ep 2
第一章:草原の出会い(続き)
「がーでぃあん……?」
ダダは小さな首をこてんと傾げ、純粋な瞳で目の前の女性を見上げた。初めて聞く響きに、彼の好奇心がくすぐられる。
「そう、ガーディアンだよ」ダイヤは少し得意げに腕を組むと、指を立てて説明を始めた。「ま、簡単に言えば、街で困ってる人を助けて、そのお礼にお金を貰う。そういう連中の集まりさ」
ダイヤはさらに言葉を続ける。その瞳には、野心のような強い光が宿っていた。
「そしてアタシは今、それを作ってる真っ最中。この街に、アタシの手で、新たなガーディアンを立ち上げようとしてるんだ!」
「へぇー……」
ダダは素直に感心したように呟いた。困っている人を助ける集まり。それは、彼にとってとても魅力的に響いた。
ダイヤはそんなダダの反応を見て、ぐっと身を乗り出し、彼の顔を覗き込んだ。
「どうだい? 実力をつければ、もっと大きな仕事、そう、国から直接依頼が来るような仕事だってできるようになるんだ! ワクワクしないかい?」
「へぇー……」
しかし、ダダの反応は先ほどと同じだった。大きな仕事、国の仕事、と言われても、彼にはまだピンとこないらしい。辺境の草原で、自然と共に生きてきた彼にとって、それは遠い世界の出来事のようだった。
「っ!? も、もちろん! お金! お・か・ね! だって、たーっぷり稼げる、素晴らしい集まりなんだよ、ガーディアンってやつは!」
ダイヤは少し焦ったように、今度は世俗的な魅力をアピールしてみる。この純粋そうな少年も、さすがにお金には興味があるだろう、と。
ところが、ダダは遠慮がちに小さく手を挙げた。
「あの……ダイヤさん」
「ん? なんだい?」ダイヤは少しイライラした声で応じた。勧誘が思うように進まない。
「お金って、なんですか?」
きょとんとした顔で、ダダは尋ねた。その問いには、何の悪意も皮肉も含まれていない。本当に知らないのだ。
「は……?」ダイヤは一瞬、言葉を失った。この少年は、もしかして貨幣経済の概念すら知らないのだろうか?
「……お金ってのは、まあ、色々な物と交換できる便利なものさ。美味しい食べ物とか、綺麗な服とか……。使い方によっては、人生を面白くできる、そんなもんだよ」
ダイヤはできるだけ分かりやすい言葉を選んで説明した。
「へぇー……」
ダダは、なるほど、とでも言うようにこくりと頷いた。
(……だめだ、この子にはそういうのは響かないタイプか……!)ダイヤは内心でため息をつきつつ、最後の手段に出ることにした。
「と、とにかく! ガーディアンになれば面白いことになるのは間違いないさ! それに……あんたの好きな人助けも、たっくさんできる!」
その言葉に、ダダの目がぱあっと輝いた。
「! そうなんですか! 人助けがたくさん! ガーディアンというのは、なんて素晴らしい物なんですね!」
そのあまりにも純粋で、一点の曇りもない輝きに、ダイヤは思わず目を細めた。
「ぐっ……ま、眩しい……。なんて良い子なんだい……」
勧誘している自分が、なんだかとても悪いことをしているような気分になってくる。利用しようと思っていたはずなのに、その純粋さがダイヤの心の壁を静かに溶かしていくようだった。
「? どうかされたんですか、ダイヤさん?」
心配そうに自分の顔を覗き込んでくるダダに、ダイヤは慌てて咳払いをした。
「い、いや……なんでもないさ。ちょっと目にゴミが入っただけだよ。あと……なんか、心が痛い……」
後半は、ほとんど独り言だった。
ダイヤはパンッと両手を打ち、無理やり気合を入れた。
「よし! 善は急げだ! あんた、今すぐ荷物をまとめてアタシについてきな!」
「はい!」ダダは元気よく返事をすると、自分の身なりを確認するように体をぽんぽんと叩いた。「荷物は、今着ているものだけで十分です。あとは、母上にお伝えしてきますね!」
そう言うと、ダダは再び空を見上げ、満面の笑みで叫んだ。
「母上〜!! 今からダダは、ダイヤさんに付いていって『がーでぃあん』になります! これで、もっとたくさん人助けができます! 天から見ていてくださいね!」
その姿を見ながら、ダイヤは胸を押さえ、小さく呻いた。
「ぐ、うぅっ……。とんでもない原石を見つけたと思ったけど……こりゃあ、心が痛む……。こんな純粋な子、下手な扱いはできないじゃないか……大切にするしかないねぇ……」
その呟きは、風の中に消えていった。
「?」
ダダは、何やらぶつぶつ言っているダイヤを、不思議そうに見つめていた。