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(16)目指せ安定収入

 翌日、オレ達はギルダーからそれなりのまとまった金額の褒章を貰った。少女城主エファが戦場泥棒の不問とか言ってたからそれでお茶を濁されるのかと思ったけど、他にちゃんとくれたことにちょっと驚く。

 また、期限付きの入城許可証が滞在許可証に改められた。城主エファの名の下に発行されたもので、権威としては一番上等なものらしい。

 但しそれは既に出発したシリカ族に対する調査隊が戻るまで期間限定のものであり、また、逆にそれまでは砦から離れることが禁じられていた。

 貰った報奨金だけでも、その間は宿に泊まれそうだったが、今後のことを考えるとなるべく余裕を残しておきたい。

「仕事を探さないとな」

 そう、貯蓄を切り崩すだけの生活は心細いのだ。安定収入があるだけで安心感が段違いなのです。

「おしごと? 鉱石を探すの?」

 シリカ族の下ではずっとそれをしていたモーリにとって、仕事とは鉱石を探すことだ。

「うーん、どうすっかな……そうだ! モーリはモノの声が聞こえるって言ってたけど、それってどんな感じなんだ? オレの声は聞こえてるわけだが、他の人、例えばダードの心は判るのか?」

 食堂で宿の親父(ダード)の方を見るが、モーリは首を振る。

「心はわかんないよ。聞こえるのは声だけだもん」

「じゃあ、誰の言葉……声が聞こえるんだ?」

「メメン」

「他に」

「んっとね、ここだとあんまり聞こえない。この机とか、床とか、もう死んでるから、喋れないんだ。あ、でも死んでも新しくなることもあるよ。でもここはまだ新しいからまだ声が出せないみたいなんだ」

--よく判らん

--あ、じゃあさ、草や木の声は聞こえるの?

「聞こえるよ」

 なるほど。じゃあ、薬草採取とかいいかもな。あ、でもその前に、あれをやっとかなきゃな。

「?」

 ボロをまとったヒョロヒョロガリガリの少年が不思議そうに小首をかしげた。


 …………………………………………


 オレ達は万屋兼両替商のモリィさんの商店にやってきた。

「こんにちはぁ」

「あら、いらっしゃい」

 女店主が浮浪児然としたモーリを笑顔で迎える。店内にいた他の客がその様子に怪訝な表情を浮かべていた。

「今日は何だい?」

「んっと、服をください。あと、丈夫な靴」

 モーリが着ているのは粗末な貫頭衣で腰のところを縄で縛っているだけである。オレのイメージではホームレスと言うより乞食、乞食と言うよりおこもさんと言った格好だ。無論素足。

「生憎と子供用の服は無いんだよ。ああ、でもルル族の物を詰めればいけるかな」

 ルル族とは小型のヒト族のことであるらしいが、この砦にはいない。ホビ〇トみたいなのものだろうか?

 モリィさんはオレの考える“普通の”人間であり、この砦の大半の人もそれだが、それ以外の者たちもそれなにの数が居た。

 人間よりも背が高く、耳と目が尖ったト〇ル〇ンタイプのエルフっぽいハール族や、直立した犬っぽいボルト族などなど。

 そしてオレ基準の“普通の”人間の中にも、鑑定してみるとプレン族やガド族などに分かれており、鑑定上は別種族扱いのようだが、正直、何がどう違うのかよく判らない。

 モーリもモノの声を聞くという特殊能力を持つ以外、普通の人間に見えるが、ダヌ族という、また別の種族だ。

「靴はこれ。ちょっと大きいけど足を合わせな」

 皮でできた靴を出すモリィ。更に皮の端切れを幾つも取り出す。

「あしをあわす?」

--靴と足の間に皮を詰め込んで隙間を埋めるんだ

--布とかあればそれを巻いた方がいいんだけどな

「布ってあります?」

「なにするんだい?」

「えっと、足に巻く、?」

 モリィに笑われてしまった。

 新品の服に比べれば安価だが、布自体が高価で生成りの布などは生産地か仕立て屋の多い都市部でないとなかなか手に入らないそうだ。

「一応、少しは在庫があるけど、大体みんな、中古の服で済ますもんさ」

 モーリはモリィさんの指導で靴を合わせ、外から革紐でぎゅっと縛って足に靴を、いや靴に足を固定した。

「すごい。歩いても全然痛くない」

 本当にうれしそうに言うモーリに、オレは思わず涙する。あ、モリィも客も涙ぐんでる。

 ズボンはルル族の物だが、それでも大きいので裾を詰めて(モリィさんがやってくれた)腰ひもをぎゅっと縛って固定する。大きくなったら裾を調整して伸ばしていけばいい。

 上着は大人用のもの、そのままだ。ダボっとした格好で袖をまくっているが、それでも長すぎていわゆる萌え袖状態になっている。

--きゃわいい

--ごちそうさまです

--もーりきゅううん

 オレの中のお姉さま方には好評なようだ。一部にイケない扉を開いてしまいそうなおっきいお兄さんたちもいるが……

--はっ! 腐気を感じる

 そんなこんなで、モーリの服装を整えたら、今度はお仕事だ。さ、モーリ、モリィさんに聞くんだ。

「う、うん。ボク、ガンバルよ」

「? どうしたんだい」

 この辺境で商店主と言う一国一城の主として切り盛りしている女主人が、優し気な笑顔を浮かべる。普段の彼女を知る者たちは皆、幻覚でも見ているのかと眼をしばたかせる。

「この辺で、木の実とかやく草とか、さいしゅ、? できるお仕事って何かないですか?」

「採取って、まさか砦の外に出るつもりかい?」

「うん!」

 元気に答えるモーリ。と、そこに、

「兄貴ぃ、いやすかぁ」

 ギョロ目のギョローメが乱暴に商店に入ってきた。チンピラかと思ったがこれでも兵士らしい。

「おまえかぁ!」

 モリィさんが麺棒をブン、と音が鳴る勢いで投げつけ、ギョローメの顔のすぐ横を飛んでいく。

「へっ?」

 驚きのあまり硬直するギョローメの襟首を掴む女店主(モリィ)

「この子が砦の外に採取にいくとか、そんな危ないこと、ダメに決まってるのに、ダメなのに、危ないのに……お前の入れ知恵かぁ!」

「ギブ、ギブ!」

「モリィさん、モリィさん、ちがいます。メメンとモーリ(ボク)で決めました。ギョローメさんは関係ない人です」

 ポイっとギョローメを捨てたモリィはしゃがんでモーリと視線を合わせる。

「ほんとう?」

「ほんとうです。大丈夫。メメンは強いんです。どんとこいです」

 メメン(オレ)を信じてくれるのは嬉しいけど、はたから見たら子供が根拠なくメメン(自分)は強いと言っているように見えるよな。

「おい、ギョローメ」

 モリィさんがドスの聞いた声で鼻つまみ者のチンピラ兵士を呼ぶ。

「ああん? 何様のつもりだこのどブス。ひぃ」

 振るわれた麺棒がチンピラの鼻先で止まる。

「モーリ君についていけ」

「あ、あのう、オレにも一応仕事が」

「ああん!?」

「サーセンしたぁ、姐御ぉ」

 いきなりモリィさんの舎弟になるチンピラ、ギョロ目のギョローメ。押しに弱いなコイツ。ちょっと親近感出てきたぞ。


      *     *     *


 冒険者(アドベンチャラー)

 そう呼ばれる者たちは多いが明確な定義があるわけではない。

 共通しているのは、誰に命じられたわけでもなく危地に自ら飛び込み、一攫千金を狙う命の安い山師どもであった。

 中でもヒト族、即ちマンカインドの住まう領域の外、ノーマンズランドに挑む冒険者は飛び切り頭のネジの飛んだ阿呆どもであった。


「そんでここ、ブルーブロッサム砦はノーマンズランドとの境界を守る砦っす。つまりここより東側はノーマンズランド……魔の力が強すぎてヒトが住むのに適さない魔境っす。その分、貴重な物も手に入るんで、一線超えたアッチ側の冒険者たちにとっては最前線っす」

 ギョローメの言葉にオレは疑問を覚える。するとその疑問をすかさずモーリが聞いてくれる。

「シリカ族はノーマンなの?」

「いや、シリカ族もヒト族(マンカインド)っす。ただ、その繁殖方法から他種族との軋轢が耐えなくて、ノーマンズランドに逃げてったらしいっすね」

--なるほど。

--自分の家族を犠牲に繁殖する種族ならば排斥したいというのは自然なことだ

--生存競争に敗れて、より過酷な土地に活路を見出したのか

--シリカ族の存在自体邪悪だと感じたけど、こうして聞くと哀れなものだな。

「じゃあ、“ま”ってなぁに?」

「魔は魔っす。世界を闇に沈める力、命に反する力、とかなんとか。むかし、魔の王が世界を滅ぼしかけたって話もありやす」

 よく判らんが、ここより東は、そういう危険な場所なんだな。早いとこ移動しといてよかった。

 今日はギョローメを伴って砦の外に出ていた。

 城主から定められた砦への禁足は、基本、旅立つことの禁止であって、一時的な外出なら問題ないとのことだった。

 実は砦において薬草などの採取の需要は高く、砦の兵士が定期的に採取しているそうだ。

 魔の力が強いこの地では、その分、高品質な薬草が採れるというのだ。

 しかし、こんな辺境まで来るような頭のオカシイ“アッチ側”の冒険者たちは、そんな素人に毛が生えた新人がやるような薬草採取(仕事)を請け負ったりはしない。

 そこで砦では兵士にそうした採集任務をさせており、ギョローメはそうした外向きの仕事を主に担う半冒険者のような立場らしく、重宝されるているため、ある程度の行いは目をつぶられているらしい。

「とは言っても、近くの主だったところは採り尽くしちまってるんで、もうそんなに残ってないっすよ、っとあったっすね」

 そう言ってギョローメが薬草を見つけると、茎を持って無理やり引っこ抜き、茎から千切れた薬草を無造作に袋に放り込む。

 なぜか、その光景を見てモーリがブルブルと震えている。どうした?

「薬草さんが、ぎゃああああああっ、って言って。今もシクシク泣いてる」

 うわぁ、とオレの中の人たちが引いてる。ん、まてよ?

「……うん、うん、判った。ギョローメさん。薬草は茎が必要なんですか?」

「ああん!? っと、ああ、えっと」

 一瞬、いつもの癖が出て凄んで見せたがすぐに声のトーンが落ちた。

「いや、必要なのは葉っぱっすよ。砦の薬師どもがちまちま選り分けてやがる」

 って、アホか。

「あほか?」

「ああん!?」

「『あっ!?』」

 モーリに凄むギョローメに、オレ(モーリの左目)が凄み返す。

「な、何でもないっす」

「メメーン。何がダメなの?」

 凄まれたのにまったく気にしていないモーリがこてん、と首をかしげてオレに聞いてくる。

「『……根と茎、それに若葉を残して、ある程度育った葉だけ選んで摘めば、またしばらくしたら採取できるだろう。そうすれば採り尽くしてしまうことなく、新しい群生を一々探さなくてもよくなる』。ふぅん、じゃあ、ボクはそうするね」

 (そう)の魔眼でモーリの口を借りて説明するオレ。

「よく判んねぇ」

「じゃあ、今度はボクはギョローメさんに教えてあげる。見ててね」

 そう言って、モーリは目蓋を閉じ、何かを聞き取るように集中し始めた。やがて、

「こっちから声がする」

 そう言って無造作にさっさと歩きだす。丈夫な服を着ているので、枝で肌を傷つけることもないが、ボロをまとい、素足でいる頃からモーリの動きは無造作で、自分の身体が傷つくことをあまり気にしていないように見えた。

 そして、モーリが行った先、ヒトの通った形跡のない木の陰に先ほどと同じ薬草が生えていた。

「ん~と、これと、これ。あとこれ」

 モーリは薬草の葉から、いくつか選んで葉を摘まんで採集していく。初めてなのにためらいが無く、モーリが選ぶ葉は不思議と葉の根元を持って軽く引っ張るだけでポロリときれいに取れた。

「はい、終わり」

「いや、まだいっぱい残ってるっすよ」

「それは採っちゃダメ。こっちは採ってもいいから採ったの」

 腰に手を当てて、ちょっと偉そうな態度でギョローメを叱るモーリ。うん、かわいい。

 しかし、納得できない様子のギョローメ。

 もしかして薬草がそう言ったのか?

「うん。こっちはもう大きくなりすぎたから採って欲しいって。で、こっちのちっちゃいのは、これから大きくなるからダメなんだよ」

 ちっちゃいのが大きくなったら採ってもいいのか?

「うん? うん。そうだって言ってる」

 やはり納得できないギョローメ。仕方がない。

「『ギョローメ』」

「ひっ、は、はい!」

「『この大きな葉で問題ないか?』」

「あ、はい。大きくて色の濃い方が癒しの魔力が強いらしいっす」

「『じゃあ、こういう大きい葉だけ選んで採るようにしろ』」

 露骨に面倒そうな表情を浮かべるギョローメ。まったく。

「『そうすればこの薬草はそのまま育つ。またしばらくしたらこの小さな葉が採りごろになってまた採取できるようになる。それを繰り返していけば一々探し回らなくても安定して薬草が手に入る』」

 イマイチうまく理解できていない様子のギョローメ。

「よくわかんねぇ」

「『仕事は楽で、儲けはガッポリ』」

「わかりやしたぁ!」

 うん、素直でよろしい。

 その後、モーリのモノの声を聴く力のお陰で、更にいくつか手つかずの薬草の群生を見つけ、持ってきた袋いっぱいに大きく育った薬草の葉を集めた。そしてその半分をモーリはギョローメに渡す。

「……これ、もらっちゃっていいんすか?」

「うん。ギョローメさん、今日はありがとう。メメン、いいよね?」

 ああ、モーリがそうしたいなら好きにしろ。

「うん、好きにする」

 毒気を抜かれたような顔のギョロ目のチンピラをこっそり伺い、オレは内心ほくそ笑む。

--はぁ、モーリきゅん、尊い

 中の人の言葉はオレの気持ちを正しく表してた。

 そうして持ち帰った薬草はモリィさんにそこそこいい値段で引き取ってもらった。薬草から回復ポーションを作って冒険者に売るそうだが、需要と供給の関係でその値段でも十分に大きな儲けになるとホクホク顔であった。

 うん、今後の安定収入が見込めて、オレもほっと一安心ですよ。

「メメン、お肉食べていい?」

 おう、大盛りいっとけ。但し野菜も同じだけ食え。

「え~、お肉だけでいいよ。あと、柔らかいパン」

 ダメだ。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ。

「なれなくたっていいもーん」

 だ~か~ら~

「あははははははははっ」

 傍から見たら一人ではしゃいで、一人で笑っている子供を、砦の者たちは微笑ましく見つめていた。


ちょっとした気まぐれで始めたタイトルネタ。ちょっとツラくなってきたw

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