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(4)目が据わる

1時間前に前話を投稿しています。そちらを先にお読みください

 むかしむかし、あるところに、ダヌ族の少年が居ました。

 少年の母親はシリカ族の奴隷で、暗い坑道の中で少年は生まれました。

 やがて、シリカ族に酷使された母親は死にました。でも心配ありません。代わりに少年がいるからシリカ族は困りません。

 少年には目がありませんでした。生まれてすぐ、シリカ族によって眼球をえぐり取られていたからです。

 だって少年の働く場所は明かりのない鉱山ですから目は要りませんし、少年の耳には価値がありましたが、目には価値が無いからです。合理的ですね。

 少年にはモノの声を聴く力がありました。

 少年はシリカ族に言われるがまま、岩の声を聴き、求める鉱石の場所を探し当てていきました。

 目を失ったことで、その耳は力を増し、母親よりも使える奴隷としてシリカ族に重宝され、丁重に扱われました。

 どのくらい丁重かというと、具体的には殴られる時も固いシリカ族の拳ではなく木の棒ですし、ご飯も1日一回もらえます。なんというホワイト企業でしょう。

 少年はシリカ族の命令を聞き取り、モノの声を聴いた内容を伝える程度にはおしゃべりできましたが、普通の会話というものをしたことがありませんでした。

 だから、その()()たちの会話は、少年の心を初めて“愉快”な気持ちにしてくれました。


 もう、堀の魔眼で地道に掘ってこうぜ

 ユンボ姐さん、オナシャース

 まっすぐ上に掘り進むわけいかないんだから、ギャンブルすぎるよ

 そこはそれ、重の魔眼で無重力にしてプカプカ浮いて

 エネルギーコストがかかりすぎますね

 舌の魔眼で喋れればよかったのに……

 まさか目で味わうための能力だったとは……


 そんな真面目っぽい会話と並行して、カケザンの話とか、“ろぼっと”や“まほうしょうじょ”や“げーむ”の話など、理解できなくとも、楽しそうだということだけは理解できました。


--ねえ


 あまりに楽しそうなので、少年は自分から声をかけました。

 その途端、モノたちの声は聞こえなくなりました。

 怒らせちゃったかな? と少年は怖くなりました。


--邪魔してごめんなさい。お話が楽しそうだったからつい


 おまえ、だれだ?


--えっと、ボクは


 その瞬間、少年は殴られました。どうやら短い休憩時間は終わりのようです。モノたちの声に気を取られて時間を過ぎてしまっていたようです。


--ごめんなさい、仕事行かなきゃ。ごめんなさい


 目のない少年は不思議と誰かに見られているかのような視線を感じたが、戸惑っていると再び殴られたので仕事に集中することにした。


      *     *     *


 暗い暗い地の底深く、蟲毒の壺の中に閉じ込められた()()が身じろぎした。

 幾千幾万もの目を持つ化け物は闇よりも暗い瘴気の中でその力の一部を行使した。


「あっ」

 ダヌ族の少年は、頭を押さえて思わず膝を突いた。

 岩の声を聴き、シリカ族の求める鉱石を探していたが、今日は妙に聞こえる声が小さい。まるで何かに畏れているかのようだった。

「『--こっち、おく、300ゲン(長さの単位)、すごく大きな鉱床』」

 少年は汗びっしょりになりながら辛うじてそう言った。

 シリカ族たちは顔を見合わせ、棒で殴って立たせるか思案したが、内容の重大性から鉱山長に報告することを選んだ。

 それは彼らにとっても幸運であった。もしこの場で少年を殴っていたら、その光景を()()()()モノがどんな反応を示したかしれない。

 少年が示した方向はシリカ族の坑道から斜めに掘り進む形になるので労力は大きい。つまりコストがかかるのだ。

 しかし、このままこれまで通りに掘り進むよりも大きなリターンが望める。

 少年の言によれば、これまで少年が探し当て掘り出した鉱物全てを合わせたよりも遥かに大きな鉱床であるらしい。

 シリカ族は、少年の言葉により、これまでよりも深い地の底を目指して掘り進めていった。


--これでいいの?


 暗い地の底でモノが満足げに頷いた。

 少年は初めてできたトモダチの言葉を疑うことは無かった。


1時間後に次話投稿予定

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