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(6)目にうつるもの

1時間前に前話を投稿しています。そちらを先にお読みください

 数か月後。

 シリカ族の鉱夫の一振りが岩を砕くと、岩はその向こうに落ちていった。岩の反響音からかなり大きな空間に繋がったらしい。

 そろそろであることが判っていたので、この場にはダヌ族の少年は勿論、鉱山長などシリカ族のお偉方も集っていた。

「なんか息苦しいな」

「ガスかもしれん。防護魔法を怠るな」

「ここで間違いないか」

 鉱夫たちが言葉を交わす中、鉱山長に促されて少年が前に出、モノの声に耳を傾けながら穴に近づいていく。まるで耳をそばだてているかのような姿に疑いを持つ者はいない。


 いまだ!


 少年にだけ聞こえる声を合図に、少年は虚空に身を躍らせた。慌てて鉱夫が手を伸ばすが、何かに弾かれたかのように後ろに吹き飛び鉱山長らを巻き込んで倒れる。

 空洞の中は真の闇に包まれており、少年の姿は見えない。

「光よ!」

 シリカ族の一人が魔法を唱え、暗闇の中に放った。


 魔法の光に反射していくつも光が瞬いているのが見え、初めは鉱石の光かと期待したがそうでは無かった。

 それは目だ。

 暗闇の中に浮かぶ無数の目。それは触手?のようなものの先にある異形の目であった。

 しかもその触手は全て人の5倍はある大きさの赤黒い怪球から生えていた。

 怪球と、それから生える無数の触手とその先にある無数の目。それが暗黒の空間に静かに浮かんでいた。

 その怪球は目に見えるほど濃い瘴気をまるで焔のごとく纏い、瘴気はこの空間全てを覆っていた。

 先ほど息苦しいと感じていた鉱夫だが、防護魔法をかけてもその息苦しさが回復しない。それはガスではないのだから当然だろう。この空間に満ちた目に見えるほど濃い瘴気によって身体が拒絶反応を示していたのだ。

 怪球の近くにダヌ族の少年も浮かんでいるが、どうやら気を失っているらしい。


 子供には見せたくないからな


 その声を聴ける者はこの場にはいない。しかし無数の目に睨まれ、動けないシリカ族たちはその目から強い怒りを感じていた。

 多くの触手を生やした怪球の表面に一筋の線が走りそれがゆっくりと開いていく。それは怪球の半分を占めようかという巨大は目であった。

 幾つもの小さな目と怪球の巨大な目。その怒りに満ちた視線に射すくめられたシリカ族の面々は、唐突に地面に押し付けられた。


 重の魔眼3倍

 野菜人なら楽勝だな

 無駄遣いするな。エネルギーの無駄だ

 固いこと言いっこなし

 ようやくのお披露目だからね

 テンション上がる~

 で、どうする?


 答えの判り切ったその問いに、軽い笑いの雰囲気がモノの心中に響き渡る。

 そもそも助けるはずの少年をなぜわざわざ眠らせる必要があったのか?

 問いに対する答えは満会一致でとうに決まっていた。


 (みなごろし)


 うん、子供には見せられないよ。


      *     *     *


「うん?」

 少年は心地よい暖かさとわずかな風に包まれながら目覚めた。


 起きたか?


 少年に向けて指向性を持って向けられた思念が、少年の耳に届く。

「ここは、どこですか? こんな暑い、いえ、気持ちいい暑さは初めてです」


 暖かいっていうんだよ


 目の前にいる存在の気配に少年は意識を向ける。

「あの、こんにちは。はじめまして。あなたがボクの“トモダチ”ですか」

 小首を傾げた少年の問いに、猥雑且つ雑多なモノの思念が多数(ほとばし)るが、目の前の存在の主たる意識に阻まれているせいか、わずかにしか聞こえない。


 ああ、そうだ。はじめまして、だな


 少し照れくさそうにオレが応える。

 精神年齢を考え友達という言葉にこそばゆさを感じる層と、鼻血を吹かん勢いで喰いつく層とに分かれた。

「はじめまして。それでここはどこですか? あれからどうなったんですか?」


 あー、それだな。そうだなぁ。()た方が早いかな


 その思念に少年はまたも首をかしげる。少年は幼少のころに眼球をえぐり取られ、右の眼孔にはシリカの花が咲き、左の眼孔はぽっかりと空いているだけだった。

 しかし、トモダチからは面白がるような気配が感じられた。


 いいから、目を開いてごらん


 その言葉を合図に、少年の左目に光を差した。

「えっ?」

 左のまぶたを開き、仰ぎ見たそれは何処までも広い光景であった。

「うわぁぁ」

 少年は生まれて初めて見る空の青さと広さに文字通り目を奪われた。

 その姿を満足そうに見つめる怪球の目。その目と同じものが少年の眼孔にあった。


 勝手にやって悪いが君の左目をオレのエネルギー貯蔵庫にさせてもらった。そのついでにオレの目を君の目のその代わりに埋め込んだってわけだ


 感動する少年の耳に怪球の言葉が届くまでには、しばらくの時間がかかった。


      *     *     *


 それで少年。キミはこれからどうする?


 バスケットボールぐらいの大きさのぷかぷかと浮いている赤黒い怪球の目が少年を見る。

 また、怪球から生えた沢山のキノコの先端の目みたいな笠も少年を見つめる。

「シリカ族の人たちは?」


 心配ない。連中とは()()()()()()()。キミは自由だ。行きたいところに行ける


「……わかんない、です。ボク、何にも知らなくて。ボク、どうしたらいいんですか?」


 それにはオレも答えられない。オレだってこの世界のことは何にも知らないんだ


「そう、ですか」


 じゃあ、それを探しに行くか


「え?」


 二人でアチコチ色んな所に行ってみようぜ。キレイなものを見て、美味しいものを食べて、この世界のことを知っていこう。そうしていくうちにやりたいことも出てくるさ。


「……一緒に、居てくれるの?」


 むしろこっちからお願いしたいくらいさ。今んとこ俺と話しできるのはキミだけだからな。


「うん。うん、お願いします。あ、ボク、モーリっていいます。よろしくお願いします。あなたの名前は何ですか」


 あ、考えてなかった

 よい子の味方、怪傑目メーン!

 だっさ!


 オレの意識が逸れた隙に内なる声が阿呆なことを言い出した。

「メメンさん?」


 おい待て、これを見てみろ

 マジで!

 ウソだろ


 内なる声の狂乱にオレはオレ自身を鑑定する。


 種族:目茸(めだけ) (変異種)

 名前:メメン

 称号:よい子の味方


 あははははははははははっ


 もう、笑うしかない。

 オレの爆笑にモーリは不思議そうに小首を傾げていたが、やがて釣られたようにモーリも楽しそうに笑った。


 こうして、メメンとモーリの異世界観光旅行は幕を開けたのであった。


      *     *     *


 目だけの化け物とダヌ族の少年がお気楽観光旅行を決めたシリカ族の居留地周辺から遠く離れた某所にて。


「ぎゃああああああああああああああああっ」

 多くの信者の祈りを集めた荘厳な聖堂の中、聖女が悲鳴を上げ、そのまま失神した。

 聖女ほどではないにしても、ある程度以上の力を有する者達が世界中で何かを感じ取り、ある予言の到来を予感した。


 先の予言では、魔王の誕生が予告され、そして予言通りに現れた魔王によって世界は一度滅びかけた。

 魔王消滅後に新たにもたらされた世界の危機を示す予言は次のとおりであった。


「地の底深くに封じられし黒焔を纏いし邪悪、いつの日か目覚めん」




 しょっく~! ここまで書き上げた後に、ふと思いついて検索したら「メメンとモリ」という本の存在を知った。へこむぅ。

 続きは多分、おそらく、明日投稿予定


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