(1)目だけとかあんまりだ
新作です
結構ノープランの見切り発車ですがよろしくお願いいたします
むかしむかし、あるところに魔法使いがいました。
魔法使いは思いました。
「そうだ。“さいきょう”になろう」
魔法使いはいっしょうけんめい勉強して、どうすれば“さいきょう”になれるのかかんがえました。
「そうだ。ぜったいコロせる魔法をおぼえよう」
でもテキがたくさんいたら、一人コロしたすきにコロされてしまいます。
「そうだ。ぜったいコロされない魔法をおぼえよう」
でも、ねているあいだにコロされてしまうかもしれません。
「そうだ。みんながわたしを好きになればいいんだ」
それはなかなかいい考えです。
でも魔法使いのことを大好きな“ようきゃ”にアソびかんかくでイジられて、コロされてしまうかもしれません。
「そうだ。うごけなくしてしまおう」
「そうだ。魔法をつかえなくしてしまおう」
「そうだ。武器をつかえなくしてしまおう」
「そうだ。相手ののうりょくをうばってしまおう」
「そうだ。そうだ。そうだ…………」
魔法使いはいっぱいいっぱい思いつきました。
でも、思いついた魔法をぜんぶ、自分でつかうのはタイヘンそうです。
だって、魔法使いは他人に見られていると、ことばにつまって魔法がつかえなくなってしまうからです。
「だれかかわりに“さいきょう”になってくれないかな……そうだ。“さいきょう”の“げぼく”をつくろう」
それはとても、とても、いいかんがえです。
だって、魔法使いのためにテキをコロし、魔法使いがねているあいだも魔法使いを守り、魔法使いのことが大好きでいっつもチヤホヤしてくれて、魔法使いのめいれいどおりにパシリもしてくれるような“げぼく”をつくればいいのです。
そして魔法使いは“げぼく”のうしろにかくれていればいいのです。そうすれば他人の目もきにせず魔法だってつかえます。
魔法使いはウキウキしながらじゅんびをはじめました。
まずは地のそこふかくに魔法をつかわなければ出入りできない隠れ家をつくりました。
その中に“げぼく”のざいりょうをしょうかんする魔法じんをたくさん書きました。
隠れ家はとても広かったけど、そのじめんすべてをうめつくすほどたくさんの魔法じんを書きました。
そのかず、98こ。
あとひとつか、ふたつ書けばちょうどいいかずになるのですが、もう書くところがのこっていません。
魔法で隠れ家を広くすることもできましたが、そうしたら魔法じんもいくつか書きなおさなければなりません。
それになにより、魔法使いはもうあきていたのです。
「ぜんぶ計画どおりだ」
魔法使いは、ヨシッ、と指さしかくにんしてから魔法じんをつかいました。
計画はせいこうです。
98この魔法じんから、98人のいせかい人がでてきました。
いせかいからきたものは、人でもどうぶつでもどうぐでも、みんなひとつの“おんけい”をもっています。
魔法使いは98人のいせかい人にいいました。
「みなさんにはこれからコロしあいをしてもらいます」
魔法使いは“こどく”をして、“さいきょう”の“げぼく”をつくりだそうとしていたのです。
(“こどく”がわからない人は、おうちの人にきいてね)
いせかい人はいいました。
「え、なんで?」
そうです。しょうかんされたいせかい人はアソびかんかくで人をコロす“ようきゃ”ではなく、こうどうにりゆうをもとめる“いんきゃ”だったのです。
“いんきゃ”なぼっち魔法使いが地のそこで、たったひとりで書いた魔法じんから、“いんきゃ”が出てくるのはとうぜんのことです。
魔法使いは、“げぼく”のざいりょうにすぎないいせかい人からろんりてきに“はんろん”をされて、フカくきずつきました。
魔法使いはロジハラされたショックで足をすべらせ、いわにあたまをうってシんでしまいました。
魔法使いがシぬと魔法のあかりもきえ、わずかなヒカリさえないしんのやみが地のそこをしはいしました。もちろん、いせかい人たちはだいパニックです。
魔法でしか出入りできない地のそこふかく、しんのくらやみの中、いせかい人たちは、ひとり、またひとりとシんでいきました。
そしてとうとう、98人のいせかい人は、ぜんいんシにました。
めでたし、めでたし。
* * *
真の闇が支配する地の底深くで99の命が失われた。
最初の一人はともかく、残りの98人は等しく同じことを求めていた。
--見たい
明かりがあれば、いや、見さえすれば98人が協力しあうことも、魔法使いの持つ食料や道具や魔法書を手に入れ、脱出の努力をすることもできたろう。
しかしわずかな光さえ存在しない閉ざされた地の底の空間で、98人はなすすべなく、その命を散らした。
事故死、自死、狂死、中毒死、餓死、衰弱死、などなど。
幸い、というべきか魔法使いの望んだ他殺によって死んだ者は一人としていなかった。
そもそも暗闇の中で他の人の居場所すらわからない状況で他人を殺すこと自体困難ではあるが、それでも一件もそうしたことが起こらなかったのは、召喚された人たちの気質故かもしれなかった。
そうして、召喚が行われてからひと月もしない内に地の底の閉鎖空間という名の“壺”の中に集められた生き物は全滅し、最強の下僕を生み出すための蟲毒は失敗した……かに見えた。
実は誰にも気づかれなかった百個目の生き物が壺の中に紛れ込んでいたのだった。
それは魔法使いの服に付着していたある生き物の素。それが99の死体を苗床にし、99の怨念を糧に壺の中に満ちていった。
--見たい
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移動や自己表現の自由を与えてくれる四肢や、音楽や料理など様々なメディアを楽しむ感覚器、他人とのコミュニケーションを円滑にしてくれる発声器など、人が必要としている機能は多岐にわたる。
しかし、その全てが失われ、たった一つだけ残るとしたらいったい何を望むだろう?
身体は動かず、音も聞こえず、味も匂いも判らない。そんなとき最後の一つに望むのは何であろう?
きっと人によってその答えは異なるだろうが、多くの者が見えることを選ぶのではないだろうか?
人の持つ最も根源的な感情は恐怖であり、恐怖の源泉は知らないことから起こる。
そして、見えないことは、とても怖いことだから。
--見たい
見えさえすればそれでいい。何も見えない暗闇の中では自分の身体すら失われてしまっているような錯覚さえ覚えた。
--見たい
死の最後の瞬間まで、目を見開いていたい。見えるだけでいい
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「なんて思っていた時期がオレにもありました。でもさぁ!」
オレは声を大にして言おう。
「転生したら“目だけ”って極端すぎんだろぉー」
九十九の命を吸った百個目の命。
地の底深く、瘴気に満ちた蟲毒の壷を埋め尽くす“目”は、不満を示すようにゆらゆらと暗闇に踊っていた。
1時間後に次話投稿予定