23 ルミティ 旦那様と買い物をする
「可愛い! 綺麗だ!」
「そ、そうかしら?」
ルミティは、衣裳室に外商のジョエンヌを招きドレスの試着をしていた。以前もこの屋敷に来た時に同じように買い物をしたが、今回は「旦那様が一緒」である。
「ジョエンヌ。このドレスのスカート部分に花のモチーフを散りばめることはできるか? ルミティは農業地区を領地に持つ家庭で育ったんだ。花をモチーフにヘアセットと合わせたいんだ」
「もちろん。ハンナ。仕立てる際に旦那様のご要望を」
「かしこまりましたわ」
そういって何やらメモを取っている女性は仕立て屋のハンナ。ジョエンヌは既存品を売るのが仕事だが、今回はその既存品をベースにルミティのドレスを仕立てるため彼女もやってきていた。
「色だが……、ルミティ好きな色は?」
「うーん、旦那様が一番最初に見立ててくれた桜色も好きです。子供の頃から好んでいたのはラベンダー色でしょうか。花の香りもとても好きです」
「なるほど……確かにルミティの薄灰色の髪と瞳にはよく映えそうな色だな。よし、その色のドレスも頼む」
結局、ドレスは形を3種類、色を5種類も作ることになってそれぞれに合わせた靴も用意することとなった。
「あぁ、ルミティ。よく似合っている。どうしようか、こんなに妻が綺麗で僕は大丈夫だろうか」
「ヴェルズ?」
「やっぱり、パーティーに君を連れていくのは危険すぎやしないか? 公爵の中には愛人を何人も抱えているスケコマシもいるんだし。ルミティがそう言う奴らに挨拶されると思ったら……」
「ヴェルズ、けれど貴方が守ってくれるんでしょう?」
「もちろんさ、僕は王宮の占星術師。いざとなったら呪いのひとつやふたつ……」
「さっ、ヴェルズ。次はアクセサリーを買ってくださるんでしょう?」
話が怪しい方向に行ったところでルミティが話題を変えた。彼女に取って「最愛の人にアクセサリーを選んでもらう」ことがずっと憧れであった。というのも、この国の女性にとって、身につけるアクセサリーを夫や恋人に選んでもらうというのは一種のステータスなのである。ルミティは学園時代、婚約者から贈られたアクセサリーを身につけている学友たちをみてとても羨ましく思ったことを思い出した。
「ジョエンヌ、頼んでいたものを」
「えぇ、旦那様。みんな、あれをお持ちして」
ジョエンヌが手を叩くと、部下たちが5人ほど大きくて四角いバッグを持って入ってきた。彼らがそのバッグをパカっと開き、連結させると、まるでショーケースのような形に変わる。その中にはさまざまなジュエリーが並び、部屋の光を反射してキラキラと輝いた。
「綺麗……」
「だろう? 都市中のジュエリーをかき集めてもらってね。まずは首飾り。ルミティの美しさを生かすためにも……細くて繊細なそれでいて美しい宝石があしらわれているものがいいかな」
ヴェルズは、一際細くて繊細な首飾りを手に取るとルミティの後ろに回ってそっと彼女の首にかけた。それに合わせて、ジョエンヌが鏡をルミティの前に差し出す。
「そちらは希少なダイヤモンドを使用したネックレスですね。お目が高いですっ。宝石自体は小さいですが、奥様の慎ましやかな美しさをよく引き出してくれていますね」
ルミティは首飾りをつけた自分を見た。ささやかに光る宝石が胸元で輝き、下品すぎない大きさの宝石は彼女の好みぴったりであった。
「似合ってる。気に入ったかい?」
一緒に鏡を見ているヴェルズにそう言われて、彼の顔の近さにドキドキしつつもルミティは「えぇ」と頷いた。
「やはり、ルミティの美しさを邪魔しないアクセサリーが良いな。うーん、けれど質素に見えるのは違うよなぁ」
「ヴェルズ、私は貴方が選んでくれたこの首飾りが気に入ったわ」
「本当か? じゃあ、これと……」
「旦那様、耳飾りでしたら多少大きな宝石がついたものでも奥様のお美しさを邪魔しないかと。パーティーでのヘアスタイルによっては耳飾りが見えすぎないヘアにできますので」
そう言ってジョエンヌが指差したのはピンク色のダイヤモンドが3連になって揺れる耳飾りだった。
「ルミティ、つけてみて」
ヴェルズに渡されて、ルミティは耳飾りの金具に触れて傷つけないように気をつけながら耳たぶを挟んだ。淡いピンク色のダイヤモンドは引き込まれるような美しさでルミティは思わず見惚れてしまう。
「確かに、耳飾りであれば下品にならず彼女の美しさも邪魔しないな。ジョエンヌこのデザインで紫色の宝石と通常のダイヤモンドもだ」
「ヴェルズ、そんなに……」
「ルミティ、君はこのボルドーグ家の公爵婦人なんだ。誰よりもよいものを身につけて、僕の隣でそれが当然だって顔で笑顔でいてもらわなきゃ」
「そ……そうね」
「まぁ、僕は君が作業着をきて泥まみれになりながら土いじりをしていても、カローニャと一緒に芝生で昼寝をしている姿も愛しているけどね」
「あら、お熱いうちにもっと営業しなくちゃね。旦那様、奥様の足元を着飾るアンクレットはいかがでしょうか? 最近、隣国での流行を受けて職人が作ったもので宝石をチェーンに組み込んで、御御足がとても美しく見えますよ」
そういうが早いか、ジョエンヌはルミティの片足をクッション付きの台の上に乗せて細くて白い足首に繊細な銀色のアンクレットを巻いた。こそばゆくてルミティがくすくすと笑う。
「ダンスをしているときや、挨拶をした時にドレスから見える足がとても綺麗に見えると都市部のご婦人たちの間で人気なのです。いかがですか?」
「買おう。まぁルミティの足を誰に見せる予定もないが……彼女がこんなに嬉しそうなのは初めてみたしな」
「ヴェルズ、ありがとう」
ルミティの言葉、表情、彼女のすべてがあまりにも愛おしくてヴェルズは真っ赤になってぶっきらぼうに「よかった」と返事をした。
「私の宝物にします」
「そんな、いつだって新しいものを買ってあげるよ」
「いいえ、初めて……自分の愛する人に買ってもらったジュエリーはずっとずっと宝物なの。大切にするわ。ジョエンヌさん、このジュエリーだけ自室のジュエリーボックスに運んでいただいてもいいかしら? いつもそばに置いておきたいの」
「えぇ、もちろんですよ。奥様、それではお買い上げいただいたものを。ルナちゃん、お願いしても?」
ルナとジョエンヌがやりとりをしている間、ヴェルズがルミティの手を握った。
「これだけでいいのかい? 全部買ってもよかったのに。他に欲しいものは? 僕は君に似合うものは全部買いたい気分なんだけど……」
「ヴェルズ、私ね。今日のこの時間がすごく楽しかったの。貴方に可愛いとか綺麗だとかたくさん言ってもらえて……。だから、手に入れるものは少しの方が嬉しいのよ。そうしたらまた、こうやって二人でお買い物ができるでしょう?」
ルミティがヴェルズの手を握り返して、二人は見つめ合う。ルミティがあまりにも綺麗に微笑むのでヴェルズの方が先に目を逸らした。
「ヴェルズ?」
「君は……ずるいよ。綺麗すぎる」
ふふっとルミティが噴き出して、それから赤面して顔を背けていたヴェルズも笑った。そのうち、部屋に入るタイミングを伺っていたジョエンヌたちが戻ってくると二人は少し距離を取って日用品の買い物を続けるのだった。




