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(9)見て見て~ オレの出撃シーン

1時間前に前話を投稿しています。そちらを先にお読みください

 そして迎えたX-Day。こら、そこ、掛け算じゃないよ、エックスだよ、エックス。

 無事、シリカ族が掘り進めた坑道がオレのいる閉鎖空間に到達してくれた。

「正確な鉱床の位置を確認すると言って前に出て」

--うん

 少年が前に出て、穴から広い空間を覗き込んだ。

「いまだ!」

 オレの合図に少年は虚空に身を躍らせた。

 一瞬のためらいもないその行動に、むしろオレは驚いた。

 少年のオレに対する信頼、そしてその勇気に驚嘆する。

「トモダチの信頼には応えないとな」


 子供の信頼には応えないとな


 少年に手を延ばした鉱夫を斥の魔眼で弾き飛ばし、落下する少年にも魔眼の力を振るう。


「重の魔眼で重力軽減。引の魔眼で引き寄せる。彼の周りに胞子を展開、それを起点に盾の魔眼を展開して守った上で眠の魔眼で眠らせる」


 子供には見せたくないからな


 シリカ族が明かりの魔法を唱え、暗闇の閉ざされた空間をほのかに照らす。すると闇の中に浮かぶオレの姿をみとめ、シリカ族はみな驚愕する。

 そしてその光景をシリカ族の後ろから千里眼を使って眺めてニヤニヤするオレ。


 人の5倍はある大きさの赤黒い怪球 (胞子団子)と、それから生える無数の触手 (キノコ)とその先にある無数の目。

 そして怪球の真ん中にある一筋の線がゆっくりと開き、巨大な目がこちらを見た。


 おお、すげぇ、こえー

 一大スペクタクルw

 いいねぇ、化け物の登場シーンはこうでなくっちゃ

 デデデ、デデデ、デデデデデ↑デデデデデ↓


 日本でもっとも有名な大怪獣のBGMを熱唱するなど、オレの内心は大盛り上がりだ。このシーンの演出のために余分にエネルギーを使っているが、そんなものは必要経費だ。ロマンはコストに優先する!


 オレは重の魔眼で目の前の者達に加わる重力を増やしたが、それだけでシリカ族は動けなくなった。正直拍子抜けだ。

 少年は無事確保し、外への通路も確保した。穴は俺にとっては狭いが怪球を圧縮すればどうということは無い。

 つまり少年とオレの脱出計画はこれにて完了ということになる。


 そして目の前には散々、少年のことを殴ったりしてきた鉱夫とその上司たち。


 で、どうする? そんなもんは決まっている。


「 (みなごろし)!」


 オレはまず、一番少年のことを殴っていた鉱夫の頭を潰した。念力とかではなく、胞子団子を固める要領で二十倍重力で頭を抑えつけただけだ。

 そしてその死体に胞子が付着し、即座に発芽しその身体はみるみるキノコで覆われていった。

 そしてキノコを生やしたシリカ族の鉱夫がゆっくり起き上がると、他の連中は大パニックだ。うるさい!

 騒々しい他のシリカ族を麻の魔眼で麻痺させる。そして彼らにゆっくりと近づくキノコに覆われた死体。

 栄養を無駄にしたくないMOTTAINAI精神と動の魔眼の併用だったのだが、実にB級映画テイストで、うん。嫌いじゃなーい。

 麻痺し、身動きできないシリカ族を念の魔眼で持ち上げて先頭を行かせ、その後からキノコゾンビー、オレ、最後に眠っている少年の順で坑道を進んでいく。

 坑道の構造は完全に理解している。そしてすでにその隅々まで散の魔眼で胞子を広げ、遠隔でエネルギーを注入して急速成長&魔眼攻撃で支道のシリカ族を排除した上で苗床としてエネルギー源にしていく。

「吸の魔眼より、直接苗床にする方が遥かに栄養効率がいいな」

 こうして坑道を全てオレの群生地に変えながら少しづつ上がっていく。キノコゾンビーも増え、合流して数を増やすたび、麻痺させたシリカ族の目が見開かれるのが面白い。

 だがそんな彼らも、街が近づくにつれ落ち着きを取り戻し、希望を抱いた目で何かを待っていた。

 ああ、わかる。その気持ちはわかるよ。いかな化け物とはいえ、数千のシリカ族の猛攻に耐えられるわけもない。きっとそれを期待しているんだよね。

 そして俺たちはシリカ族の地底都市に到着した。

「ううぅ」

 鉱山長がくぐもったうめき声をあげる。

 既に吸の魔眼を全開にし、街中からエネルギーを吸い、そこかしこにシリカ族が倒れている。とはいえまだ生きているのだから、すごい生命力だ。

 しかしオレは硬く固めた怪球、即ち胞子団子を少し緩め、それを一気に解き放った。

「うぁぁぁっ」

 麻痺しながらシリカのお偉いさんが絶望の声を上げる。

 赤黒い胞子は街中に広がり、虫の息のシリカ族に取り付き、生きたままその力を養分にし、次々シリカ族の命を奪っていく。

 オレはそのまま街の中心地に進む。シリカ族の繁殖地だ。

 人間の死体に植えられた薄青色の花は全て枯れ落ち、その代わりにキノコが生い茂り、そのキノコの目が、ギョロリ、とシリカ族のお偉いさんの方を見た。

 オレは麻痺を解いたが、シリカ族たちは誰も動こうとしなかった。


      *     *     *


 永かった。

 ここまで来るのにどれほどの時を要しただろう。

 自力での繁殖のできぬ我らシリカ族が、他種族の妨害をはね退け、ここまで数を増やすのに、何世代、どれほど多くの時を費やしてきただろう。

 それがたった一日、いや数時間でこの有り様か。

 汚され、生まれる前の命が潰えた繁殖地から、私はゆっくりと背後を振り返った。

 この事態の元凶。自在に大きさを変える巨大な目と無数の目を持った怪球に目を向けた。

 直視するのも恐ろしい。

 目を向けるのもおぞましい。

 まるで焔のように揺らめき、近くにいるこの身を焼き害する、半ば実体化した瘴気。

 身体がガタガタと震える。

 呼吸するたび瘴気を吸い込み、臓腑が穢れ、魂が震える。

 動け。動け!

 私は恐ろしい存在を前に膝をつき、地に頭を擦り付けんばかりに平伏した。地面を見つめ、彼の存在から目を背けたことでほんの少し息をつく。

「お、恐れながら申し上げます。我らシリカ族は貴方様に決して敵対いたしませぬ。どうか、どうかお慈悲を賜りたく、お願い申し上げます」

 慈悲だって? 瘴気を纏い、死体を操る、命に逆行したモノに慈悲を求めるなど、自分で言いながら笑いだしてしまいそうだ。だが、こうするよりほかに手段などない。種の存続のためなら、魔王とだって取引してやろう。

「『おもてをあげろ』」

 酷く聞き取りにくい声がかかったので、弾かれたように顔を上げ、そして後悔した。

「ひっ」

 先ほどまでの比ではない濃密な瘴気のおぞましさに生命としての本能が悲鳴を上げる。

「『この少年の瞳をえぐり取ったのはお前か?』」

 その存在が問いかけてくる。まともに直視できないが、恐ろしすぎて目を逸らすこともできない。

 ヒトの(なり)をしていたが、その事が余計に冒涜的であった。

 それは良く見知ったダヌ族の少年だった。両の瞳はなく右の眼孔からはシリカの花が咲き、左の眼孔はぽっかりと空いている。

 しかし、その左の眼孔からはポタポタと、まるで粘性の高い液体のように濃密な瘴気の涙を流していた。

「『答えられないのか?』」

 まるで口の使い方を知らぬものが無理やり少年の口を操り、動かしているようなぎこちない言葉。だがその問いにわずかな苛立ちを感じ、慌てて平伏する。

「ち、違います。くわしいことは私にはなんとも」

「『ちっ、部下が勝手にやったことです、とでも言いそうな口ぶりだな』」

「えっ?」

「『もういいや』」

 濃密な瘴気の涙を垂らす少年とその背後に控える無数の目。それが私の見た最期の光景だった。


      *     *     *


「うーん、身体を操れば意思疎通は可能か」

 オレは操の魔眼を意識のない少年に使ってシリカ族のお偉方を尋問しようとしたが、言い方にカチンときたので、つい殺してしまった。

「カッとなってやった、って実際はこんななんだな」


 オレ君、沸点低すぎ~


「いや、トンデモ上司に散々振り回されたことのある誰かだろ、いまの」

 知らん振りする中の人たち。まあ、いいけどさ。

「ま、いいや」

 その一言でここまで無理やり連れてきた鉱山長や鉱夫、お偉方も全て様々な魔眼の力で殺した。いろいろな魔眼を試してみたかったというのも少しある。

「それにしても、この子の左目、なんかすごいな」

 オレは改めて眠り続ける少年の両の目を詳しく検分する。

 シリカ族の繁殖のための薄青色の花の鑑定結果は『シリカ族 (胚)」であったが、それと同種に見える少年の右の眼孔に咲いた花を見ると『シリカの花』と表示された。

 どうも、既にこの花は少年の身体の一部になっているらしい。どういう理屈でこうなったのかは判らないが、そういうのものと思うしかないだろう。

 問題は左のぽっかり空いた眼孔だ。

 先ほど操の魔眼を行使するためにオレの身体の一部 (キノコ)を眼孔に入れてみたのだが、ものすごく居心地が良いのだ。

 もちろん眼孔の物理的な底はあるのだが、エネルギー的な意味での容量は文字通り底なしと思えるほどであった。

 オレはシリカ族の都市中に散ったオレ自身(キノコ)を集結させ、その身を生贄にエネルギーに変換、その大半をモーリ少年の眼孔に収納し、フタをするようにキノコを一本、眼孔に埋め込んだ。

「この(オレ)がモーリ少年の視力を肩代わりできるといいんだけどな。見るじゃなくて見せる、みたいな。普通に見るってどうやるんだ? なんかそれっぽい魔眼ないかな」

 あまり意識していなかったが、最初から明かりのない暗闇でも普通に見ることができていた。

 しかし最初に使えた三つの魔眼、動、長、鑑では暗視ができるとも思えない。

「暗視自体は魔眼とかじゃないのかな、種族特性とか? あとは幻を見せる、いや、もっと見ることに特化した(けん)とか()の魔眼、とか、あっ」

 その時、オレの直感が一つの確信を感じ取った。

 オレはその確信に基づき、自らを鑑定する。

「あった。いや、無かったはずだ。まさか、恩恵が増えたのか?」


 恩恵:シの魔眼


「思わせぶりだなぁ。()の魔眼にして()の魔眼、ってか?」


 それでも別にいんじゃね。要は使い方だし

 視ることに特化した能力みたいだね

 視の魔眼として視界の共有に使えそうだ

 この子が見えるようになるなら、なんだっていいよ

 そうだな。なんかすっげー甘やかしてやりたくなってきた

 そうと決まれば、こんな地の底じゃなくて、外いこ、外。初めて見せるんなら何がいいかな?

 やっぱ晴れた青空じゃね

 うん、いいね、それ

 せめてこの子の見る世界は健やかでキレイであってほしいよね


 時系列としてはこの話の後に(6)の後半部分が来ます。

 とりあえず第一部完ってところかな。続きは未定です。


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