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ガーディアン  作者: 月神世一
ガーディアン!

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24/85

ep 25

赤き閃光、ダイヤの網にかかる

その日、ダイヤはアルトゥンから数日離れた、国境に近い宿場町にいた。フォレスト商会からの莫大な資金とコネクションを手に入れた彼女は、ギルド「クレッセントワルツ」を名実ともに一流の組織へと押し上げるべく、有能な人材の発掘に奔走していたのだ。特に、戦闘経験豊富で、ギルドの格を上げてくれるような「看板ガーディアン」を求めていた。

彼女の目当ては、最近この町に滞在していると噂される一人の男。デュークと名乗るその男は、元はどこかの国の高名な騎士だったが、今はしがない用心棒稼業に身をやつしているという。しかし、その剣腕は凄まじく、先日もこの町を襲った盗賊団を一人で壊滅させたばかりだと、情報屋は息を巻いていた。

ダイヤは、町の酒場の中でもひときわ薄暗く、荒くれ者が集う一角で、その男を見つけた。

デュークは、酒場の隅のテーブルで一人、エールを静かに飲んでいた。その佇まいは、周囲の喧騒から隔絶されたように落ち着いており、しかし全身からはピリピリとした緊張感が漂っている。年の頃は三十代後半、彫りの深い顔立ちには歴戦の傷跡が刻まれ、鋼色の瞳は全てを見透かすように鋭い。

「あなたがデュークさんだね? 少しお話があるんだけど、いいかい?」

ダイヤは、イレーザを伴い(彼女の事務能力と冷静さは、こういう交渉の場でも役立つのだ)、臆することなくデュークのテーブルに近づき、声をかけた。彼女の派手な身なりと自信に満ちた態度は、酒場の薄汚れた雰囲気には不釣り合いだった。

デュークはゆっくりと顔を上げ、ダイヤの顔を値踏みするように一瞥した。その視線は冷たく、簡単には心の内を読ませない。

「……何の用だ」低い、落ち着いた声だった。

「アタシはダイヤ。「ガーディアン:クレッセントワルツ」のギルドマスターさ」ダイヤは胸を張り、名刺代わりのギルドのパンフレット(彼女が徹夜で作った、いささか誇大広告気味のものだ)をテーブルに置いた。「単刀直入に言うよ。あんたをスカウトしに来た。ウチのギルドで、その腕を振るってみないかい?」

デュークはパンフレットには目もくれず、ダイヤの顔をじっと見つめたまま、エールを一口飲んだ。

「ガーディアン、か。騎士団の真似事のようなものだろう。小遣い稼ぎの連中には興味はない」

その言葉には、明らかな侮蔑の色が滲んでいた。

「おっと、手厳しいね」ダイヤは肩をすくめた。「確かに、駆け出しのギルドで、まだ実績も名前もない。でもね、アタシは本気だよ。この国で、いや、大陸で一番のガーディアンギルドを作り上げるつもりさ。そのためには、あんたのような本物の実力者が必要なんだ」

彼女は身を乗り出し、真剣な目でデュークを見据えた。「あんたほどの男が、こんな寂れた場所でくすぶってるのは勿体ないだろう? 聞いたよ、元はどこかの国の高名な騎士団長で、『赤き閃光』なんて呼ばれて魔族を震え上がらせたってね。その力が、ただの用心棒で終わっていいのかい?」

デュークの眉がわずかに動いた。自分の過去を知っているのか、と。

「……昔の話だ。今の俺は、ただのデュークだ。それに、組織というものにはうんざりしている。騎士団も、結局は私利私欲にまみれた貴族どもの道具だったからな」

彼の声には、深い絶望と疲労が感じられた。

その言葉を聞いたダイヤの目に、意外な光が宿った。

「へぇ……奇遇だね。アタシも、そういうくだらないシガラミは大嫌いさ。だから自分のギルドを作った。実力がある奴が、正当に評価されて、自由に力を振るえる場所をね」

彼女は煙管を取り出し、ゆったりと煙をくゆらせた。

「あんたが騎士団に何を期待して、何に絶望したのかは知らない。でも、ガーディアンの仕事は一つだよ。困ってる人を助ける、ただそれだけだ。そこに、貴族の思惑も、国の体面も関係ない。目の前の依頼主がいて、解決すべき問題がある。それに応えるのが、アタシたちの仕事さ」

デュークは、黙ってダイヤの言葉を聞いていた。彼女の言葉は、確かに彼の心の琴線に触れるものがあった。騎士としての理想、しかしそれを阻んだ現実。そして、今も心の奥底で燃え続ける「人々を守りたい」という願い。

「もちろん、ボランティアじゃない。仕事には正当な報酬を出す。あんたの実力なら、シルバーランク以上は確実だ。生活の心配はさせないよ」ダイヤは現実的な条件も提示した。「それに、ウチにはね、面白い子がいるんだ。ダダっていうんだけど、まだ子供なのに、とんでもない力を持ってる。あんたの経験は、きっとあの子の助けにもなるだろうし、逆にあの子から学ぶこともあるかもしれない」

デュークの脳裏に、かつて自分が守り、育てようとした若い騎士たちの姿がよぎったのかもしれない。そして、目の前の、自信家で、金にがめつそうで、しかしどこか真っ直ぐな瞳をした女ギルドマスター。

「……俺の剣は、もう錆びついているかもしれんぞ」

「磨けば光るさ。本物の輝きは、簡単には失せやしないよ」ダイヤは不敵な笑みを浮かべた。「どうだい、デューク? アタシと一緒に、もう一度、その剣を『人々のため』に振るってみる気はないかい?」

長い沈黙の後、デュークはふっと息を吐き、初めてその口元にかすかな笑みを浮かべた。それは、自嘲のようでもあり、新たな決意のようでもあった。

「……いいだろう。だが、俺のやり方でやらせてもらう。人々を守るという信念に反することは、たとえギルドマスターの命令であろうと従わん」

「交渉成立だね!」ダイヤは満面の笑みで手を差し出した。「ようこそ、クレッセントワルツへ、デューク! あんたの『赤き閃光』、期待してるよ!」

デュークは、その小さな手を力強く握り返した。

こうして、歴戦の元騎士団長は、新興のガーディアンギルドに、その身を投じることになった。彼の新たな戦いが、そしてダイヤの野望が、今、大きく動き出そうとしていた。

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