(10)目にくる臭気
地下深くからの脱出を果たした目茸の化け物メメンと、シリカ族の元から自由になった少年モーリは、きれいなモノを見て回る観光旅行への旅立ちを決意する。
おそらく別の世界から召喚、転生してきた化け物も、生まれた時から奴隷だった少年も、どちらもこの世界のことは何も知らない旅の初心者。
はてさて、どうなることやら……
* * *
「はてさて、どうしたものかな」
モーリ少年は木陰でお昼寝している。
先ほどまで初めての“見る”と言う経験と、文字通り初めて見る様々なものに興味を持ってウロチョロウロチョロしていたので疲れてしまった。
モーリきゅん、尊い
子供を見る親の視線ってこんななのかな
常ならば腐敗臭漂うチーズケーキのような会話に勤しむオレの中の連中も、モーリ少年に対しては、まるで縁側で孫を見つめるジジババの如き達観した視線を向けていた。
「おまえら、いつもみたいにhshsとか言わないわけ?」
……ものすごい罵詈雑言が返ってきた。ちょっとコワいんですけど。
いまのオレはドッチボールサイズの胞子団子にでかい目を一個と数本の触手を生やした状態でフヨフヨと浮いている。
重の魔眼で重力を打ち消した上で、動の魔眼で動いている。膨大なエネルギーはモーリ少年の左の眼孔内にため、そこにもオレ、つまりキノコを一本植えてある。エネルギーの保管管理兼少年の目の代わりだ。
く~
可愛らしい音が響く。
すぅすぅ寝ている少年のお腹の音だ。
今、胞子団子で作った俺の分隊を飛ばして、シリカ族の居留地で使えそうなものを探しているが、望み薄だ。
後先考えないで全部栄養にしちゃうからでしょ
面目次第もございません
そう、かつてシリカ族が住み、多くの人間の襲撃をはね退けてきた洞窟は全てオレが美味しくいただきました。
貨幣や宝石っぽいものや使えそうな道具類は回収したが、それ以外は軒並みキノコを生やして栄養素を根こそぎエネルギーに変換してしまった。
kkkk、キノコ生えるk
なにそれ?
新しい笑い表現
流行んねーから
オレはエネルギーが潤沢にあるが、少年は食べないわけにはいかない。
「はてさて、どうしたものか」
……なあ、しってるか
なにが?
目玉は必要な栄養素が全部詰まった完全栄養食って話
……赤ん坊のお乳の代わりに自分の目玉を吸わせる、ってやつ?
火を通せばいけるか?
醤油が欲しい
でもオレ達って……毒キノコっぽくね?
オレは赤みがかった黒いキノコである。その分、目玉の白さが目立つが、瞳は同じ赤黒い色だ。
こういう派手な色の奴は確かに毒キノコっぽい。
ま、なんにしてもこういう時は実践あるのみ。
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てってけてけてけてってってー
やめろ、JA〇RA〇さんが来る
ここまで集金に来たらむしろ関心するわー
と、いうわけでお料理タイムである。
まずはオレ自身である目茸を一本用意する。横では既に目覚めたモーリ少年もいる。空腹を訴える腹を手で抑えているが、泣き言一つ言わない。
2、3日食事を抜かれるぐらい、いつものことらしい。あ、こら、激昂するな、中の人。
「鑑定!」
鑑の魔眼でオレ自身の死体 (笑)を調べる。
種族:目茸 (変異種)
食材ステータス
味:★3
香:★4
栄養:☆2
総合:★3
毒とかはなさそうだ。だがなんか表示が増えてる。食材として見ているせいか?
それはともかく★と☆の違いはなんだろう。この中で一番確認しやすそうなのは……
「なあ、モーリ少年。オレのキノコの臭い、どう思う?」
「え、えっと、その、ボクは、キライじゃないよ?」
台詞が変態チックになってしまった。因みにオレは言葉を声を発することができないので、いまの会話はモーリのモノの声を聴く力を頼った念話だ。
しかし、モーリの様子から察するに本当のことを言っていない。
「仕方がない。素直じゃない子には……」
「な、なんですかメメンさまぁ」
オレは新たに火の魔眼を実績解除した。食材であるキノコを燃やそうとしたら、魔眼を発動したキノコの方が燃え出した。焦る。
どうやらこの魔眼。炎を飛ばしたりはできず、魔眼自体が発火するようであった。松明代わりになりそうだ。
オレは触手を伸ばして食材を焼いていく。
やがて火が通り、キノコの焼ける匂いが周囲に広がっていく。
「ん、どうした、モーリ少年?」
口元を押さえ、うずくまっている少年。
「あ、なんでもないよ、ほんとうだよ」
顔色が真っ青だ。そんなにか?
あ、臭の魔眼ってある
もしかして臭いを感じられるようになるかな?
そう意識した途端、魔眼の力が発動し、臭いを感じた。
「ぎやああああああああああああっ、目がぁ、目がぁ」
鼻の曲がりそうな悪臭を“目”で感じたオレは、激痛にのたうち回る。鼻の奥がツーンとする痛さを目で感じ、且つ鼻と違って臭いに慣れることなく痛み続けた。
しかも、魔眼の力をカットできない。どうやら一度実績解除すると常時発動するタイプの魔眼だったらしい。
「あー、くさいくさい、目が臭い、じゃなくて、目で臭い」
オレは念の魔眼で、オレだった悪臭放つキノコを遠くに放り投げた。するとそちらから、ぎゃあぎゃあと鳴きながら鳥が飛び立っていった。
「すまん、モーリ少年。さすがにあれは食えないか」
「え、たべる!?」
顔が引きつる少年。ホントーにすまん。
……わたし、臭かったんだ。マジショック
臭いとだけは言われたくなかった
オレの中の人たちも皆一様に打ちひしがれていた。
今日できたんでまとめてアップ。お盆休み中にもう一回ぐらいアップしたいけど、まあ、なりゆきで