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(19)見なかったことにしよう(決断)

 翌朝、砦に戻ったオレ達を、心配するモリィが出迎えた。

「よかった、無事で」

 そう言ってモーリをギュッと抱きしめるモリィ。しかし、当のモーリはというと、キョトンとした表情をして彼女の気持ちが、よく判っていない様子であった。

「メメン・ト・モーリが戻ったそうだな」

 砦のお偉方である魔法使いギルダーや宿屋の親父のダードやゴロツキ兵士のギョローメまでやって来た。

 無事を喜び、そのままモーリを休ませようとするモリィと、危険なことをしたことをシッカリ叱るべきだと主張するギルダーとが口論まで始めてしまった。

「心配をかけちまったみたいだな」

 その様子に、思わず出たオレの呟きに、やはりモーリはキョトンとした表情を浮かべた。

「みんな、モーリのことを大事に思ってんだよ。そのモーリが危険な目に合ってるんじゃないかって心配だったのさ」

「しん、ぱい、ってなぁに?」

「大事な人がいなくなったらどうしよう、いなくならないで欲しい、っていう不安な気持ちのことさ」

「ボクがいなくなったら、みんなはイヤなの?」

「ああ。見てみろよ。モリィさんなんか目の下に隈を作ってる。きっと心配でロクに寝てないぞ、あれ。それにこんな早朝なのにギルダーさんほかみんな、こんなにすぐに集まった。みんな、モーリのことを待ってたんだな」

 言いながら、オレは内心、不味った、と舌打ちした。

 モーリの疑問についつい答えてしまったが、逆にモーリの方でもみんなと離れ難くなってしまっては困る。

 オレ達は異形の獣や死人が来る前に、みんなとさっさとお別れしてこの砦を離れなければならないのだ。

「あ、あの」

 影の魔眼で本心を隠しながら、オレが考え込んでいる隙に、モーリがモリィとギルダーの口論に割って入った。

「昨日、雨に降られて帰れませんでした。兵士の人が雨が降りそうだから気をつけろって言ってくれたのに、遊びに夢中で帰りそびれました。しん、ぱい? かけてごめんなさい。次から気をつけます。あ、あと、えっと」

 言いよどみ、もじもじと手をしきりに動かし、顔を伏せるモーリと、子供の言葉に耳を傾ける大人たち。

「しんぱい、してくれてありがとう。嬉しいです。え、えへへへへへっ」

「もう、心配かけて、この子は」

 照れ笑いのように微笑むモーリを、モリィはもう一度抱きしめた。

「えへへへへへへへへっ」

 嬉しそうなモーリの笑いに、ギルダーも顔をほころばせるが、すぐに真面目な顔を作った。

「メメン・ト・モーリ。何が悪かったか判っているようだから、これ以上は何も言うまい。但し心配をかけた罰だ。当面の間、砦の外に出るのは禁止だ」

「ええ!」

 驚き、子犬のような表情でモリィの肩越しにギルダーを見上げるモーリ。

--あざとい、あざといよモーリ

--スチルにして保存したいあざかわいさ

 影の魔眼でも隠し切れないオレの中の人達。まったく……

「メメンと一緒ならいい?」

「私は『メメン・ト・モーリ』に言ったのだ。いいな」

 強めの付加疑問文に、はい、と小さく頷くモーリ。

「おい、モリィ。そろそろ離してやれ」

 宿屋の親父がそう言って、モリィを引きはがしモーリにバスケットを渡した。

「腹が減ってるだろ」

 それはパンに肉を挟んだ簡単なサンドイッチとマグに入った白湯であった。

 いつもなら野菜を食え食えうるさいダードが、モーリの好みに合わせた軽食を用意してくれていたのだ。

「うわぁ、お肉だぁ」

 パッと顔をほころばせたモーリが、バスケットを受け取りその場てパクっと食いついた。

「おいしい!」

--くっ! オレのキノコを食べて美味しい美味しい言ってくれてたのに

ーー肉か、肉がそんなにうまいんか

--ニクがニクい。

 うるさい、おまえら。あ、そーだ。

「モーリ。ちょっとモリィさんにお願いしてくれるか?」

「ん? なぁに……わかったぁ。モリィさ~ん」

 肉サンドで一息つき、解散ムードとなったところでモリィを呼ぶモーリ。

「えっとね、雨を通さない頭までかぶれるガイ、トウ?が欲しいです。あと岩塩とかとナイフや火打石なんかの“さばいばる”的なやつも」

 オレの言ったことをそのまま反芻するモーリ。

「……私の言ったことが判らなかったのかな、メメン・ト・モーリ」

 聞くとはなしに聞いていたギルダーが少し怖い顔を作る。

「? ここを出て旅するのに必要だから。なにかあってもすぐ動けるように準備だけしときます」

 その言葉にモリィ、ギルダー、ダードが揃って動揺する。あ、ギョローメの奴はあくびしてる。なんで居るんだ、アイツ?

「え、旅立つって、えっ?」

 露骨に狼狽えるモリィ。

「メメン・ト・モーリ。お前の禁足命令は解けていないぞ?」

「うん。だからお泊りの練習しとくんです。あ、ちょうさたいっていつ戻りますか?」

 その問いにギルダーの表情が一際引き締められ、強い視線でモーリを睨み付けた。やめろよ、その目。モーリが怖がるだろうが。

 オレ達の証言を確かめるため、シリカ族の動向を調査しに行った調査隊。それが戻るまでは砦に留まるよう禁足の命令を受けている。

 しかし、オレは知っている。調査隊が()()()戻ることは決してない。

 ()調査隊の死人の兵士たちは帰巣本能か、別の理由かは判らないが、異形の獣たちを率いながら、今この時も、少しづつこちらに向かってきている。

「調査隊、か」

 そう言ってギルダーは少し考えこみ、周囲を軽く見まわす。周囲には兵士だけでなく、冒険者などの民間人も居る。どうやら聞かれたくない話題のようだ。

「その辺はまたの機会にしよう。ダード、モリィ、後は頼めるか」

 うむ、と頷く親父と、よろこんで、と居酒屋のように応じるモリィさんであった。

「さ、ボクたちも()()()

 ニコニコと笑うモーリに、オレは無言を返した。

 さて、困ったな。


      *     *     *


 さて、困ったな。

 異形の化け物たちは今この時も少しづつこの砦に近づいてきている。

 目だけの化け物であるオレが魔眼の力を駆使しても手こずった相手が数十。果たして砦の兵士はそれを退けることができるのだろうか?

 砦の兵の中でも中堅っぽいギョローメでさえオレの魔眼の前では赤子同然だ。その魔眼の力に耐え、また遠の魔眼の力が食い破られたことを考えると全滅の可能性すらある。

 オレとしてはモーリと共に、さっさとこの砦から旅立ってしまいたい。正直、砦の人たちの命とモーリの安全を秤にかければ、比べるまでもない。

 だが、もちろん、モーリにはそんなことは言えない。

 モーリが危険に晒されるのは論外だが、親しい者の死によってあの子の心が傷つくこともオレは望んでいない。

「半端に生き残ってソイツからモーリにそれが伝わるぐらいなら、全滅してくれた方がよっぽどシンプルでいい」

 そしてメメンとモーリ(オレ達)は遠い地に離れてしまえば、モーリの心が煩わされることもない。

「少し、長居しすぎたか」

 せめてモリィとぐらいはキチンとお別れをさせてやりたいが、いざとなったらモーリを無理やり眠らせてこっそり砦を脱出しよう。空を飛んで逃げればあいつらも追ってはこれまい。異形の軍団も砦の者も、どちらも……。


「……なあ、モーリ?」

「ん~、なぁにぃ」

 宿の食堂に腰かけ、うつらうつらしていたモーリが半分寝ぼけながら応じる。

「モリィさんのこと、好きか?」

「うん、好きだよぉ。優しいから好き」

「ダードはどうだ?」

「ご飯おいしいから好き」

「ギョローメは?」

「好きだよ」

「ギルダーは?」

「えっと、杖のおじさん? うん、好きだよ」

「エファは?」

「ん~、誰それ?」

「いや、ほら、居たろ。砦の城主の」

「おぼえてない、知らない」

 不憫な奴め。ま、いっか。オレは心のファイルでエファの重要度を格下げした。


 こうしている間も異形の軍団はまっすぐこの砦を目指している。

 シリカ族の居留地からこの砦に来るまでの間、オレはあちこちで胞子をばらまき、そそこら中に目茸(オレ自身)が生えている。

 そんなオレの分身の見ている光景に意識を集中させ、影の魔眼で極限まで気配を消しながら連中の様子を窺う。

 死人の兵士の歩みに合わせているせいか、それほど速くはない上、崖や障害物を迂回せず無理やり走破するような奇妙なルートを取っているせいもあってか連中の進軍速度は遅い。だが着実だ。

 死人は昼夜を問わず進むが、ソレに付き従う獣たちは休んだり、狩りをするために少し離れることがあったが、すぐに死人に追いつき合流する。

「死人は疲れ知らずのゾンビのような不死者(アンデッド)。獣たちは異形ではあるけど一応生物なのか?」

--離れた獣を各個撃破するか?

--現地のキノコ(オレ)だけでか? 倒しきれるか?

ーーそれもあるが、()()が敵だと連中に認識されたら動けないこっちは一方的に狩られかねない

--そんな知恵があるか?

--無いという根拠がないだろう

--それもそうか

--オレ達の“バックアップ”を危険に晒すことは避けたいな

--いまのことろシリカ族居留地とこのノーマンズランドの一部にしかないからな

--世界中にオレを生やさないと

--そうなったら絶対殺されないじゃん

--どうかな? だってオレ達って美味しいじゃん

--あ、食いつくされる

--ありそうww

 と、ついつい思考が寄り道してしまう。

 オレは未だに今後の方針を決めきれずにいた。

--……逃げるなら早い方がいい

--モーリになんて説明する

--説明の必要はないだろう。眠らせれば

 それはそうなのだが、どこかでウソがバレればモーリに嫌われてしまうかもしれない。


 ゾクッ


 まるで魂の底に冷たい手が触れたような悪寒を感じ、存在しない身体を震わせる。

「どうすればいい……」

 そんな風に思案していると、モリィがモーリに伝言を持ってきた。

「エファ様からだよ。今晩、食事に招待したいってさ」


今更だけどモリィさんの名前、失敗したな。モーリと被る(本当に今更w)

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