(8)見てられないよ
1時間前に前話を投稿しています。そちらを先にお読みください
シリカ族による掘削は順調に進んでいる。
それはそうだ。
途中、強固な岩などがあっても、オレがこっそり散の魔眼で結合力を弱めて砕けやすくしておくのだから順調で当然だろう。
オレの側からも堀の魔眼で掘り進める案もあったが却下した。
やはり巨大な空洞に浮かぶ目玉の化け物と言うインパクト、その演出のためには空洞までシリカ族に掘り進めてもらう必要があるのだ。
無駄じゃね?
ふっ、ロマンはすべてに優先する!(キリッ)
はいはい
それにシリカ族の実力がハッキリわからないから、直接対決はなるべく地の利のある状態で行いたい。
今のところ街全体に対する吸の魔眼は気づかれていないので、そういう技術は持っていないようだが、連中は魔法が使える。魔法はオレの知識に無い未知の力だ。警戒するに越したことは無い。
そんな折、一つのイベントが発生した。
丁度、連中の街を遠視し、音の魔眼でその会話を聞いて(見て)いた時のことだ。
「てきしゅー!」
ポッポッポッ音と共にそのセリフがオレの視界に表示される。凝り性なオレ等の一人が音の魔眼で作ったものだ。かつてはDTM職人兼人力ボーカ〇イドのPだったらしい。
それはともあれ、街はにわかに騒然となり、鉱山の仕事は中止され、鉱夫たちも集まってきた。
シリカ族は武器を持たない。
奴隷の少年を折檻する際に木の棒を用いるが、これはむしろ手加減するためのものだ。
初見では岩のようだと思った彼らの身体だが、その実態はむしろ結晶に近く、硬度が非常に高い。
それでどうやって身体を動かしているのかは謎だが、ともかくシリカ族というのはそういう生物だ。
だから彼ら自身の身体は強固な鎧であり、同時に強力な武器にもなるのだ。
オレは出撃していくシリカ族の一人に千里眼の目標を定めた。
彼らは街からさらに上に向かうトンネルを進んでいく。そこは鉱山のような坑道ではなく、整備された街道のようなものらしい。
やがて前方から鬨の声と激しく何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。
オレは千里眼をそちらに切り替え、襲撃者を捉えた。
それは見た目、普通の人間に見えた。他の種族も混じっているが、やはり一番多いのは人間だ。
襲撃者たちの組み合わせには見覚えがあった。苗床にされた者たちだ。
シリカ族の街で、シリカ族以外の者は例の少年以外、ほとんど見たことが無い。居たとしても苗床の順番待ちでごく短期間しか生かされていない。
つまりシリカ族は繁殖するための苗床を、どこかから連れてくるしかないのだ。
どこから? 当然周辺の他種族の居留地からだろう。
攻め込んだ者たちは剣ではなくメイスのような打撃武器で武装しシリカ族を打ち、呪文を唱えて魔法を発射していく。
数の上では攻め手の方が多いが、シリカ族は頑健であり、人間達ほどではないが魔法も使え、なにより一人一人がとても強かった。
攻め手の士気は高い。音の魔眼でその台詞を拾っていくと、その多くは怒りに燃え、復讐に身を焦がす者達であり、大事な人を取り戻すためにその身を捧げた者達であった。
オレはバレない範囲でシリカ族に対して吸の魔眼を使って弱体化させ、人間達を援護したが、地力の差か、やがて力尽きた人間達は敗走し、少なくない数の捕虜がシリカ族に捕らえられた。
人間が生まれ、一人前の戦士に成長するまで何十年かかるだろうか? 一方のシリカ族は他種族の捕虜を一人捕らえれば二か月足らずで一人の戦士を補充できるのだ。
「これ、普通にやったら人間側に勝ち目ないよな」
捕虜にされた人間達の多くは自害を図った。おそらくこれから何が起こるのか既に知っているのだろう。
しかし、シリカ族も心得たもので魔法で動きを止めたり、猿ぐつわを嵌めたりと自害させないノウハウを持っていた。
人間の一人がくぐもった声を上げるが、猿ぐつわのため、言葉にならない。
しかし、オレの魔眼はそのセリフを正しく捉えていた。
--コロセ!
「その願い、叶えてやろう」
オレは戦場を俯瞰したまま、吸の魔眼を全開にしていく。
捕虜にされた人間らはみな、大きく身を震わせた後、次々その命の灯を消していった。
シリカ族は大騒ぎだが、捕虜対策のための人間達の仕業と考え、悔しがりながらもそれ以上疑わうことなく、オレの存在に気づきもしなかった。
人間達は敵を増やす苗床にされることのない痛みのない死を迎え、オレはエネルギーのボーナスを得た。ウィン-ウィンのとても良いイベントでした。
あ、そうそう、人間達も全滅したわけではなく、逃げ延びた者達もいました。忘れずそういった連中には千里眼のターゲットに設定しておきました。
情報は多いに越したことはありませんからね。
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(おまけ)怪球に大きな目玉を付けよう
これは思いほのか手間取った。
最初は長の魔眼による成長、増の魔眼による増幅によって作り上げた巨大キノコを胞子団子の中に埋めてみたのだが、重の魔眼による高圧縮に胞子は耐えられても、オレ自身であるキノコ自体が耐えられず、潰れてしまったのだ。
(後でスタッフが美味しく栄養として、いただきました)
そこで埋めるキノコを斥の魔眼や盾の魔眼で重力に耐えられるよう試みたが、どうにも制御が複雑で現実的ではなかった。
埋める必要あるか?
誰かの言葉がキッカケになった。
胞子団子は中心に行くほど重の魔眼による重力が強くなる。そうでなければ表面にキノコを植えることもできない。
そこで表面近くの胞子の一つを発芽させ、しかもキノコの柄は成長させず、笠 (目)の部分だけを巨大化してみたのだ。
実験は成功。
こうしてオレは、オレの移動形態を完成させた。
即ち巨大な目玉を持った怪球で、その表面には無数の触手が生え、その先端には目玉がある。しかもすべての目玉が特殊な力を秘めた魔眼持ち……という姿を。
何処に出しても恥ずかしくない化け物ですね
いやぁ
誰かの呟きにオレ一同はみな照れくさそうに笑った。
どうやらオレの心はとっくに化け物であることに順応しているようだった。
1時間後に次話投稿予定