(11)目で味わう
前話を同時投稿しています。そちらを先にお読みください
どうも。目茸です。
オレ自身がヒドイ匂いであることに気づいて、オレの中の人一同、打ちひしがれております。
ちなみにそんな俺のステータスがこれ。
種族:目茸 (変異種)
食材ステータス
味:★3
香:★4
栄養:☆2
総合:★3
ふむ、つまり黒星はマイナス評価と言うことだな。満点は星いくつだろうな?
オレの中の独身中年研究職さんが冷静に考察を進めている。強い……
研究室にこもると一週間ぐらい風呂に入れないとか普通だったからな
潔癖ひきこもり少女が今にも死にそうな悲鳴を上げた。あきらめようね、オレ達もう一心同体だから。
キノコの臭いは、汚れではなく、そのモノの特性だ。ならば簡単だ。品種改良すればいい。
品種改良ってどんだけ時間かかるか
何のための魔眼だ?
そっか、長の魔眼で成長促進!
でもそもそも臭いの少ない個体をどうやって選別する?
そこだよなぁ
う~ん……………………
あのぅ
前世では誰とも喋らず、喋り方も忘れてしまったような潔癖ひきこもり少女だが、内心でならば自然に言葉を発することができた。
臭の魔眼をパッシブでなく、アクティブで使えないかな?
それだ!
オレは胞子の一つに臭の魔眼でその香り成分に干渉した上で長の魔眼で急速成長させた。
「どうだ、鑑定!」
種族:目茸 (変異種)
食材ステータス
味:★3
香:★2
栄養:☆2
総合:★2
星が二つ減った。臭いが改善されているんだ。
「よし、育ったこいつの胞子を使って更に臭の魔眼を使うぞ」
ちょっとまったぁ
どうした、いきなり。
これ、どうかな?
舌の魔眼。それは目で味わうという使いどころに乏しい魔眼。
これの性質って臭の魔眼に似ているよね? だからこっちもアクティブで使えないかな?
天才か!
…………………………………………
……ちょっと熱中しすぎた
朝チュンならぬ、ぎゃあぎゃあと言う鳥の鳴き声で夜が明けたことに気づいたオレ。
ちなみにモーリ少年ならオレの横で寝ているよ。
だが努力の甲斐あり、膨大なエネルギーを浪費した品種改良によって、オレはついに一つの高みに到達した。
種族:おいしい目茸
食材ステータス
味:☆5
香:☆5
栄養:☆5
総合:☆5
解説:魅惑のかほり、陶然なる味わい。煮て好し、焼いて好し、生でもいける最高金賞受賞間違いなし。笠の目玉に似た部分には各種栄養がつまっています。
香りマツタケ、味シメジ、というがオレは両方を兼ね備えた至高の食材の座をゲットしたぜ。ついでに種族名まで変わっちまった。新しい品種として認められたということだろう。
オレは美味しく品種改良できた自分を串に刺し、火の魔眼であぶる。
わかる、わかるぞぉ。見ただけで判るこの旨さ。まさに至高の一品
魔眼の力で味が見て判るから最適な焼き加減もお手のものだね
焼いているキノコからぽたり、ぽたりと液体がたれる。
ああ、もったいない。あれ、ぜったい美味しいやつ
調理法に工夫が必要だな
醤油が欲しいな
バターソテーもいいな
じゅるり
「うん?」
キノコの焼けるいい匂いに、少年が目を覚ました。合わせてお腹がきゅうっと鳴く。
「ちょうど食べごろだ。食べてみろ」
「これって……いいの?」
「そのために焼いたんだ。食べてくれないなら捨てるしかない」
んきゅっ、と少年が小さく唾を飲み込む。
「いただきます」
幼少の頃よりシリカ族の奴隷とされていたが、妙にお行儀の良い少年はそう言って串に刺さったオレに頬張りつく。
「…………………」
うまいか、と聞くまでもない。焼きキノコにむしゃぶりつき、目玉の中まで吸い尽くし、あっという間に一本食べてしまった。
それを見てオレは笑う。
「むぅ、なんですか」
「次が焼けているぞ。まだ食べられるか?」
「うん!」
その日、少年は生まれて初めて、お腹いっぱいになった。
そして疲れ果てて意識を失うように寝るのでも、空腹を紛らわせるために寝るのでもなく、満腹になったお腹を抱え、守ってくれる存在のそばで安心して眠りについた。
* * *
……ちょっと、やりすぎたかな?
オレ自身の品種改良のために、シリカ族との戦いで得た栄養の大半を使い切ってしまった。
エリクサー症候群の一部のオレは何やら悶えているが、オレとしては悪くないと思っている。
すきっ腹に抱えていた昨日とは異なり、満腹になってお眠になった少年の寝顔を、オレは優しい気持ちで見下ろす。
オレの胞子=エネルギーをどんどん使用し、身体の大半が品種改良されたオレに入れ替わっている。今のオレはもう“臭い”なんて言わせないぞw
シリカ族の居留地に生えていたキノコも、大半、品種改良のためのエネルギーで使ってしまったが、少し残っている。
これはそのままここに残し、いざというときの保険としておこう。
エネルギーは心もとなくなったが、身軽にはなったし、何より食料の問題も解決できた。
「うん? メメンさま?」
「起きたか、少年」
「うん」
ふわぁぁ、と大きく伸びをするモーリ少年。すると、ぷくっ、と少年の頬が膨らんだ。かわいい。
「どうした?」
「メメン様。ボクのことは“少年”じゃなくてモーリって呼んでください。なんか……やだ」
モノの声を聞く彼にとってはオレの台詞も地の文も同じように聞こえるらしい。主たるオレの発した台詞に比べれば小さく、聞き取りにくいらしいのだが。
「ん~、あ~、そうだな」
そこまで考えて、ふと思いつく。
「じゃあ、少年。キミもオレのことをメメン“様”って呼ぶの禁止な」
「えええええええっ、ダメですよ。だってメメン様はボクの恩人で、助けてくれて、ご飯だってくれたのに。ダメです、ダメ!」
「それを言ったらオレだってキミに助けてもらったんだ」
そこでオレはちょっと意地悪く言う。
「オレ達、“トモダチ”だろ?」
しまった。言ってて自分で恥ずい。
「メメン、……さん」
「さんも禁止」
「じゃあ、じゃあ、メメン様が先に言ってください。そうしたら」
「わかった、モーリ」
「ううううううっ」
あっさりオレに言われて、唸る少年、じゃなかったモーリ。
「……メメン」
「応」
「メメン」
「なんだ、モーリ」
「えへ、えへへへへへへへへっ」
少年は楽しそうに笑い、ドッチボール大のオレに抱き着いた。
「メメン、いい匂い。ボク、メメンのこと、大好き!」
オレの中のモーリガチ勢が興奮のあまりぶっ倒れた。
ボクの顔をお食べ
続きはまあ、なりゆきで。次回は街に行く(予定)