(5)目が据わる Verオレら
1時間前に前話を投稿しています。そちらを先にお読みください
これはダヌ族の少年が初めて目だけに話しかけたときの話だ。
もう、堀の魔眼で地道に掘ってこうぜ
ユンボ姐さん、オナシャース
まっすぐ上に掘り進むわけいかないんだから、ギャンブルすぎるよ
そこはそれ、重の魔眼で無重力にしてプカプカ浮いて
エネルギーコストがかかりすぎますね
舌の魔眼で喋れればよかったのに……
まさか目で味わえる味覚の能力だったとは……
そんな大脱走計画と並行して、腐った×算や日朝の戦う魔法少女の推しについてやゲームについて熱く語り合っていた時、突然、第三者から声をかけられたのである。
--ねえ
その瞬間、心の声はピタリと止んだ。
それは喫茶店でオタ話に花を咲かせていたら隣の席から咳ばらいをされた時のような、腐ったセンシティブな話をしていたら子供が不思議そうにじっと見ているのに気づいた時のような、一人だと思ってアニソンを熱唱していたら家族が居たことに気づいた時のような、気まずい沈黙が下りた。
--邪魔してごめんなさい。お話が楽しそうだったからつい
おまえ、だれだ?
オレは思わず強い口調で返した。同時に遠の魔眼を使用した。遠くを見る千里眼の力を持つが、対象を指定できずに宝の持ち腐れとなっていた魔眼だ。今は念話の相手という明確な目標がいるので無事作動した。
--えっと、ボクは
暗い部屋に粗末なボロを纏った少年見えた。ちょうど岩みたいな男が少年を棒で殴りつけるところであった。
思わず息をのむオレ(喉はないけど)。
--ごめんなさい、仕事行かなきゃ。ごめんなさい
少年は心の中でしきりに謝罪しながら、岩男について出ていった。
無論、オレは千里眼でそのまま尾行する。
岩男……鉱物みたいな固い体表を持った種族……は少年を度々苛んでいた。小年の仕事が何かは具体的に判らなかったが、ひどく疲れていて辛そうなのに無理やりやらされていることが判る。
そして少年には瞳が無かった。明らかに人為的にえぐり出されたことが判った。
殺していいよね、ね
コロそ、ね、早くコロそ
オレの心の声が妙に落ち着いた……というより冷たい声で過激なことを言っている。気持ちとしては同感だ。しかし千里眼を通した相手に魔眼の力が使えるかは未検証だ。
じゃあ、この機会に実験しよう。こういうのはどうだ?
オレは遠の魔眼による千里眼を通して魔眼を用いようとしたが、効果を発揮しなかった。
そうじゃない、こう!
腐った女子高生が静かな怒りを込めて 操の魔眼、遠の魔眼、そして交の魔眼の三つを同時に使用した。即ち、
操の魔眼×遠の魔眼! 大事なのは遠が受けで操が攻めということ! 遠の魔眼の千里眼の力を操の魔眼が使う。イニシアチブはあくまで操。ああ、使うってフレーズが背徳的でいい感じに。ペンタブ~!
何やら騒々しいが、それはともあれ操の魔眼は効果を発揮し、オレは少年を操った。
「『--こっち、おく、300ゲン(長さの単位)、すごく大きな鉱床』」
オレの居る方向を示す少年。距離などは少年の知識に基づいて補完されている。
少年は汗びっしょりで苦しそうだが、思いのほか負担をかけてしまったようだ。すまない。
--へいき、だよ
! 少年から返答が来た。
オレの声が聞こえるか?
--うん、聞こえるよ。声をかけてくれて嬉しい
魔眼の力で無理やり操られたのに、そんなこともおくびに出さない素直な物言いに涙を禁じ得ない。
苦しそうに膝をついた少年を岩男が殴ろうとしたが、思いとどまりどこかに走っていった。
ふっ、命拾いしたな、岩男め。
そして、ぶたれずにすんで安堵の息を漏らす少年にオレは心の中で声をかけた。
ぶたれるのは嫌か?
--うん
ゆっくり休みたいか?
--うん
ご飯を一杯食べたいか?
--うん
自由になりたいか?
--……うん
よし。オレたちは同志だ。一緒にここから出よう
--どうし?
トモダチってことさ
--……うん!
この日からオレたちの脱出計画が始まった。
1時間後に次話投稿予定