指導、そして二人の少女からの好意。それらが複雑に絡み合いながら、ダダとクレッセントワルツの日常は、また新たな一日を刻んでいく。




