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24 ルミティ 初めての夜(2)

「特製のパックにヘアオイル、それからボディオイルです! 香りは爽やかなせっけんの香りで統一して……けれど髪からはお花の香りもっと」


 人一倍張り切っているルナはバスタブの中にいるルミティに色々なものを塗ったり洗ったりしている。ルミティはなされるがままだったが、ルナが楽しそうなので段々と自分自身も楽しくなってきていた。


「そうだ、気が早いかもしれないんですけどね、奥様」

「どうしたの?」

「お二人の間にお子さんが生まれたとなったらブルーノさんが教育係になるんですって」

「あら、そうなの。ルナじゃないの?」

「まさか〜、私みたいな子供じゃ無理ですよ。だってブルーノさんって旦那様の教育係も勤めていたんですって。だから旦那様も気が緩むと『爺や』って呼ぶとか」

「そうだったの。ブルーノは読み書きができたしマナーにも詳しいのはそういう理由もあったのね」

「えぇ、ブルーノさんは元々先代の公爵様が懇意にしていた貴族のご出身だそうで。けれど権力闘争のうちブルーノ様のご実家は没落していまい、先代の公爵様が彼を救い出したんだとか」

「ルナはよく知っているのね」

「そりゃあ、メイドたちの情報網はすごいんですよ、もう! けれど、誰一人として気が付かなかった旦那様の変装。すごいですよねぇ、まさか呪いにかけられた奥様を守るために騎士に変装して守っていたなんて……まるで御伽話じゃないですか」


 彼女のいう通り、まるで御伽話である。そんなふうに言われてルミティは鼻の下まで湯の中に浸かってぷくぷくと息を吐いた。この屋敷に来てすぐに「愛のない契約結婚だ」と言われてから、自分の呪いの事実をしり、今は過剰なくらいに彼からの愛を受けている。


「一つだけ、わからないことがあるの」

「なんですか。奥様、次は唇のケアをするので、んーってしてください」

「あのね。どうしてヴェルズは私に結婚を申し込んだんだろうって。私は彼と会ったのはこの前が初めてよ。エリアスを除いてね。それに、ボルドーグ家にとってアルバンカ家は重要な家とも言えないし……それだけがわからないの」

「それは、ルナも知らないですね。どこかで実はお会いしていたとか?」


 ルミティが話す前にベトっとハチミツで作ったリップパックを塗られて、彼女は口を塞がれてしまった。


「奥様、息苦しくはないですか。そうだ、あとで旦那様に聞いてみたらいかがでしょうか? もしかしたら、きっとすごーくロマンチックな理由だったりしてっ」


 一通りの準備を終え、ルミティは今朝用意したネグリジェとソックスを身につけて、その上から寝る際に着用するシルクのワンピースを。人払いをされているのか、普段であれば聞こえるメイドたちの足音はしなかったし、庭の方もとても静かだ。

 初夜というのはルミティにとって初めてで何の説明もなかったのでどうしていれば良いかわからない。この部屋で過ごすのか? それともヴェルズの寝室で? まだルミティも知らない部屋がたくさんある屋敷なので他にも寝室が存在するのかもしれない。


 そんなことを考えていたらノックの音がして


「入っていいか?」


 とヴェルズの声が聞こえた。


「えぇ、どうぞ」


 ドアが開き、ヴェルズが入ってくると彼は緊張した様子でルミティが座っている隣に腰を下ろした。ソファーが少し揺れ、二人の体が触れ合う。


「ルナがとっても自慢げな顔をしていたが。納得だ。とても綺麗だよ」

「そ、そうかしら。ありがとう」

「一つ、先にいいかな」

「どうしたの?」


 ヴェルズは突然ソファーから立ち上がって跪いた。そしてポケットから小箱を取り出した。

「すこし時間がかかってしまったが、君に指輪を送り直すよ。さぁ、左手をこちらへ」


 小箱の中には銀色のリング。月光のような美しい光を放つ宝石が嵌め込まれていた。ダイヤモンドのような透明感にオパールのような不思議な輝き。ルミティは初めて見る宝石に目を奪われた。


「これは、月光魔法石といってね。月の光を百年浴びた魔法石だけが変化する希少なものだ。慎ましく、穏やかで誰からも愛されてる君にぴったりだとそう思って作らせたのだが思いのほか時間がかかってしまった」


 ルミティの左手の薬指にぴったりと指輪がはめられた。


「ルミティ、僕の妻としてここで一生幸せに過ごしてほしい。僕に君を幸せにさせてほしい。君さえ良ければ返事を聞かせてくれないか?」


 ルミティは少しだけヴェルズを見つめ返してから


「はい」


 と満面の笑顔で答えた。やっと成功した告白に喜んだヴェルズはルミティをぎゅっと抱きしめた。抱きしめられたルミティは驚きつつも彼の早い鼓動が伝わってきて、彼がとても緊張していたんだろうと理解しそっと背中に手を回した。


 彼女が受け入れると、ヴェルズはそのままルミティを抱き上げてベッドへと運んだ。拒否する時間もなくルミティは顔を真っ赤にしてそのまま彼に組み敷かれる。目の前には美しいヴェルズが余裕のない表情で自分を見つめていて、思わずぎゅっと目を瞑った。


「本当は、君にもっと好いてもらえるような言葉をたくさん言いたいけれど……無理みたいだ」


 そう言われて、優しいキスが降ってくるとルミティも少しずつそれに応じる。遠回りをした二人はやっとこの夜に互いの気持ちを確認することができたのだった。



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