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20 ルミティ 呪いから解放される。

マロン小ざまぁな回です。断罪シーンはもう少し先に・・・・

「お義兄様! お姉さまのせいで怪我をしてしまったの!」


 ルミティを押し退ける様に割って入ったマロンにヴェルズは冷たい視線を向け、ブルーノが慌てて彼女を引き離した。


「ルミティのせい?」

「えぇ、お姉さまの不運体質のせいでそこの壺が……」

「旦那様違うの、いえ……これは」

「お姉様ったらいつだってそうじゃない。今回は私と、ヴェルズ公爵様を巻き込むんだわ。家宝の壺まで壊して……」

「だったら何だと言うんです?」


「え?」


 マロンは彼女が想像した答えとは別の、まったく別の反応が返ってきて困惑する。彼女の美しい顔と愛想のいい性格を前にすれば領地の人間や学園の男たち、父親や母親でさえも彼女の味方についてくれていた。だから今回も簡単に姉の婚約者を味方につけられると思ったのだ。

 しかし、彼女の目の前に立っているヴェルズは非常に冷たい視線を向け声は低くまるでマロンを嫌っているかの様だった。


「仮に、我が妻が不運体質でその家宝の壺を割ってしまったからといって何だと言うのです?」

「私、怪我したんですよ?」

「それは、貴女が不用意に割れた壺に触れたからだ。まぁ、我が屋敷で起きた事故。治療費は補填しましょう」

「そうじゃなくて……、あぁもう端的に申しますわ! 姉は昔から不運体質で人に迷惑をかけてしまうんです。これから公爵様の妻としてさまざまな迷惑をかけてしまうはず。それを忠告しているのですわ」

「マロン……貴女何を……」


 ルミティはマロンの表情を見て心底怖くなった。マロンは堂々と、誇らしげにヴェルズを見つめて「お姉様では力不足。我がアルバンカ家で彼女を引き取ります」と言って退けたのだ。

「旦那様、私……違う……んです」


 とルミティは否定したかったが言葉に詰まる。自分が不運体質であることは事実であったし、マロンの言う様に今後自分のせいでヴェルズや使用人たちの命に関わる様な不運が起こるかもしれないと考えてしまったからだ。


「仮に、ルミティと離縁をしてアルバンカ家はどう責任を取るつもりだ?」


(あぁ、旦那様。そんな……)


 ルミティが肩を震わせて涙を流すと、マロンは一歩前に出てあざとく微笑むと


「アルバンカ伯爵家末娘のこのマロンがボルドーグ公爵家の婦人となりますわ。私は姉とは違って幸運体質。領地でもっとも愛され、昨年度の学園ミスコンテストでも優勝した身。絶対に損はさせません」

「そうか」

「ええ、ですからマロンを」

「ブルーノ。お客さまがお帰りだ」

「ヴェルズ様?」

「気安く僕の名前を呼ばないでくれ。悪いが僕が愛しているのはルミティだけ。たとえ、彼女が不運体質でもだ」

「公爵様? 家宝の壺を壊したのですよ? 庶民なら死罪にも値する行為だわ」

「そんな壺。ルミティのためならいくらだって割ってくれて構わない。僕は妻を侮辱されるのが嫌いでね。君は彼女の親類ではあるが……さっさと出ていってくれ」

「お姉さまを選ぶって言うのですか? 公爵様」

「当たり前だ。君がルミティに勝る部分など一つもない。僕は君のような人間は心底軽蔑していてね。女性としても人間としてもだ。ルミティと血が繋がっているだなんて信じ難いね」

「そんな……、マロンがお姉さまより下だなんて!」


「さ、お引き取りを」


 マロンにとって初めての敗北。彼女は顔を歪め、ブルーノに引っ張られる様にして応接室を、この屋敷を去っていった。

 ヴェルズは混乱して泣いているルミティの涙を拭ってから、彼女の手をとって応接室のソファーに腰掛けた。


「私、本当にごめんなさい」

「なぜ、君が謝るんだい? 謝るべきなのは僕の方だ。あんな非道な手紙を送った上にずっと身分を偽って騙していたのだから」

「でも、私の不運体質のせいで壺が……」


 ヴェルズは床に散らばった壺を見つめ「ふっ」と笑った。


「君はもう不運なんかじゃないんだよ」

「え?」


 ルミティはヴェルズから自分が長い間黒魔術を使った呪いにかかっていたことを知らされた。その呪いのせいで「ルミティが幸せにならないように」なっていたことや、不運が発動しないようにヴェルズが「愛することはない」と伝え、エリアスとして呪いを解除するために暗躍していたこと。そして、術師はおそらくマロンだと言うこともだ。


「では今朝の紅茶の中に?」

「あぁ。君の呪いは無くなっている。占星術師の僕にももう呪いの影は見えないよ」

「そう……ですか」

「まだ確実な証拠は掴めていないが、マロン嬢は君に触れて呪いを発動させようとしても発動しないから無理やり壺を倒したんじゃないかと思ってね。大当たりだったようだが」

「けれど、私の親類がやったことに変わりはないわ。どう責任を取ったら良いか……。それにマロンが黒魔術を……? 黒魔術の使用はこの国では重大犯罪。あの子はどうなってしまうの?」


 ヴェルズはこの後に及んで妹の心配をするルミティに心を掴まれつつも、せっかくの初対面で崩れた顔を見せたくなくて冷静ぶって咳払いをした。


「まだ、確実な証拠を掴めていない。無論、壺の代金は彼女に請求させていただくが……呪いの方は彼女がもう一度君に危害を加えようとしない限り証拠は掴めないだろう。黒魔術の痕跡は数ヶ月で消えてしまう。君が呪いをかけられたのは君が中等部の頃だろう?」


 ルミティは俯いた。


「あの子は必ずやってきます。考えてみればずっとそうでした。私が持っているものを奪うこと、玩具やドレスも末妹のわがままだと思っていたけれど。違ったのかもしれないわ。どうしてもっと早く気がついてあげられなかったんでしょう」

「絶対に僕が君を守る。けれど、あの子がまた黒魔術を使うのならそれは助けてあげられないよ。悪いが僕はかなり怒っていてね。中等部の頃から……君を長年傷つけた彼女が許せない」

「旦那様にお会いできたことも、契約結婚ではなかったことも、呪いが解けたことも嬉しいのに。嬉しいのに……ごめんなさい。今は気持ちの整理がつかないんです。可愛がっていた妹が黒魔術を使って自分を貶めていたなんて信じられなくて……」

「ルミティ……僕はそばにいても? いや、居させてくれ。すまない、混乱させてしまって……」


 ヴェルズはそっとルミティを抱きしめ瞼を閉じた。完全ではないが、諸悪の根源であろう人物を退け、彼女の呪いを解いたはずなのに愛する女性は涙を流している。ヴェルズは自分の未熟さに唇を噛み締めた。

 ボルドーグ公爵夫妻の初めての対面は悲しさと混乱に包まれた時間になってしまったのだった。




マロン小ざまぁ? な回でした。

この後、溺愛パート〜しっかりと断罪ざまぁ〜完結とストーリーは続きますので是非応援してください!


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