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ガーディアン  作者: 月神世一
ガーディアン!

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ep 15

貴族の依頼者(続き)

リリスは、ゆっくりとダダの方へ振り返った。彼女のヘーゼル色の瞳が、興味深そうに細められる。

噂に聞く、怪物を屠る子供のガーディアン。目の前にいるのは、確かに年の頃十歳そこそこの、どこからどう見ても普通の(いや、むしろ少し頼りなさげな)少年だった。

「……あなたが、ダダ?」

リリスの問いかけに、ダダはきょとんとして木の実を一つ口に放り込みながら、こくりと頷いた。

「はい、僕がダダです。お姉さんは、リリスさん、ですか?」

彼は誰に対しても変わらぬ、素朴な口調で尋ねた。リリスの隣に立つ年配の侍女が、そのあまりの無遠慮さに眉をひそめたが、リリス本人は気にした様子もなく、むしろ面白そうに小さく喉を鳴らした。

「ええ、わたくしがリリス・フォン・アストレア。あなたに護衛を頼みたいの。翡翠の丘への旅、そして…滞在中の身辺警護を、ね」

ダイヤが、待ってましたとばかりに滑らかな口調で割り込む。

「リリスお嬢様は、翡翠の丘近辺の不穏な噂を鑑み、万全を期して腕利きの護衛をお求めなのでございます。まさに、ダダの出番というわけですな!」

リリスはにっこりと微笑む。その笑みには、単なる安全希求以上の、どこか期待に満ちた輝きが宿っていた。

「そうなの。ただ、わたくし、用心深いの。道中、少しばかり寄り道をして、危険の芽は早めに摘んでおきたいと思うのだけれど…どうかしら? 例えば、近頃モンスターの目撃情報があったという森が、街道の近くにあると聞きましたわ。通常の隊商なら避けて通るのでしょうけれど、わたくし達は、敢えてその森を抜けて安全を確かめてみる、というのは?」

彼女は挑戦的な視線をダダに向けた。「あなたなら、お出来になるのでしょう? 噂のガーディアンさん」

ダダは首を傾げた。その問いかけの裏にある、少女の好奇心やスリルを求める気持ちまでは、まだ彼には読み取れない。

「その森は、本当に危ないんですか? 誰か困っている人が、そこにいるんですか?」

「あら、それは行ってみなければ分からないことではなくて?」リリスはくすくすと笑う。「でも、もし危険なモンスターがうようよしていたら、あなたがばっさばっさと退治してくださるのでしょう? そうすれば、後からその道を通る方々も安心できますわ。それに…わたくしも、あなたの本当の強さを、この目で見られるかもしれませんし」

最後の言葉は、囁くように、しかしはっきりとした期待を込めて紡がれた。

ダダの表情が、わずかに曇った。

「でも……わざわざ危ない所に行って、モンスターがただそこにいるだけなら……僕、戦いたくないです。モンスターだって、ただ生きているだけかもしれないから。誰も襲ってこないのに、殺してしまうのは、嫌です」

彼の言葉には、困惑と、そして確固たる意志が滲んでいた。

リリスの表情から笑みが消え、一瞬、意外そうな、そしてすぐに興味深そうな光が瞳に宿った。

「まあ、噂に聞く勇猛果敢なガーディアンとは、少々お話が違うようですわね。でも、あなたは護衛なのでしょう? わたくしの安全が最優先されるべきだとは思いまして? わたくしが『危険だ』と感じたものを排除するのが、あなたの役目ではございませんこと?」

貴族令嬢らしい、有無を言わせぬ口調だった。

まずい、とダイヤは思った。金の匂いがする大型依頼が、ダダの妙なこだわりでご破算になってしまうかもしれない。彼女は慌てて二人の間に割って入った。

「も、もちろんでございますとも、リリス様! ダダは、リリス様の安全を何よりも、何よりも!優先いたします! ね、ダダ! この子は少々言葉足らずで、融通が利かないところもございますが、いざとなれば必ずやお嬢様をお守りいたします! 今回の護衛任務、ぜひとも我がクレッセントワルツにお任せくださいませ! 報酬は…ええ、アストレア公爵家のお名前に相応しい、最高の形でご相談させて頂きたく…!」

ダイヤはダダに目で鋭く合図を送るが、ダダはまだ納得いかない表情でリリスを見つめている。

リリスは、そのダダの頑なな様子と、必死に取り繕うダイヤの姿を交互に見比べ、やがて楽しそうに声を立てて笑った。

「ふふっ、あはは! 面白いわ、あなたたち! いいでしょう、ダイヤさん。そのお話、乗りましょう。契約成立ですわ」

そして、彼女は再びダダに向き直り、挑戦的で、それでいてどこか魅力的な笑顔を向けた。

「ダダ、と言ったかしら。あなたのその『こだわり』、道中、そして翡翠の丘で、じっくりと見せていただくことにするわ。わたくしの退屈を、あなたがどれだけ紛らわせてくださるのか…楽しみにしていますわよ?」

その言葉は、依頼人から護衛への期待というよりも、まるで新しい玩具を見つけた子供のような、無邪気で、それゆえに少し危うい響きを帯びていた。

ダダは、リリスの笑顔の奥にある何かを感じ取ろうとするかのように、じっと彼女の瞳を見つめ返した。無益な殺生を嫌う彼にとって、この依頼は厄介なものになるかもしれない。しかし、同時に、この少女の奥底にあるものにも、彼は微かな興味を引かれ始めていた。

こうして、ダダの新たな護衛任務が、一人の好奇心旺盛な貴族令嬢の「火遊び」の期待と共に、幕を開けようとしていた。

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