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序
どうぞ宜しくお願いします。
大雪であったその日は、いつも飲んだくれで賑わう下通り商店街のアーケードも閑散としていた。
季節外れの雪を見に出てきたが、早速後悔していた。
店を出て北にすぐ、城跡交差点の街灯には人影があった。空気を含んだ綿雪が舞積もる中、我が町のシンボル日沈城を案じていたのは僕だけではなかったようだ。
薄桃色のコートに身を包む彼女の肌は雪よりも白く、マフラーから漏れる吐息と共に消えてしまいそうだった。
そのまま歩を進めると僕に気がついたのか、青みがかったメガネをかけた彼女の瞳と目が合った。赤くかじかんだ手と、頬に散りばめられた美しい星のそばかすが印象的だった。
街灯の影からスーツ姿の男が現れたが、今にも咲きこぼれんとする桜並木とライトアップされた日沈城の天守閣に背中を押され声を掛けた。