ep 11
感謝と新たな繋がり
坑道でのワーム騒ぎから数時間後。デュフランの街は少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。怪我人は手当てを受け、鉱夫たちは一時的に作業を中断し、街の人々は安堵の息をついていた。
ツーリは、街の一角にある自身の質素だが清潔な家に、ダダとリーフを招き入れていた。リーフが淹れてくれた温かい薬草茶を飲みながら、ツーリは改めてダダに向き直った。その顔には深い感謝の色が浮かんでいる。
「いやはや、ダダさんと申しましたな! ガーディアンというのは聞いておりましたが、まさかこれほどお強いとは……! 本当に、何とお礼を申し上げてよいか……」
ツーリは心の底から感嘆したように、何度も頷きながら言った。坑道でのダダの戦いぶりは、彼の目に焼き付いて離れない。
「我が娘リーフを、遠いアルトゥンからここまで無事に送り届けてくださったばかりか、あの恐ろしいワーム共まで退治してくださるとは! このご恩は、決して忘れませぬぞ!」
ツーリは感激した様子で、ダダの手を両手で固く握りしめた。
「いえ、困っている人がいたら助けるのは当たり前のことです。それに、リーフは僕たちの大事な依頼人でしたから」
ダダは少し照れたように手を振り、握られた手をそっと解いた。「では、僕はこれで」
そう言って、軽く手を上げ、あっさりと立ち去ろうとする。
「!? い、いやいや、お待ちくだされ!」
ツーリは慌ててダダを引き止めた。「報酬も無しに、このままお帰りになるなど! とんでもない!」
「報酬は必要ありません。人助けは、そういうものではないですから」
ダダはきっぱりと言った。
「しかし! 命の恩人に対して、手ぶらで返すなど、我がフォレスト商会の名折れになります! 私も商人のはしくれ、受けた恩は必ず返さねば気が済みません!」
ツーリはそう言うと、「少々お待ちください!」と付け加え、家の奥の部屋へと引っ込んでいった。どうやら彼は、このデュフランで「フォレスト商会」という看板を掲げる商人、あるいはその一員のようだ。
しばらくして、ツーリは一通の封蝋された書状を手に戻ってきた。
「ダダさん。金銭での報酬をお望みでないのでしたら、せめてこれをお受け取りください。貴方様のリーダーである、ダイヤ様へ宛てた書状です」
ツーリは恭しく書状をダダに差し出した。厚みのある上質な紙に、フォレスト商会の紋章らしきものが刻まれた封蝋が施されている。
「……。は、はい。分かりました。確かに、リーダーのダイヤさんにお渡しします」
ダダは少し戸惑いながらも、その書状を大事そうに受け取った。リーダーへの報告は必要だろうと考えたのかもしれない。
「ありがとうございます。ダイヤ様にもよろしくお伝えください」
ツーリは安堵したように微笑んだ。
「じゃあ、リーフ、またね! 元気でね」
ダダは最後にリーフに向き直り、別れの挨拶をした。
「はい! ダダさん、本当に、本当にありがとうございました! 私、絶対に忘れません!」
リーフは満面の笑顔で、力強く手を振り返した。その目には、感謝と共に、少しの寂しさが滲んでいる。
ダダは、リーフの輝くような笑顔を目に焼き付けると、嬉しそうに、そして少しだけ名残惜しそうに微笑み返し、家を後にした。
ツーリとリーフは、デュフランの街を一人去っていく小さなガーディアンの後ろ姿を、いつまでも見送っていた。ダダの次なる目的地は、おそらくダイヤの待つアルトゥンだろう。彼の新たな冒険が、また始まろうとしていた。




