Side*エリアス(ヴェルズ) 2
「あぁ、まさか断られるなんて」
ヴェルズは項垂れて深くため息をついた。ボルドーグ家の別邸でヴェルズとブルーノは『ルミティにかけられた不運の呪い』についての報告会を行っていた。
「お話を聞くに旦那様」
「なんだよ」
「旦那様は、エリアスとして奥様に愛の告白をしたのですね?」
「そうだ。まぁ設定に無理はあったが……僕じゃダメか?と彼女に聞いて……」
「それで、愛人として尽くしても良いかと聞いたのですね?」
「あぁ」
ブルーノは、指を揃え手刀を構えるとヴェルズの頭をポンと手のひらの側面で叩いた。これはブルーノがヴェルズの教育係だった時の「お仕置き」である。
「いでっ」
「旦那様。それは断られて当然です。なぜなら、旦那様はエリアスとして彼女に愛を伝えてなどいません」
「でも、僕じゃダメかって」
「でももへったくれもありません。旦那様は忘れておいでです」
「何を……」
「奥様に、好きだと伝えておられません。目を見て手を握って『好きだ』と伝えるのが愛の告白にございます。それが『僕じゃだめか?』『君が望めば愛人として』なんて……全く、うちの娘にそんなことを言った男がいたら捻り潰しますよ」
ヴェルズは頭を抱えてさらに項垂れる。
「あぁ、絶対嫌われた。僕はエリアスとしてもヴェルズとしてもルミティに愛してもらえないかもしれない」
「旦那様、奥様はそんなに心の狭いお方に思われますか? 彼女の呪いを解き全てを明かせばきっと奥様はヴェルズとしての旦那様を愛してくださるはず」
「なぁ、じゃあエリアスとしてもう一度愛を伝えたら彼女はエリアスを愛してくれるか? それで呪いの影が濃くなれば……発動条件さえわかってしまえば解くのは簡単だから」
しかし、ブルーノは苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振った。
「それが……エリアスとしても難しいかもしれません」
「ひどい告白をしたからか?」
「いいえ、若いメイドの娘からエリアスは奥様の『推し』だと伺いましてね」
「お……し?」
「えぇ、なんでも『推し』というのは麗しい姿を遠くから眺めているだけで十分な物。推しを誘惑しようとかどうこうなろうとかそんなの烏滸がましいとさえ思う。ただ、推しが幸せになってくれることを願い応援し続ける……最近では都市部のご婦人方が麗しい若い王子などを『推し』にして応援することが流行っていると」
ヴェルズは「なるほど」と納得した様子で頷いた。エリアスがどんなに距離を近づけても微笑んでも、ルミティは一線を引くように接していた。しかし、それは嫌悪感ではなく、むしろエリアスを好意的に思っているようなそぶりだってあったし、ルミティからお茶に誘ってくれたこともあった。その違和感の正体は『推し』だったのだ。
「じゃあ、もうエリアスがルミティに愛してもらうことは無理じゃないか?」
「えぇ、奥様はそもそも愛人という制度をよく思っていらっしゃらない様子ですし……」
「詰んでいるってこと?」
「いいえ、まだ方法はございます。呪いをかけた張本人を探るのです」
「そうか……そう言えば、ロビンが来た時少しだけルミティの呪いの影が濃くなった気がしたんだ。やはり、呪いは彼女の地元でかけられたものに違いない。ただ、伯爵家を疎ましく思っている領民など星の数ほどいるだろう」
「それはそうですが、術式・発動条件が判明すれば安全に奥様を呪いから解放できます。旦那様、もう少しの辛抱です」
「どうしてもう少しだと?」
ブルーノは片眼鏡をかちりと直すと
「おそらく、呪いをかけた張本人は自ら奥様に接触を図るはずでございます。ロビン様が地元に帰り『ルミティは幸せそうだった』と流布すれば、彼女の幸せを疎ましく思って必ず行動を起こす」
「そうか、今ルミティが幸せということは呪いが発動していないということ。つまり犯人は新たな呪いをかけにくる……か。万が一の時に合わせてあのブローチを作っておいてよかった」
青い鳥のブローチは宝石に不思議な魔力が込められている。彼女に呪いの影響が出そうな時、淡く光って知らせその効力を最小限位してくれるのだ。
「ブルーノ、明日以降で屋敷の訪問者リストは?」
「現状、アルバンカ伯爵家の領地のものはございません。どれも旦那様関係のご挨拶がいくつかでございますね」
「では、まだあちらは動き出していないと」
「えぇ、おそらく。明日以降は郵便物にも注意し奥様にすぐ手渡さないようにメイドたちにも指示をします
「僕も出来るだけエリアスとして護衛をするよ。あと、もう一つ相談していいか?」
「なんでしょう?」
「ほら、ロビンが来た時にヴェルズが王宮にもいないとバレてしまってルミティを泣かせてしまったんだ。エリアスとして屋敷にいる際のヴェルズの居場所とその理由をさ……」
「そうですね……」
ヴェルズは、ブルーノにアドバイスを聴きながらその夜もルミティに思いを寄せ過ごすのであった。




