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(7)見せられないよ

 さてさて、これはよい子には見せられないお話です。

 目茸のメメンがその名になる前、ダヌ族の少年モーリと脱出を決意した後の話です。


 …………………………………………


 (とお)の魔眼の力で少年の様子を窺うのと同時に、オレは岩男……シリカ族のストーキングを開始した。

 始めは鉱夫、次いでその上司らしい者達など、千里眼の対象を切り替えて見ていく。場所の座標は既に把握できているので、途中で途切れても改めて千里眼を用いて場所を覗き見ることができる。しかし個人の指定はできないので、居場所の判らない誰かを見ることはできなかった。

 念話でつながった少年を見れたのはあくまで例外みたいだ。

 そうやって少しづつ鉱山の地図を作成し、ついには街というべき広い空間にたどり着いた。

 とはいっても、そこも地底である。


 すっげぇ、地底都市だ

 まあ、規模的には街ってレベルだけど

 岩男ばっかだな


 そこでシリカ族の話を盗み聞きすることで、更に多くのことが判った。

 因みにその際には音の魔眼×遠の魔眼で、対象の音を文字のように見て捉えている。なぜか彼らの話す言語も自然と理解できているが、転生特典とかチートの類だろうか? 謎だ。


 それにしても魔眼のかけ算使用、たけぇ

 エネルギーの減りがぁ

 必要なコストだ。短期的なコストをケチって長期的な利益を逃すのは愚か者のすることだ

 でも、貯蓄が減っていくのは胃にくる

 胃、ないじゃん

 そーだけどさー

 安心しろ。腹案がある


 鉱山で採掘された鉱石の使い道も判った。

 それらの鉱石はある場所に集められて精錬され、薄青色の物質が精製されていた。元の岩石の量に比べて非常に少ないので、大層希少な物質なのだろう。

 その薄青色の色合いは、岩男の体表の色によく似ていた。何か関係があるのかと思ったが、その謎もすぐに解けた。

 精製所の近くに、どうやらシリカ族にとって神聖らしい雰囲気の場所があった。

 そこには、多くの人間の死体が並べられていた。

 厳密には人間ではない者も含まれていたが、共通しているのは全てその目玉がえぐり取られていることであった。

 そしてそのぽっかりと空いた眼孔には薄青色の花が咲いていた。先ほどの精製物によく似た色合いの花だ。

 そうこうする内に、新しい人間が連れてこられた。

 多くのシリカ族の祈りと儀式めいた段取りの後に拘束された男は生きたまま目玉をえぐり取られた。ハッキリ言ってみているだけで痛い。

 男からはくぐもった悲鳴が漏れるが、男は自害することもできず、ただ空しく暴れることしかできずにいた。

 血の涙を流す男は他の死体の横に横たえられ、その場で命を奪われた。見えない恐怖と目玉をえぐられた痛みから解放され、むしろ死ねて良かったと安堵してしまった。

 そして儀式を執り行っていた岩男が、例の精製した物質と目玉を魔法で一つに溶け合わせたものを男の眼孔に注ぎ込み、儀式は終了した。

 やがて男の眼孔には他の死体同様の薄青色の花が咲くことだろう。

 既に咲いている花を鑑定してみる。


 種族:シリカ族 (胚)


 なるほど、これがシリカ族の繁殖方法か。だから岩男ばっかで、女っぽい個体が存在していないのか。

 死体一つに花は一輪。

 この街に住むシリカ族はざっと見で数千人はいるようだ。その全てがこのように他種族の死体を使って増やしていると思われた。

 後の経過観察によってわかるのだが、大体、1週間で芽が出て、2~3週間で花が咲き、2か月後には収穫……つまりシリカ族の成体が生まれる。

 そのころには元となった死体は完全に養分を吸い尽くされ、カラカラになっていた。


 なんてーか、シリカ族って種の存在自体が邪悪だよな

 いやぁ、そうでもないでしょ。他の生き物の死体に寄生して繁殖する生き物なんていくらでもいるし

 問題は、曲がりなりにも言葉を発する()()として、それはどーなのって話で

 だからって、他種族のために私達は滅びましょう、なんて生き物は存在しないよ

 そりゃそーだけどさぁ

 結局んところ、これはただの生存競争だ。善悪なんか存在しない。だから……

 だから?

 オレたちが同じことをしても別に構わないよな?


 一つ、気になる点があった。

 あの少年の右目に咲いている花。あれはこの繁殖のためのものと同じ薄青色の花だ。

 先の儀式によれば生きてるうちに目玉をえぐり出し、苗床を殺してから目玉を素材にしたシリカ族の素を注いでいた。だが少年は生きている。

 別に順序は関係ないのか別の理由があるのか謎だ。

「ま、いま考えても仕方ないか。無事脱出できたらその後考えてみるか」

 と、疑問を棚上げする。

 オレは視点を鉱山に戻し、鉱夫を探した。そして都合よく一人で働く鉱夫を見つけるとそれに対して(すい)の魔眼を使用した。

 鉱夫は、突然の脱力に戸惑い、膝をついたので、そこで吸引を止めた。交付は頭を振りながらその場に座り込み、一休みを始めた。


 エネルギーは吸えたが、吸の魔眼×遠の魔眼のコストをわずかに超える程度か。手間とリスクを考えたら赤字だな

 最期まで吸い尽くしちゃえば?

 それだと騒ぎが大きくなる。今は坑道のルートを変えさせている大事な時期だ。その時に異変が起きればルート変更が延期か最悪中止になる恐れがある

 じゃあ、結局腹案とやらは失敗?

 いや、要はやり方だ


 そんなわけでオレは、街全体を遠望できる位置に遠の魔眼の視点を固定し、そこから吸の魔眼を発動する。

 吸い取る量は極限まで絞る代わりに対象は街全体だ。

 但しシリカ族の繁殖地は顕著に影響が()()()()()だろうから、範囲から除外する。彼らにとって神聖且つ重要な施設のようだから、異変を察知されやすいためだ。

 あとは彼らが掘り進めてくれるのを待てばいい。

 エネルギーの目処が立ったので、オレは次の準備を始めることにした。


      *     *     *


 遠の魔眼を通して栄養に寄らずにエネルギー供給の目処を立てたオレは、今度はそのエネルギーの貯蔵としかるべき時のための準備を開始した。


 いまのままじゃ移動できないもんね

 そういうこと


 いまのオレは閉ざされた場所の地面に生えた状態だ。これでは動くこともできない。

 かといって、キノコを一つや二つ移動させたり、胞子を飛ばしていった先で繁殖したりというのも、行った先のリスクを考えると気が進まない。

 なにより、今ある群生とエネルギーを無駄にするのがMOTTAINAI!


 あー、わかる、わかる。小市民だもんね、うち等

 失敗した時のことを考えちゃうんだよね

 リスクマネジメントは当然だ

 冒険ができない人ですから(ドヤッ)

 慎重と言ってくれ

 ま、そんなだからみんなして陰キャだったわけだし

 リア充なんて都市伝説です。幸せな結婚なんて幻想です。独りで推しを追っかけてる方がずっと幸せなんです。幸せ、なんです、よ、よよよよ

 あ、ドルオタお局女史が壊れた

 いつものことでしょ

 で、どーやんの?

 ほうしだんご~(例の声色で)


 オレの内心に冷たい風がよぎった。

 それはさておき、増の魔眼で抑制していた胞子の生成を再開した。栄養は得られないが、吸の魔眼で得たエネルギーがあるので、その範囲で作っていく。

 そしてできた胞子を動の魔眼で団子状に固めていく。

 オレの胞子は赤みがかった黒色をしており、キノコの笠も柄もそれに近い色合いだ。

 胞子を動の魔眼で丸め、重の魔眼で固め、元に戻ろうとする力を斥の魔眼で抑え込むことで高密度の胞子団子を作っていった。

 それに伴い、オレ自身の群生も間引いていく。さすがに閉鎖空間全体に広がった群生全部を移動させることは無理そうだからだ。

 しかし、無駄にするわけではない。間引くキノコを消費して胞子の生成に利用することで、使用可能なエネルギーの形で貯蔵できるようになる。

 つまりオレ自身の地力はそのままに移動可能なまでにスリム化しようということだ。

 とは言え、胞子はあくまでエネルギーの貯蔵庫。オレ自身はあくまでキノコの目茸だ。あまり減らし過ぎてもよくない。

 この場合、キノコの数はオレの体力、つまりヒットポイント(HP)だ。一方、胞子団子は魔眼のエネルギー源として使用できるマジックポイント(MP)にあたる。そして魔眼の使用にはHP、MP、どちらも使用可能だがMPの方が効率がいい。

 いまの俺は移動の利便性のためにHPを削ってその分MPを貯めこんでいる形だ。HPを削りすぎればオレ自身のリスクが増える。まあ、この辺は追々考えて行こう。

 では、一度実験しておこう。

 オレは動の魔眼と念の魔眼を併用してキノコ(オレ)群生(身体)の一部を引っぺがした。

 群生と切り離されたが、どちらもオレ自身の身体として機能し、オレの制御下にある。

 次に準備した胞子団子の表面に引っぺがしたキノコを植え付けていく。

 すると丸い胞子団子の表面に触手のようなキノコの生えた怪しいボールが出来上がった。


 あやしー

 超怪しい

 怪球の名が相応しい

 出会ったらちびる自信あるわ、これ


 しかし、う~ん、と何やら悩む声も聞こえる。どうした?


 足りない

 なにが?

 目玉が足りない

 いっぱいあるだろ!


 怪球の表面で触手状のキノコがゆらゆらと揺れ、その先端の目玉が呆れたようにオレを見る。いや、その怪球もオレなんだけどさ。


 ちがう。触手のことじゃない。この怪球だ。怪球の真ん中にでかい目玉が欲しい

 それは……確かに

 サ〇ル・セ〇ラ先生は言いました。目玉はロマンだ

 ネオ・ア〇ランテ〇スしかり、B〇団しかり、フリーメーソンしかり、バ〇クベ〇ードしかり

 普遍的なデザインだしな


 こうして盛り上がったオレ(たち)は、試行錯誤の末、怪球に大きな目玉を付けることに成功した。


 ……これって機能に何の影響もない、ただのエネルギーの浪費じゃね?


 ロマンを介さぬ小娘の呟きを、いつも効率重視を唱える者達は聞こえていないフリをした。


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(おまけ)音の魔眼の実績解除

 これも舌の魔眼同様、魔法陣の機動に使えないかと実績解除したもの。

 しかし、その権能は音を聞くのではなく、音を()()というものであり、音を出すことはできたが、発声には程遠い単純な音しか出せなかった。

 音を見るというのはイメージとして、草むらでカサッと音がしたとすると、普通ならばあっちの方から音がした、と聞こえるのだが、この魔眼では音のした辺りに『カサッ』という文字が見える、といった感じである。


1時間後次話投稿予定

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