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24 ルミティ 初めての夜(1)

「やはりよく似合っているよ」

「そう……? ありがとう」


 ヴェルズがいなかった間は普段着のまま夕食を食べていたルミティだったが、今日は美しいイブニングドレスで着飾っている。このドレスは、ルミティがこの屋敷に来た時に買ったもので深いブルーにシルバーの刺繍が少し入ったシンプルなもの。ルミティの儚い薄灰色の髪がまるで月光のように映えている。


「やはり、銀のアクセサリーも買おうか。君には良く似合う」

「ふふふ、ヴェルズの髪と同じ銀色は私も好きよ」

「本当に? 君は『華麗なる王子』のエリート王子みたいな金髪が好きだって知っているぞ?」

「エリート王子は確かに好きよ? けれど『推し』だから貴方への好きとはまた別なのよね」

「はぁ、いまだにその『推し』の理論がわからないよルミティ」

「そう? ヴェルズは幼い頃に童話で憧れたプリンセスはいなかったの?」

「たとえいたとしても僕にはルミティだけだし、君以外に好みなんて考えられないから理解はできないよ。それに、エリアス以外に君に推しができるかもしれないと思うと気が気じゃないんだが?」


 ヴェルズがムッとした顔でそういうとルミティは嬉しさと恥ずかしさで顔を赤くした。


「旦那様、奥様。テーブルの準備が整いました」


 ブルーノに声をかけられ、ルミティはヴェルズのエスコートのもと席に着いた。そして、彼は朝食の時と同じようにルミティの隣に腰掛ける。


「ヴェルズ。私、向かい側に座っていただけると嬉しいわ」

「どうして、この方が距離が……」

「お顔を見てお話できたらなって思って」

「それもそうか。わかったよ」


 ヴェルズはさっとたちがあると長机をぐるっと回ってルミティの向かい側の席に座った。それからルミティをじっと見つめると満足げに微笑み


「この方が綺麗な君をずっと見ていられて良いな」


 と言った。


 夕食はかなり豪華で普段見慣れないメニューがあることにヴェルズは驚いていた。ローストビーフにチーズフォンデュ。そして海鮮や野菜が黄色い何かの上に乗った大きな料理。テーブルには珍しく皿ではなく薄い鍋ごろ乗せられていた。


「これは……なんだ?」

「そうか、ヴェルズはこれを食べるのは初めて?」

「あぁ、異国の料理か?」

「そうよ。隣国のお料理。パエリアっていうんだけど……」


 そんな話をしているととりわけをしているブルーノがルミティに補足をした。


「こちらは、奥様の出身地であるアルバンカ領地で採れた新鮮な野菜を使用しております。とくにこのじゃがいもは絶品だとシェフが申しておりました」

「けれど、異国の料理が出たことはなかったよな?」

「旦那様。奥様のおかげでございます。奥様が使用人たちに読み書きを教えられるようにご提案したことで、シェフがさまざまなレシピ集より料理を作れるようになったのです。パエリアは、奥様も大好きな絶品ですぞ」

「そうなのか?」

「えぇ、一度家族で隣国に旅行に行った時にね。食べたことがあったのだけど……普段はあまり食べる機会のないお米と海鮮がとっても美味しいの」

「僕も隣国に行ったことはあるが出てきたことはないな」


 ヴェルズは不思議そうにパエリアを眺める。


「これは、隣国のとある地方で盛んな料理だからじゃないかしら? でもとっても美味しいのよ。私、小さい頃からこれが好きで、特別な日にはいつもアルバンカ家のシェフにもお願いしていたの」

「特別な日……」

「今日は、ヴェルズと初めてとる夕食だから。ごめんなさい、貴方が好きだとも限らないんい勝手をしてしまったわね」

「ん……」


 ヴェルズは一口、スプーンでパエリアを口に運んだ。米の不思議な食感と海鮮や野菜から出た旨味、香辛料が食欲をさらにそそり思わずもう一口手を伸ばしてしまう。


「美味しい」

「よかった。んぅ、おいひい」


 ルミティも一口食べて微笑んだ。大好きな料理を大好きな人と食べる幸せを噛み締めてそれから、パエリアによく合う隣国産のワインを一口飲めばじんわりと体が温かくなる。


「これ、庶民が好む料理なのかな」

「どうかしら、これを初めて食べたのはアルバンカ家と交流のある隣国の伯爵家だったけれど……その伯爵家も農業地区を領地にしていたし。もしかするとヴェルズのいうように貴族はあまり食べないものなのかもしれないわね」

「そりゃ、こんだけ美味しかったら中央貴族なんかには教えたくないよな。独占されて食べられなくなってしまうからな」


 そう言いながらヴェルズがブルーノに空になった皿を手渡し、ブルーノは当然のように先ほどよりも多くのパエリアを盛った。


「私ももう少し食べようかしら」

「かしこまりました、奥様」


 ブルーノがルミティの皿にもパエリアを盛り、中の野菜も均等に取り分けた。


「ルミティは僕の知らないことをたくさん知っているんだな」

「それは……私も同じです。ヴェルズは私の知らないことをたくさん知っていて、それを私に教えてくれたでしょう? 乗馬の楽しさとか」

「あぁ。また今度二人でカローニャに会いに行こうか。僕よりルミティになついているような気がしてならないけど」

「カローニャにはたくさん贈り物をしているからね」

「贈り物?」

「アルバンカ家の領地で取れたにんじん。とっても味が濃くて美味しいのだけれど、カローニャもそれが気に入ったみたいだわ」

「賄賂だったか……、僕以外の人間を信用しなかったカローニャがあんなに優しい顔をするようになって。ありがとう、ルミティ」


 二人はお腹いっぱいになるまで料理とデザートを楽しみ、食後は少しの紅茶を飲んで過ごした。楽しそうに会話する二人には少しだけ初夜に向けての緊張感が見え隠れし、二人の世話係たちもそわそわし始めていた。


「ルミティ、またあとで」


 そういって食堂をあとにしたヴェルズの背中を見ながら、ルミティはドキドキと高鳴る胸をそっと手で押さえた。すぐにルナがやってきて


「奥様、準備に参りましょう」


 ルミティは自室へと戻ることになった。


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