Side*エリアス(ヴェルズ) 3
「古い黒魔術。子やぎの頭と四肢。それから、対象者の体の一部があればできるものだ。発動条件は……『術者が対象者に触れること』だった」
ヴェルズは「なんでもっと早く気が付かなかったんだ」と自らの太ももをバシンと叩いた。それを見てブルーノが静かに答える。
「我々は『愛することが条件かも』ということに踊らされてしまっていたのです。複雑に見えて、実はシンプル。ですが……今どきこの様な黒魔術を使う人間がいるとは。おそらく身内か使用人の犯行でしょうな」
ボルドーグ公爵家の別邸。夜も更けて夜鳥の鳴き声が響いていた。窓を開ければ少し涼しい風が部屋の中に入ってくる。
埃臭くて分厚い黒魔術に対する解除方法の本を開き、ヴェルズは調合窯を準備する。調合窯といってもティーテーブルに乗せても余るほどの小ささでその中で作れる解除薬は二瓶程度。
「ブルーノ。ここにある材料を材料庫から持ってきてくれ」
「はい、旦那様。空瓶は一つでよろしいですか?」
「あぁ、ありがとう」
ブルーノが材料を持って戻ってくるとすぐに調合が開始された。正しい材料を正しい順番で、古代魔術の力の宿った容器で作ることで簡単に解除薬は完成した。無色透明のそれを丁寧に小瓶へと詰める。猫の額ほどの大きさの小瓶につまった聖なる水をヴェルズはブルーノに手渡した。
「明日、ルミティの紅茶に混ぜてくれ」
「旦那様が明日説明と一緒にお渡しをすればよいのでは?」
「知っているだろうが、僕は明日王宮に呼び出されてる。理由はここのところ職務怠慢だからだ。多分、あの王宮の栄誉騎士かいうジジイに絞られるんだろうな」
「旦那様、ジジイではなく栄誉騎士様でございますよ。ここのところ、エリアスとして日中王宮を開けていたのは事実。それも、王宮では『新婚で妻にかまけている』なんて噂になっているほどです」
「だから、頼んだよ。ルミティの呪いを解いてやってくれ」
「かしこまりました。旦那様はいつ頃ご到着に?」
「昼過ぎには帰るよ。栄誉騎士様をぶっとばしてもね」
「旦那様、王宮で問題を起こされては奥様が悲しみますよ」
「そ、そうだな……」
「それから、もう一つ問題が」
「なんだよ?」
「呪いをかけた術者がまだ姿を現しておりませんし、その術者にどの様な制裁を? 一旦、奥様の呪いを解くことを優先としても危険な分子がそばにある可能性がある以上……」
「あぁ、必ず制裁を加えるよ。それに……目星はついている。優しいルミティはきっと術者を許してしまうだろうから。少し術者にエサを吊るしてやろうと思ってね。必ずルミティは守るが」
「かしこまりました。旦那様、ちなみに栄誉騎士様は第3区画で売られているチーズケーキが大好物だそうで。明日の朝9時にボルドーグ家の名前で予約を入れております」
ヴェルズはできる執事に最大の感謝をしつつ、明日、最愛の妻に会えることに胸を躍らせていた。




