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(18)見せたいもの

 数日に一度の薬草採取(おしごと)以外は暇なメメンとモーリ(オレ達)は、今日も今日とて、砦の外に遊びに行く。

「今日は空模様が怪しいから早く帰れよ」

「うん!」

 顔見知りの門兵の声掛けに元気に答えながら、モーリは走る。

 初めは自分の手足の扱いすらちぐはぐな感があったが、少しづつ身体を動かすことに慣れ、駆け足のフォームも様になってきた。

 また、不健康そうな顔色もだいぶ良くなり、少しづつだが肉もついてきていた。

--今のモーリきゅんもきゃわいいけど、ぷっくりほっぺになって欲しい

--コロコロでも、シュッでも、モーリ君なら愛せる

ーーめ、メイド服とか、似合うんじゃないかな

--おい、こら、やめろ。これ以上俺の性癖を惑わすな!

--こっち来ようよ~ 飛び越えちゃえばラクだよ~

--やめろ~

 モーリガチ勢にも少年系と男の娘系がいるが、最近、後者の浸食が激しい。オレ? オレはほら……ノーコメントで……。

--まー、でも、モーリが着たいなら、好きなモノ着せたやりたいし、好きなことさせてやりたいよなぁ

--それな

 そんなこんなで、砦から見えないところまで来たところで、影の魔眼でモーリの影に隠れていた怪球(オレ)が飛び出す。

「メメ~ン」

 モーリがドッチボール大のオレに抱きついてスリスリする。ああ、モーリのハグ、いい。

「今日はどうする?」

「モーリは何したい?」

「ん~、昨日と違うこと」

「そうきたか。う~ん、そうだなぁ。あ、そうだ」

 オレは(とお)の魔眼で周囲を探し、目当ての物を見つけた。

「よし、こっちだ。ちょっと離れてるからオレに乗っかれ」

 ドッチボール大から軽自動車大にまで膨らんだ怪球の上に、念力で持ち上げたモーリを乗せて移動する。

「どこ行くの?」

「着いてからのお楽しみ」

 もったいぶったオレに、メメンの意地悪~、などと言っているがワクワクしているのが丸わかりだ。愛いやつめ。

「そろそろ着くぞ。モーリ、目を閉じていて」

「なんで?」

「その方が楽しいからだ」

「うん、わかった」

 そういって目蓋を閉じるモーリ。

 モーリの右の瞳は無く、そこには薄青色のシリカの花が咲いている。最近のモーリの体調がいいせいか、心なしかシリカの花も元気に見える。

 一方の左の眼孔にはオレの分身である目茸(めだけ)が植わって、モーリの目の代わりをしている。

 その力を遮断すれば、モーリは何も見えなくなるが、そんなことはせず、モーリの意志を尊重する。

 モーリはオレの言う通り目蓋を閉じて視界を遮断する……が、そっと目を開いて見ようと試みるが、いやいや、と小さく頭を振ってぎゅっと瞼を閉じた。

 そんな少年の一挙手一投足にオレは小さな喜びを感じる。

「よし、いいぞ」

「! ………………………ふわぁ!」

 目当ての場所に到着したオレの言葉に、モーリはパッと目を開き、そして言葉を失う。

 モーリの目の前に広がるのは一面に広がる色とりどりの花畑。

 森の木々の隙間に自然にできたものだから、広さとしては大したことは無いが、それでも様々な色の花が競い合うように咲くさまはなかなか見ごたえがあった。

 口を半開きにして固まったモーリは、しばらく花を見つめていた。

「……ねえ、メメン。なんかこの辺が苦しくって、でもイヤじゃなくて、何かがグゥッてなるの。変なの」

 瞳を持たないモーリの涙腺から、涙が一筋流れた。

「キレイなモノを見ると、そうなるんだ」

「キレイ? キレイってなぁに?」

 む。なかなか哲学的な問いだな。うーむ、どう答えたものか。

「……世の中にはいろんなキレイがあるんだ。いま、モーリは沢山の花を見て感動しているんだ。そんな気持ちになるモノがモーリにとってのキレイなんだ」

「ボクの、気持ち?」

 モーリは自分の胸に手を当てながら、しばらく花畑を見つめていた。


 …………………………………………


「よおっし、ちょっとやってみようか」

 オレは念の魔眼……でトライしたが上手くできなかったので、キノコを生やして、それを長と動、更には操の魔眼を駆使してキノコを指のように細やかに操り、花を摘んでいった。

「どうするの?」

「まあ、見ててご覧」

 オレは花の付いた茎をちぎり、一方の茎をくるっと巻き付け、更に新しい花を加えながら次々編んでいく。最後には端と端を繋いで円形に編み上げると……。

「ほらできた。花かんむりだ」

「ふわぁ、すごい」

 オレは花かんむりに見入るモーリの頭に載せてやる。

「えっ?」

「これはこうやって頭に乗っけるんだ。(かんむり)だからな」

「偉い人が載せてるやつ?」

「そう、それ」

「ええ、だめだよ、ボクなんかがそんなの」

 慌てて冠に手をかけるが、オレのキノコがそっとその手を押さえる。

「いいんだよ。これは遊びなんだから」

「でも、ボクなんかが」

「自分のことを“なんか”なんて言うな」

--グサッ!

--あ、結構、自爆かも、これ

 おい、いま真面目な話してるんだから茶化すな、ったく。

「で、でもぉ」

「……そっか。モーリが“モーリなんか”だったら、モーリと友達のオレも“メメンなんか”だな」

「違うよ! メメンは違うよ」

「でもオレ達トモダチだろ? どっちが上とか下とかなく、対等なトモダチ。だよな?」

「うん!」

 全身を使って大きく頷くモーリ。

「じゃあ、モーリ“なんか”なら、おんなじオレだってメメン“なんか”だ」

「違うよ。メメンは違うよ。メメンはすごいんだから。ボクをいっぱい助けてくれてる」

「オレだって同じ気持ちだ。モーリはオレの大事なトモダチだ。お願いだからオレの大事なトモダチのことを“なんか”なんて言って貶めないでくれ。そんな事を言われると、悲しい」

「あっ」

 モーリはハッとしたような表情をした後、うん、と大きく頷いた。

「うん、ごめんなさい、メメン」

「オレこそごめんな。説教くさくなっちゃって」

 それに大きく(かぶり)を振るモーリ。

「ボク、ガンバル。メメンの自慢のトモダチになれるようガンバルから!」

--くっ、いい子

--年取ると涙腺が緩くなって溜まらんわぁ

--いや、涙腺ないけど

 おまえら、黙れ。


 その後、モーリも花かんむりを作り怪球(オレ)に乗せてくれた。

「うむ、余は満足じゃ」

「あははははははははっ」

 オレの王様キャラがツボったらしく、モーリは腹を抱えて笑い転げていた。


 ポツ


「あ」

 そんな風に楽しかったので、ついつい失念していた。

 いつの間にか空は暗くなり、ぽつぽつと雨が降り出してきた。


      *     *     *


 オレ達は大きな木の下で雨宿りをすることにした。

「やまないな」

「やまないね」

 ドッチボール大の怪球(オレ)と、オレを膝の上に乗せたモーリは、ぼんやりと雨に濡れる花畑を見つめていた。

 世界の音がザーザーという細かな雨音(ノイズ)に掻き消され、静かでさえあった。

 ここから砦まで、歩いていったら3時間はかかるだろうが、怪球で飛んでいけば小一時間といったところだ。

 無理を押して行ってもいいが、モーリが風邪をひくと困る。

 風邪ぐらい、とオレの中の人たちが主張したが、やはりオレの中の別の人たちの反対がありムリは避けることを決めた。

 と、言うのもこの世界の医療水準が判らず、風邪への対処が純粋な体力勝負となった場合、モーリのそれにはまだ不安があったからだ。

「最悪、ここで一晩明かすからそのつもりでいろよ」

 火の魔眼でオレ自身(キノコ)を燃やして暖を取りながらモーリにそう念押しする。

「あふ」

 食事は目茸(オレ)の焼き物 (味付け無し)で済ませたモーリが小さな欠伸をする。

「寝ちゃっていいぞ」

「うん、おやすみ、メメ、…………すぅ」

 モーリの周りにフカフカのキノコをたくさん生やし、クッションのように受け止める。

「おやすみ、モーリ」


 …………………………………………


「ん?」

 モーリの動く気配にオレの意識が覚醒した。

 そう、キノコのオレも寝るのだ。肉体?的には寝なくてもよさそうだが、オレの精神はそれを必要としていた。

 とはいっても意識をフラットにするだけな感じなので、わずかな刺激ですぐに覚醒できる。

 モーリが夜の暗闇を見つめていた。

 オレ(モーリ)の目はある程度、闇を見通すこともできるが、その視線の先には何もないように見える。

 寝ぼけているのか?

 そこまで考えて、オレは気づいた。

 モーリは何かを見ているわけではなかった。何かを聞いていたのだ。モーリの視線……というより顔の向きは意識を向けるためだけにすぎないのだ。

 オレは(とお)の魔眼を使い、モーリの視線の先を追った。

 1キロ、5キロ、10キロ……

「! これか」

 それは奇妙な光景であった。

 オオカミや熊、兎にイノシシなど、ありとあらゆる森の獣……捕食者と被捕食者が仲良く並んで進む不思議な獣の群れが居た。

 そして、その獣たちには一つの特徴があった。

「あの時と同じだ」

 背中にヒト型の上半身を生やした獣や、逆にヒトっぽいフォルムになった獣など、明らかに普通の獣とは違う異様な姿をしていた。

 一部にはブヨブヨとした不定形のモノに憑りつかれた獣も交じっている。以前遭遇したイノシシと同じなら、やがてあのブヨブヨがヒト型に変化していくのだろう。

 そして異形の獣たちを率いる先頭には、やはり異形のヒト型がいた。

 剣を携え、鎧を着こんだヒト型。しかし喉が裂け、脳髄がむき出しとなり、どう見ても生きているとは言えない姿でありながら、確かな足取りで獣たちを率いるように進んでくる。

 そんなブヨブヨに憑りつかれた生ける死者の姿にオレは見覚えがあった。

「あの鎧。確かシリカ族の調査に向かった兵士たちのものだ」

 ふ、と死人の兵士が顔を上げ、遠の魔眼で覗き見るオレと目が合う。こっちが見えるのか?。

「かはぁっ」

 死人が口を開け、何かを食いちぎるような仕草をした途端、遠視が断ち切られた。

 一体だけでも手こずった奴らの大群。更には見えないはずのオレの魔眼を察知する能力を持っている。

「……これはモーリには見せないようにしておこう」

 オレは幼子を不安にさせないため、目をつぶることにした。


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