ep 20
オーガの咆哮、覚悟の刃
「お前の相手は、僕だ!」
ダダの凛とした声が森に響き渡る。巨体に見合わぬ俊敏さでオーガが棍棒を(先ほど落としたものを拾い上げていた)横薙ぎに振るうが、ダダはそれを紙一重で潜り抜け、オーガの足元に飛び込んだ。彼はオーガの太い足に強烈な蹴りを数発叩き込む。オーガはよろめくが、致命傷には至らない。
「グォルル!」
オーガは怒りの咆哮を上げ、足元の小さな敵を足で踏み潰そうとする。ダダはそれをバックステップで回避すると、近くに転がっていた手頃な太い木の枝を拾い上げ、それを槍のように構えた。
オーガが再び棍棒を振り下ろす。ダダはそれを横に跳んでかわし、棍棒が地面に叩きつけられてオーガの体勢が崩れた瞬間、その巨大な脇腹目掛けて木の枝を突き入れた!
「グルァッ!?」
木の枝はオーガの硬い皮膚に阻まれ深くは刺さらないものの、確かなダメージを与えたようだ。オーガは苦痛の声を上げ、ダダを睨みつける。
ダダは素早く距離を取り、オーガの動きを観察する。巨大な敵に対し、彼は自身の俊敏さと、周囲の地形や物を巧みに利用して渡り合っていた。時には木の幹を蹴って高く跳び、オーガの顔面に拳を叩き込み、時には地面の石を拾って目晦ましのように投げつける。その戦いぶりは、まるで経験豊富な狩人のように洗練され、かつ野生的だった。
(この子、本当に強い……!)
リリスは、自分を庇うように立ち、巨大なオーガと互角以上に渡り合うダダの姿に、恐怖を忘れ、ただただ圧倒されていた。
(わたくしも、何か……!)
ダダがオーガの注意を引きつけている間に、自分も何かできないか。先ほどの恐怖はどこへやら、今度は焦りと、そしてダダを助けたいという衝動にも似た感情がリリスを突き動かした。彼女は足元に転がっていた手頃な石を拾い上げると、オーガの顔を目掛けて力任せに投げつけた!
「これでも食らいなさい、化け物!」
石は、しかし、オーガの分厚い額に当たってカツンと音を立てただけで、ほとんど効果はなかった。だが、その行為は最悪の結果を招く。
「グオオオオッ!!」
些細とはいえ新たな攻撃を受けたオーガは、鬱陶しそうにリリスの方を向いた。そして、先ほど自分を挑発し、今また小賢しい攻撃をしてきた小さな獲物――リリス――を、明確な敵意と共に認識した。オーガはダダから標的を変え、リリスに向かって棍棒を振り上げ、突進してきた!
「しまっ……!」リリスは自分の浅慮を悟ったが、もう遅い。
「リリスさん!!」
ダダが叫びながら、リリスの前に立ちはだかるように飛び込んできた。オーガの棍棒が、リリスを庇ったダダの左肩に強烈に叩きつけられる!
「ぐっ……あぁっ!!」
鈍い音と共に、ダダの小さな体が木の葉のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。左腕はあらぬ方向に曲がり、彼の顔が苦痛に歪む。
「ダダッ!!」
リリスは悲鳴を上げた。自分のせいで、彼が!
オーガは倒れたダダに容赦なく追撃しようと、棍棒を振り上げる。もうダメだ、と思った瞬間、リリスは咄嗟に行動していた。彼女は腰に差していた装飾的な細身の剣を引き抜くと、柄をダダに向けて力いっぱい投げ渡した!
「ダダ! これを!」
空中で回転しながら飛んでくる剣を、ダダは負傷していない右手で確実掴み取った。その瞬間、彼の瞳に、絶望的な状況を覆すかのような、強い決意の光が宿る。
「うおおおおおおおおっ!!」
ダダは獣のような咆哮を上げ、折れた左腕の激痛に耐えながら、オーガの振り下ろされる棍棒を転がるようにして避けると、地面を強く蹴って一気にオーガの懐へ潜り込んだ。そして、渾身の力を込めて、リリスから受け取った剣を、オーガの太い首筋目掛けて深々と突き刺した!
「グギャアアアアアアアアアッ!!!!」
オーガは断末魔の絶叫を上げ、巨体を激しく震わせた。首からは夥しい量の血が噴き出し、やがてその場に力なく崩れ落ち、二度と動かなくなった。
森に、再び静寂が戻る。残されたのは、荒い息を繰り返すダダと、茫然と立ち尽くすリリス、そして、巨大なオーガの亡骸だけだった。




